第41話

雑草の茂みからは聞いたことのない夏の虫の鳴き声がしている。高い土の崖に挟まれた坂道を登っていると後ろから眩い光に照らされる。

『お母…さん』

え?海美のお母さん?!

この状況っ、"ウチの大事な娘を外に連れ回すな!"とか"どんな関係なの?!"とかなっちゃうんじゃ?!

落ち着け…まずは"第一印象が肝心だ"って母さん言ってたな。

すると『お願いっ、私のことなんにも言わないで!!』…突然、海美が俺の裾を掴んだ。


なんか…可愛い…ッんな事考えてる場合じゃねぇっ、"言わないで"ってどういう事だよ!


その意味を問う暇もなく、エンジンを唸らせ近づいて来た車が俺のすぐ横でゆっくりと停車した。

そして運転席の窓がゆっくりと下がり、海美をそのまま大人にしたような美人なお母さん"海美母"が姿を現した。


『うちに何か用??』

窓から少し顔を出して海美母が問う。

思ったよりも優しい声だ。怒っては…なさそうかな…

てか海美っ、なんて言えば…

振り返ると海美の姿は無く、完全に気不味い空気が漂う。

「こ、こんばんわっ!!えと…用と言うか何というか…」

すると海美母が俺の顔を覗き込み、何かに納得したように頷くとこう言った。

『あっ、越して来たタキヤマさんのお子さん??どうしたのこんな時間に。』


島の情報網というものは恐ろしい。既に俺の情報まで伝わっているのか…

なんて考えているトコじゃない!!


「あっ、えと赤嶺さんですよね?」


だからなんだよって!そんなこと言ったらなんで訪ねて来たの?ってなっちゃうじゃん!


『あぁ、そういう事。"挨拶"に来てくれたって事かしら?』


あ、挨拶ッ?!それって"娘さんとお付き合いさせていただいておりますッ"とか"娘さんを僕にくださいッ"とかゆーアレ?!違います!断じて違います!


「い、いやッ俺はそんな関係じゃないってゆーかまだそんな出会ったばっかで…」


『"渡し子"の事でしょう?』


「え…??」


俺の脳がその"間違い"に気づいた時、俺は恥ずかしさで死んでしまいたくなった。


「そうです。渡し子の挨拶です…」


海美母はニコリと微笑んで『そんな気を遣わなくてもいいのに。』と呟いた。



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