悪魔の蚊

後藤 大地

第1話 蚊になる


 気がつくと俺はいつものように家の自室にいた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。部屋には夕日が差し込み、夏のうだるような暑さはわずかになりを潜めている。


 何かがおかしい。


 ぼんやりした頭で俺は思った。ベッドがやけに大きい。校庭のグラウンドぐらい大きくなっている。いや、ベッドだけじゃない。部屋のあらゆる物が巨大化していた。


 なんだ?これ?


 見上げるほどに高くそびえるタンスや机。俺は立ち上がろうとしてあることに気づづく。部屋が巨大化したんじゃない。俺が小さくなったんだ。


 俺の足は、手は、見る影もなくなっていた。そこには気味の悪い、黒光りする節足が6本ついている。細長いその腕で体を探ると、背中には羽が、口元には長い長い針がついていた。俺は虫に、それもになっていたのだ。


 本当になんなんだこれは?なんでこんなことになったんだ?俺の体はどうなったんだ??


 俺は思わず叫んだ。いや、叫ぼうとしたが、蚊には声帯がないのでそれは声にならずに口の針からヒューヒュー音を出しただけだった。


 動揺する俺をよそに、背後で何かが動く大きな音がする。


 思わず振り返るとベッドの上に一人の男が横たわっていた。巨大なそいつはよろめきながら今にも立ち上がろうとしている。


 その男は、俺だった––––。

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