hourglass

文月羽琉

Last regret

あした、あなたはしにます、

そう言われたのはつい五分前。

しぬまえにあなたの願いを一つだけ叶えてさしあげます。

死神と名乗ったお世辞にも普通の人とは言い難い服をまとった男がニコリともせずに言い放った。

「ねぇ死神さん」

「なんでしょう。」

「時間を戻すとか、過去に戻るとかできないの」

死神はわらった。

「そうやってしをまぬがれようとしてもむだですよ。」

「違うわよ。」

そんなこと考えていない。私の最後の時間を誰のために使いたいかを必死に考えた。恋人に会うとか、友達と楽しく過ごすとか親兄弟に合うとか、色々考えた結果が過去に戻ることだった。

「それがあなたのねがいならおおせのとおりに。」

そう言って死神は砂時計を私に差し出した。

「このすなどけいをもって、いきたいじかんをあたまににうかべてからひっくりかえしたら、かこにとびます。ただし、じかんはこのすなどけいがおちきるまでの5ふんです。」

私は受け取ってそっと行きたい時を思い浮かべた。


行きたい時はひとつだった。ここ以外にない。くらい病室。1人ベッドで寝ている女性。私が行きたかった過去はまだ母が生きていた、そんな時。きっと面と向かっては素直に何も伝えられない。そして、私が過去の私たちの邪魔をしてしまうことはわかっている。だから、もう眠っている母に会いに来た。

「ねぇ、母さん。」

私の声は母には届かない。たくさんのチューブで何とか息だけしている母のベッドの横の椅子に座る。

「母さん、また会えたね。」

あの時が最後じゃなかった。会話が上手くできなくなったことに苛立ってしまい吐き捨てるようにもういい、そう告げて帰ってしまったあの日。あれから成長した私だよ、母さん。そんなの通じるわけはないけど私はずっと母さんに話しかけ続ける。私がもらった時間は5分。5分だけ母さんをひとりじめさせて。と願いを込めて。

「ねぇ母さん…私素直に言えないから寝てる時に来ちゃったよ。」

反応のない母さんにずっと話しかけ続けるのは辛い。だけど、今私に出来ることはこれだけだ。私は伝えきれなかった私の想いを母に伝える。それがたとえ一方通行でも。話しても話しても話し足りないような、でも話すことも照れくさいなんて不思議。

「あ、」

ふと時間が気になった。5分。それは長いようでとても短い。砂時計は終わりが近づいていることを示していた。

「文句もたくさん言ったし、喧嘩も沢山したけど、」

なんだか頬が冷たい。

「母さんが」

母さんの手に触れようとした、触れられなかった。手の先から、足から私の体はここにいてはいけないとでも言うように消え始めていた。

「母さんが大好きだったよ、もっと生きて、」

ほしかった、その言葉を私が聞いたのは自分の部屋に戻ってからだった。


「まんぞくしたましたか。」

「えぇ。」

死神に向かって頷いた。これでもう思い残したことは無い。私はニコリと笑った。

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