第2章 雨の中の出会い
2-1.見知らぬ町並み
強く、冷たい雨が身体を
そんな中、魔王はゆっくりと立ち上がった。
見たこともない光景が目の前に広がっていた。いや、ここは異世界だから見たこともないのは当然なのだが。
道が黒い。真っ黒だ。土の道が雨に
魔王は道に手を触れてみた。固い。まるで石畳。いや、石畳と違って表面はざらついている。砕石路? いや、砕石路とも違う。小石のようなつぶつぶが見えるが黒い何かで完全に
しかも道は平ら。石畳のような継ぎ目もない。しかも中央がわずかに高く、左右の端に向かって
(なんと、雨水を地下へ流しておるのか。)
魔王は思わず
(さすがは召喚対象者のおる世界よ。ここの人族は
魔王は顔を上げた。黒い道が真っすぐに先へと伸びている。所々に別の道が横切っている。
ではここはこの世界の王城の中なのか? そのようには見えない。道の周りには住居らしき建物がずらっと並んでいる。どれもが王城内の建物にしては小さすぎる。見た目がバラバラ。どう見ても普通の住民が暮らしている町としか思えない。
だが普通の町としてもおかしな点がある。丸柱だ。道の両側に等間隔で丸柱が並んでいる。魔王国で丸柱があるところと言えば玉座の間か神殿ぐらい。ではここは神殿なのか? 玉座の間でも神殿でも丸柱は天井を支えているのが当たり前。しかしこれらの丸柱は何も支えていない。上には空があるのみ。おのおのの丸柱はロープか何かで互いを
正直、魔王はすっかり困惑していた。異世界へ渡るのだから見たこともない光景を目にするだろうことは分かっていた。しかしそれでもなんとかなると思っていた。幼い頃からたくさんの物語を通して様々な不思議な世界についての知識があったからだ。物語は魔王国のものだけでなく人族のもあった。人族の想像力の豊かさには幼い魔王でも舌を巻くしかなかった。魔族には到底考えつかないような世界がそこにはあった。
たしかにここは異世界だ。しかし魔王の世界の人族と同じ人族が作った世界だ。人族が作った世界であるなら初めて見る世界であっても自身の知識でなんとかなるはず。――そう思っていた時期が魔王にもあった。
突然、魔王は自身の心に不安が芽生えるのを感じた。
(まさか、転移する世界を間違えたのではあるまいな。)
芽生えた瞬間から増大を始める不安。
(対象者は人族。そやつが住む世界だからそこも人族の世界に違いない。しかしここはどうだ? 本当に人族の世界なのか? そういえば転移してきてから住人をまだ見ていない。人族をひとりも目にしてない。もしかしたら人族の世界ではないのではないか? リザ-ドンやオークなどの住む世界なのではないか? エルフは……、こんなゴチャゴチャした町並みは作らないか。ドラゴン系は住居の大きさからしてないだろう。いや、見たこと聞いたことのない世界なのだから、見たこと聞いたことのない生命体が作った世界なのかもしれぬではないか。)
魔王は急いでポケットからレーダーを取り出した。ディスプレー下部に表示されたインジケーターはすべて正常。ディスプレー上半分には同心円が表示され、中心からやや外れた位置に小さな点が光っている。
どれもがここが目的の異世界であること示していた。
「そうか……」
魔王はレーダーをしまおうとした。緊張から急に解放されて力が抜けていくような感じがした。レーダーをポケットに入れかけてハッと気づく。
間違いない、この世界に対象者がいる。それもさほど遠くではない場所に。
魔王は体が打ち震えるのを感じていた。思わずぐるりと辺りを見回した。人の姿は見えない。雨はさっきより激しくなってきたみたいだ。遠くが
魔王は再びディスプレーへと目を落とした。中心が今いる場所。光の点は中心からやや外れた位置で光っている。同心円には中心からの距離を表す具体的な数字がない。これでは対象者がどの位離れているのか分からない。
『転移先に多少のずれは出てしまいます』
レーダーを渡した魔族の言葉が
(どうやらその通りになったようだな。おそらくはこの天候も一因であろう。レーダーがあって正解であった。これがなければ対象者の手掛かりは何もない。何の成果も得られず元の世界へ引き返さざるを得なかったであろうよ。)
光の点の方位を確認すると、魔王はゆっくりと走り出した。四辻ごとに方向を確認して再度走り出す。町並みはどこもさほど変わりなかった。時々大きめの真四角な建物が目に入るぐらい。
やがて光の点が明らかに中心に近づいた。
「これでおおよその距離が分かる」
魔王はそうつぶやくと走る速度を速めた。この分ならそれほど経たずに対象者に接触できるだろう。どうやら人族に先を越される可能性は低そうだ。この光の点こそが、対象者がまだ召喚されていない何よりの証拠なのだから。
魔王は雨の中を
真っすぐな道に出た。激しい雨で前方は霞んでいる。今のところだれの姿も見えない。しかし魔王は胸の鼓動が高まるのを感じていた。いよいよ対象者に出会える。歴代の魔王に代々受け継がれてきた伝説の「召喚勇者」に成るはずであった存在に。この胸の高まりは
興奮を抑えようとするかのように魔王は歩を
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