フィルターと口紅

いつも不機嫌そうに煙草を吸うあの子の記憶は昔のままで保存されている。

久しぶりに会った彼女は人が変わってしまったかの様だった。

以前のキリリと自信の溢れを感じさせる態度は何処にもない。

周りを警戒し、いつも何かに怯えている様にソワソワしていた。

大海原の真ん中で単身、遭難したかの様な彼女の不安がチリチリと僕の身までを焦がして行く。

カプセルを途中で潰すタイプの煙草を揉み消す手も気のせいか

震えている気がした。

悲しみと哀しみに囚われた元女王。

僕は何もしてあげられない。

彼女の捨てた煙草のフィルターには以前と変わらず口紅がベッタリと残っていた。

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