inmo
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第1話
縮れ髪をした僕のあだ名は、「インモ」。アルファベットで書くと「inmo」。誰が言い出したのか知らないけれども、僕の毛髪の縮れ具合が、アソコの毛、すなわち陰毛に似ていることに由来するらしい。
ちょっと前までは、僕も頭に血がのぼっていて、あだ名で呼ばれるたびに嫌な思いをした。今ではさほど気にならない。不思議なものだ。理由はよく分からない。でも、本当にほんとうに、もう気にしていない。不名誉なあだ名だとも思わない。
初めのころ、僕には何が何だか理解できなかった。もっとも当然のことだ。だって、そりゃそうだろう。全く初対面の人から何かの拍子で口からこぼれ落ちた聞き馴れない言葉を、親から貰った敏感な耳が拾いあげた言葉の意味を即答しろなんて、どだい無理なことに決まっている。
僕は、僕のことを「inmo」と呼んだその人に尋ねた。
「それって新しいコトバ?」
しかし、返事はかえってこない。そのかわりといっちゃあ何だが、彼はもう一度短い呪文のようにを唱えながら僕をまじまじと眺めては、「納得、納得」とうなずく。
誰でも目の前にぶら下がった秘密に齧り付きたくなるものだ。僕も例外ではなく、彼にどういうことなのかを訊こうか訊くまいか考えているうちに、彼は不思議がる僕に気付いたのか、笑いながらどこかにいってしまった。
彼を逃してしまい意味を知ることはできなかったけれども、少なくとも思わず笑いが込み上げてくるような内容のことなのだろうと推測はついた。適当に訳のわからない言葉を相手に話して、これっぽっちの内容もないことを不思議がったりむきになったりして聞き出そうとする相手の反応を楽しむものなのだろう。この推測に僕は十分満足しなかったけれど、一応決着がついて安心した。
しかし、僕の楽観を世知辛い世間は裏切った。それもやっかいなことに、言われても僕の気にしない様子をみると、いやらしい言い方でしつこく付きまとうし、あまりにもしつこいので僕が怒ると、さらに囃し立てるのである。
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