4-3-1.魔王城 玉座の間にて その1
Chapter - 3
魔王城の玉座の間では、新魔王が居並ぶ列強の諸将をその一段高い玉座から見下ろしていた。
あの3勢力を
新魔王は脚を組み、その組んだ脚に右
将軍たちはひとりも新魔王のほうを見ようとはしていなかった。新魔王と目を合わすのを避けていた。中には細かく震えている者までも。それぞれが強大な魔王軍の一軍を率いる大将軍だというのに。魔族としても屈強な肉体を持つ者ばかりだというのに。全員が小柄な新魔王を過度なまでに怖れていた。事情を知らぬ者が見たなら
純粋な魔力量だけで言えば、新魔王はあの“前魔王”の半分ほどしかなかった。それでも新魔王と将軍たちとの間には歴然とした力の差があった。しかし将軍たちが新魔王を怖れる理由を説明するには、それだけではとても十分とは言えなかった。
もし「力の差」だけが理由なら、より強大な“前魔王”に対しては
新魔王はあの戦乱を起こした3つの勢力を文字通りあっという間に打ち倒した。だがその戦いは「めちゃくちゃ」だった。いや、「めちゃくちゃ強い」と言いたいわけではない。もちろんべらぼうに強いことは強いのだが、戦い方が「めちゃくちゃ」だった。常識から外れていた。常軌を逸していたと言ってもいい。
人が相手を怖がるのはどういった時だろう。相手が自分がとても
では「自分よりずっと強い相手が何をしてくるのか分からない」そんな場合は?
新魔王の怖さはまさにそこにあった。まず数万の大軍に正面からたったひとりで立ち向かうなど頭がおかしいとしか思えない。人族の勇者ですらパーティーを編成するし、魔王軍との正面衝突はなるだけ避ける。物量の差というのは想像以上に強力なのだ。
だが単に大軍にひとりで立ち向かっただけではない。なので新魔王の戦いがいかに「めちゃくちゃ」だったか。3つの勢力との戦いのあらましをここで見てみるとしよう。なお当時はもちろんまだ魔王ではなかったが、ここでは便宜上「新魔王」と表記することにする。
・対第3軍戦
新魔王が身を寄せていたのは地方の弱小勢力。なので第3軍は始め比較的小規模の一軍を送り込むも新魔王に
敵の力が
怒った新魔王は魔力で身体強化し将軍めがけて突撃。猛烈なスピードで
第3軍の将軍は自らが魔王の座に着くことを狙って挙兵したので、戦う理由のなくなった第3軍はそのまま投降。
・対第6軍戦
対第3軍戦の情報を得ていた第6軍の将軍は自らの位置を知られないような布陣を引いた。やはりひとり立ち向かう新魔王。魔法で第6軍全域に酒の雨を降らせた。すっかり酔っ払った第6軍は戦闘不能に。
ただ真に怖ろしいのはここから。この時は新魔王自身も戦場に満ちあふれる酒の気に当てられて前後不覚になり、生還した第6軍兵が口を
・対第4軍戦
第4軍は魔王城に籠もった。守りは鉄壁な上に酒の雨も防げると
その哀愁を含んだメロディーと、何か懐かしさを感じる歌詞に故郷の母を思い出す兵が続出。投降する兵多数。
投降兵の導きで魔王城に入った新魔王。対する第4軍の将軍は精兵を率いて新魔王を討とうとするもあっさりと返り討ちに。さらには自軍の旗印としていた“前前魔王の
どうだろうか。まさに「めちゃくちゃ」ではないか。そして対第3軍戦の
対第4軍戦は特に怖ろしいような印象はないかもしれないが、魔王城内のすべての人々が心を
想像してみてほしい。もし自分の上司が「非常に有能だがもし怒らせるとどんなことをされるか分からない」という人物だったとしたら……。
いま魔王城玉座の間に集まった将軍たちは、まさにそんな人物を上司に持った部下のような心境であった。さらに悪いことには、新魔王は顔の下半分を覆うマスクを付けている。なのでその口元が果たして笑っているのか、はたまた口をへの字に結んでいるのかが外からは分からない。新魔王の機嫌を損ねるようなことはやってはいないと信じていても、もしかしたらとんでもない理由で自分のところに新魔王の怒りの矛先が向けられるか分からない。だれもがそう怖れていた。少なくとも“前魔王”の時はそういった
ただひとつ、今ここ玉座の間に集う将軍たちに安心できる材料があるとするならば、今日の会合の名目が直接自分たちについてではないということだけだった。自分たちは新魔王とともに報告を受ける立場だった。もし新魔王の糾弾を受ける者がいるとすれば報告者だろう。自分たちは報告を聞いて
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