第40話
「そろそろ暗くなるし帰る??」
海美は水平線に残る太陽の切れ端を見つめながら『…そうだね。』と答えた。
「もう暗くなるし、その…ひとりじゃ危ないだろ。」
俺は精一杯の勇気を出して不器用な言葉を紡ぎ出した。
『え…いいよ、そんなっ。ひとりで帰るよ。』
「別に家の前までなんて言わないからさ、近くまで…その…危ないだろッ。」
海美は俺の足元を見つめ、少し考えた後『それじゃぁ…お願いしよう….かな。』と恥ずかしそうに答えた。
海岸沿いの道路を歩いている途中、海美がこんなことを言いだした。
『私ね、やってみたいことたーっくさんあるんだ。今までずっと家の中で過ごしてきたから今のうちにやれることやりたいなって。』
「そういえば身体は大丈夫なの??外あんま出られないとか言ってたけど。」
『それが自分でも不思議なくらい大丈夫なんだ。神様が最後にご褒美くれたんだよきっと。』
神様…か。随分メルヘンチックな事を言うもんだな。
「それならいいんだけど、ってか1人であんま出歩かない方がいいんじゃね?もしもって事もあるからさ。」
すると海美は俺の前に立ち、俺の顔を覗き込んだ。
『それはデートのお誘いですか?』
「っ…ばかっ!そんなんじゃねーよッ、ただ心配なんだよ!…親が!親がだぞ!親が心配するだろっ、身体弱い子供が1人で遊び行くなんて!」
海美は視線を斜め上の方に向け、そっと溜息を吐いた。
『ぅーん…心配はされないよっ、心配性だけどね。』
「はっ?それよくわかんねー。けど心配すると思うけどなぁ…だって」
『こっちだよ!』
俺の言葉を遮るように海美が左手の坂道の方を指差した。
いつの間にかヒグラシは夏の音色を奏で終わり、薄暗い闇と少しぬるい潮風が俺たちを包み込んでいた。
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