第11話 納得

「電車、なかなか来ないね」

「そうだな」

「春香ちゃん!」

「……」

「秋雄君、聞いてる?」

「聞いてるよ。どうかしたのか?」

「どうもしないけど、春香の名前を言ったら、どんな反応をするかなって」

「どうもこうもないよ。あ、そうだ。春香から、俺と春香とのことを聞いているか?」

「え⁈」

「……そんな恐い顔をするなよ。昔のことだから」

「前カノだったの?」

「何だ、知ってたのか」

「え?ええっー⁉︎」

「昔だぞ、昔」

「いつまでなの?」

「幼稚園の卒園式まで」

「へ?幼稚園?」

「そだよ。幼稚園の時に俺と春香は婚約者だった」

「え、幼稚園の時の婚約者……で、卒園式までって、……それって、秋雄君、春香にフラれたってこと?」

「まあ、そういう事になるな」

「秋雄君、ちなみに春香に何て言われたの?」

「『お互い何も分からずに婚約したけど、同じ小学校になるんだから、卒園式までは婚約するけど、それから先はお互い自由だからね』だってさ」

「クククッ……ダメ、お腹痛い。……もうダメ。ギャハハハハ」

「まあ、こうなるとは思っていたけどさ、恥ずかしいから、それくらいにして貰えないかな?」

「ヒャハハ……。うーん、ごめんごめん」

「どうかした?」

「いや、あのさ……ううん、何でもない。……そうなんだ、ふうん」

「一人で何を納得しているんだ?」

「いろいろと」

「あのさ、夏希」

「なあに?」

「今日は本当にありがとう」

「どうしたの?急にお礼だなんて」

「あ、電車が来た」

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