心高鳴る恋はした事がありません。

僕の恋はいつでも静かに、確実に、安定を届けてくれる。

ガラス片の散らばった世界に絨毯を広げてくれる。

絨毯を転々としているうちに、いつしかガラス片の上で歩き方をすっかり忘れてしまったようだ。

僕は何者でもない。

何も与えることができない。

存在しているだけで人を悲しませてしまうから

僕は何者でもない。


とても素敵な恋をしてきたのでしょう。

とても美しい恋をしてきたのでしょう。

貴女が纏う黒がどのように発色しようと、それは変わらず佳麗な黒であると感じる。

僕も僕が嫌いだ。

あの長い夏の間、自分の価値を錯覚させてくれた貴女に何かをしてあげたかった。

アンニュイに沈んだ表情で生きる貴女に貴女の持つ価値を教えてあげたかった。

だけど、それをするには僕はあまりに

軽率で

愚鈍で

卑怯であったのだろう。


我が既往の色へ

震える身体で書いた拙文では上手く言い表せないが、貴女は内外共に美しく、強く、難事を自分で跳ね返すことができる力を持っている。

あの日、それに手を伸ばそうとして、ごめんなさい。

何かをしてあげられると傲ってしまい、ごめんなさい。

満ち足りていた気持ちをありがとう。


鈍く滅る錆色より。

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