いざ往くは都
さあ、我らが都心『西京』に到着いたしましたよ。 いやぁしかし大変でした。 都心に近付くにつれてどんどん人が増えてきますからね。もうそれはそれは皆さんを救いたくて救いたくて仕方がありませんでした。
駅前に出てみるとさあここはオフィス街。見渡す限りビルビルビル。容赦なく照りつける太陽はまさに自然の厳格さそのもの。それをさらにコンクリートやアスファルトの皆さんがその身を賭して高い気温をより高く、強い日差しをより強く、引き立てるための名脇役として頑張ってらっしゃいます。
まさに自然と人工のハーモニーですね。
醸し出す音は不協和音ですが。
それにしても人が多いですね。この駅前を歩く方々は皆さんサラリーマンでしょうか。
ピリピリしてますね〜。
生き急いでいますね〜。
でももう大丈夫です。
そんな生活に追われることもありません。
なぜならもう奴らの追えないところ、『極楽』へと私が送って差し上げますから。
一方通行の片道一本切符ですがね。
それでは無駄話はこの辺にしておきまして、
救ってあげましょう。
まずは家に飾ってあった刀の切れ味を試すとしましょうか。
なにせ物心ついたときには置いてありましたからね。
なまくら刀でなければよいのですが。
まぁ、私の腕が錆びついていては元も子もないのですが。
「キャ」
女子高校生でしょうか。刀を抜いた私に気付き、悲鳴を上げても誰も気付きません。なんと希薄な人間関係なのでしょう。
私の右腕から放たれた剣閃がその首へ吸い込まれ、そしていとも簡単に其の命の灯火を刈り取りました。
ザンッ
まずは一人。記念すべき一人目です。
良い切れ味ですね。永年眠っていたとはいえ所詮は人殺しの道具というわけですか。
最初は居合抜きでやってみましたがどうやら私の腕も捨てたものではありませんね。
これならたくさん救えそうです。
女子高校生の体から朱い血飛沫が跳ね飛んでいます。 良い色と匂いですね。 漲っていた生へのエナジーが外へと一気に吐き出されている感じがします。
若いって素晴らしい。
おや? 何人かの人がこちらに気がついたようです。
それはそうですよね。 こんなに綺麗でなのですから。見惚れてしまっても不思議ではありません。
ですが心配することはありませんよ。
もっと綺麗で聖櫃で素晴らしいところへ私がお連れしますので。
「おいおま」
ザンッ
大上段からの一振り。 脳天から入り背骨を二つに裂きながら下へ下へと進んだ刃は股より這い出て、地面の上数センチでその麗しい刃を止めます。
「やめ」
一度私の元へと引き戻された死の象徴はその刃に再び殺気を漲らせ、私の腕を動かします。
ザンッ
そして喉へと吸い込まれ、喉笛を割くだけでは飽き足らず、なんとも恐ろしいことに頸の後ろから抜け出てしまいました。
「なにして」
ザンッ
尚も新たな命を求め、穿いた首から横へと這い出ると、生命あるものに流れる紅をその身に纏い、その刃でもって生命を奪い取っていきます。
あゝ、良い色ですね。 白銀に輝く刀身にこびり付いた生命の朱。これぞ美の極致。
そうだ、貴方の名前は『麗華』にしましょう。
麗しくも冷酷なその刃で以って断ち切った生命によって華やかにその身を彩られた芸術品です。
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