第19話


…ん?


1分は待っただろうか。なかなか現れない声の主に、3人で顔を見合わせる。


母さんがもう一度呼び鈴を鳴らそうと指を伸ばした時、玄関のガラスの向こうに人影が見えた。


"ガラガラガッ、ガ…"建て付けの悪い扉が音を立てて開き、白髪で腰の曲がったお爺さんが姿を現わした。


『おはようございます。昨日越してきました瀧山です。わざわざ時間をつくって頂きありがとうございます。忙しい中申し訳ありません。』

いつものほんわかした喋り方とは打って変わってハキハキとした透き通った低い声が暗い玄関の中へと響き渡る。


そして俺も場の雰囲気に飲まれ、母さんに倣って深々とお辞儀をする。

本当にこういうのってめんどくさい。


『あぁ、どうも。町長の沖峯(おきみね)です。こちらこそ朝早くから悪いですねぇ。』


お爺さんはそう言いつつ"中へどうぞ"と手を動かし、覚束ない足取りで家の中へと案内される。


俺の家の3倍はあるだろう土間のある玄関を上がると隣接した和室へと上がった。


そして座布団へ腰を下ろすと同時に『おい。』と

お爺さんが隣の部屋に向かって一言発する。すると少ししてお婆さんがお盆に湯呑みと急須を乗せてやってきた

俺はこんなシーンを何度か見たことがある、少し昔の映画とかで。


「これがテイシュカンパクってやつ?」小声で母さんに尋ねると、大きな一枚杉のテーブルの下、バシッと太ももを叩かれた。


つまらない大人の会話は2人に任せて、室内に置かれた酒瓶を持ち仁王立ちする"狸の剥製"やガラスケースに入れられた気味の悪い"日本人形"、初めて見る"コケシ"などに視線を向けていると、ある1枚の大きな写真に目が止まった。


白黒の古い写真に写った子供と神主さん?だろうか。2人は向かい合ってお辞儀をし、子供が神主さんに何かを渡そうとしている。


…あれ?


俺は無意識に立ち上がり写真の前に立つ。

『誠司ッ!座ってなさい!』背後に響く母の声も耳をすり抜けていく。


「あの…お爺さん、コレって…」


俺は写真に写る子供の手に握られたモノを指差した。


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