4-2-1.人族の王城 謁見の間にて その1
Chapter - 2
魔王とユウコが時空の穴に消えてから1か月あまりが過ぎた。
もうユウコのいた世界について語ることはない。魔王国については後で語ることとして、いまは人族の王国について、あの魔道士連中の決意の後、最後の勇者召喚の後の出来事を語ることにしたい。それが魔王とユウコ、ふたりの
最後の勇者召喚の儀が行われてから1か月あまり後のこと。人族の王城の
「あれがそうなのか」
「果たして今回は上手くいくのか」
赤絨毯の先端には数人の若者がいた。全員が武器を
若者らのひとりは大剣を持ち、もうひとりは
そしてもうひとり。彼らの中央に立ち、ひと振りの剣を腰に差したひとりの若者が。
そう、彼らは新たな「勇者パーティー」。今まさに魔王討伐へ旅立とうとするところだった。旅立ちを前に、国王への謁見のためにこの場に呼ばれたのだった。
彼らは王国内から選りすぐられた者たちのはずであった。しかし王国は勇者パーティーをもう何組も送り出している。それとは別に軍隊の一員として魔王国との
しかしそんな彼らの中にあって、中央の若者ひとりは他の者とは違う何かを持っているように見えた。それはこの謁見の間にいる者全員が共通して抱いていた認識でもあった。
「あの者が例の……」
有力者たちの視線も、勇者パーティー全体と言うより、むしろ彼ひとりに向けられていると言ってよかった。
若者は顔にかかるほどの髪で顔を
「国王陛下のお成りである」
側近からの声が響いた。さっと床に膝をついて
「
やがて国王の声が謁見の間に響いた。
若者らは顔を上げた。彼らの正面、さっきまで空だった玉座に国王の姿があった。いかにも国王らしい
国王は正面に控える彼らの様子をひととおり眺めた。そしてその視線が中央の若者を捉えたとき、国王の顔にさっと喜色が走った。国王は両手を前に出しながらゆっくりと立ち上がった。
「おお! そなたが召喚勇者か」
国王は中央の若者に声を掛けた。
「はい」
中央の若者が答える。声は決して大きくはない。気持ちが高ぶっているようにも聞こえない。むしろ逆。あくまで冷静。淡々としたその様子に、並みいる有力者たちはちょっと意外な思いがした。国王陛下から直々に声を掛けられるという栄誉に浴しながらなんたることか、と。
だが国王ただひとりはそうは思わなかった。感動した口調のままなおも続けた。
「そうか。そなたのことは聞いておる。こうして会うのを楽しみにしておったぞ」
「はっ、ありがたき幸せ」
「召喚から
国王は天を仰いだ。言葉の最後は感激のあまりか、かすれてしまっていた。国王の両の目からは思わず涙が
だが国王が感極まったのはほんの
だから国王が再び前を向いたとき、その表情からは歓喜の色は消え、鋭い視線が若者の姿を真っすぐに射貫いていた。
「この国の置かれている状況は理解しておるな」
威厳を取り戻した声が問いかける。
「おおよそには」
「では魔王国にて魔王が代替わりをしたということは」
「新たな魔王が即位したということだけなら」
「うむ。もう何か月か前のことだったか、魔王国で突然戦乱が起こった。当時の魔王は……、いや、今や“前魔王”と言うべきか、は歴代の魔王の中でも間違いなく3本の指に入るほどの剛の者であった。王国から送り込んだ勇者のすべては魔王と配下の軍勢によって討ち取られてしまった。もはや王国の命運は風前の
国王はゆっくりと話を続けた。
「前魔王の生死は分かってはおらぬ。だがあれだけの実力を持った魔王じゃ。力で打ち倒されたとは到底思えぬ。おそらくは暗殺されたのであろう。そしてその
ここで国王は悲しげに大きなため息をひと息ついた。
「報告によると今から3週間ばかり前のことだそうじゃ。3つの勢力のいずれでもない新たな存在が魔王国に現れた。まったくの無名の存在であった。王国側で
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