マークシートがズレている

川辺都

マークシートがズレている

 取得スコアがそのまま英語の能力として評価される世界的にも有名な試験。問題数は200問、試験時間は約2時間で、満点は990点のこの試験。

 日曜日にわざわざ近くの大学まで受けに来たのは、会社の上司から「新人を指導する立場なのに、400点じゃねえ」と嫌味を言われたからだ。ならば、500点はとってやろうじゃないか、と勉強し今日という日を迎えた。こんなに勉強したのは学生以来だ。

 だが。


「テスト終了まであと5分です」


 試験監督のお姉さんの声が響く中、私は絶望していた。

 ラスト1問を残し、マーク欄が全て埋まってしまったのだ。


 足りない。

 マーク欄が足りない。


 いや違う。


 ズレている。

 マークする箇所が1つずつズレている。


 落ち着け私。まだあと5分ある。たかが5分。されど5分。5分あれば修正はできる。ラストの問題は捨てて、マークを直すことに専念しよう。

 マークする箇所が足りないということは、どこかで1つマークを飛ばしている、つまり、空欄になっている箇所があるはずだ。空欄を見つけるべく、マークした黒丸を指で順番になぞっていき⋯⋯あった!


 な、に。

 リスニングパート、だと。


 このテストはリスニングとリーディングに分かれている。空欄はそのリスニングパートにあった。具体的に、Part2の8問目だ。

 確かにこの辺りでリスニングの速度についていけなくなって、奥義『1問捨てて次の問題に集中する』を使ったけども!

 後悔していても仕方ない。今回の目標は500点。マークシートがズレていては目標の点数は望めない。

 くそっ! 10年前は395点でも就職できたんだよ! 何で最近の新人は700点とか800点とかザラにいるの!? 全員帰国子女なの!?

 優秀な後輩を恨んでいても始まらない。ここの場所から順にズラして⋯⋯。


 いや待て。

 間違っているのは本当にこの問題なのか?


 確認しようと問題用紙をめくり、ヒュッと息を呑む。

 Part2は問題用紙に何も書かれていない。つまり、この答えが正しいか間違っているか、ヒントはどこにもないのだ。

 ならば、問題用紙に記述があるPart3だ。Part3の1問目。ここの答えはAだった? Cだった?

 くっそ! リスニングなんて1時間前に終わってるんだよ。いちいち覚えてねえよ!

 いやだが、この問題はAにマークした気がする。なんとなく。ということはここもズレている。

 Part1、Part1はどうだ? Part1の最後の問題。写真を眺め思い出す。うん。確かここの答えはBだった。マークはズレてない。

 ということは。

 やっぱりあいつか! Part2の8問目が犯人か!

 よし。ここから順番に、慎重にマークを上にズラしていけば⋯⋯。


「テスト終了時刻になりました。記入を止め筆記用具を置いてください」


 私は手にした消しゴムをスッと机に置いた。

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