第17話
あ…
それがこの島の"海の色"だと気づいたとき、『ウミだよ。』
頭の中で思い描いていた筈のその二文字が"アイツ"の口から発せられた瞬間、俺の心臓が一際大きく伸縮した。
「えっ…」
こちらを見て微笑んだその顔が、音を立てて俺の脳裏に焼き付く。
すると"アイツ"は徐ろにしゃがみこみ、指で砂浜に"赤・嶺・海・美"と書き上げた。
『えっと…私は"あかみね、うみ"。キミは?』
書き上げた文字を手でサラサラと消して"海美"は俺を見る。
アカミネウミ…
それがコイツの名前。
…名前を知った途端、何故か急に恥ずかしい気持ちになった。
欲しくても手の届かなかったモノを、思いがけずに手に入れてしまったような感覚。
え?それでなんだっけ?俺の名前?
「あ、俺??俺は…たきやま、せいじ。」同じように指で砂浜に"瀧山誠司"と書き上げた。
なんだか青春ドラマのワンシーンみたいでちょっと恥ずかしい。
『そっか。瀧山誠司くんか♪よろしくね、瀧山くん。』
タキヤマクン…か♪
「あ、うん。よろしく。赤…嶺、さん。」
そして俺たちは目も合わさずに自己紹介を終える。
ぎこちない俺たちを薄目を開いたような月が照らす。
なにジロジロ見てんだよッ!!
俺はぶつけようのないこの恥ずかしさを視線に乗せ月へと暴投した。
すると突然"赤嶺"が立ち上がり、
『あっ、私そろそろ行くね。またお手伝いよ・ろ・し・く・ね♪』
そう言って走り去ってしまう。
俺は走り去る白影を呆然と見つめる。
…は?!どうしてこうも毎回勝手なんだよ!!せっかくイイカンジだったのに!
ん?イイカンジ?どんな感じだよもうッ!!うわぁッもうワケわかんね!!
いつの間にか視界から消えてしまった"赤嶺"を暗闇の中模索する。
すると階段から光がユラユラとこちらへ向かって降りてくるのが見えた。
『誠司ー!!そこに居るの?』
うわ…母さんだ。
「母さん?どしたの??」
どうせこの時間になって帰ってこない俺を心配して探しにきたんだろーけど、先に謝ったりしたら確信犯だと思われるしな。
『どしたのじゃないわよ!!引越し早々心配ばっかかけて!!こんな暗いのになんでこんなトコに居るのよ!危ないじゃない!!』
ほらやっぱり。
そして俺はちゃんと口煩い母親の対処法は心得ている。
「あ、ごめん。その…トモダチと話してた。」
友達…とは言ったものの、俺は友達なんか作らない。いや作っちゃいけない。
だけど今は仕方がない。母さんは俺の"トモダチ"という言葉に敏感だから。
『えっ?友達…?あんたが?そう…良かったわね♪友達できたんだ♪それでその友達は?』
「ん…まぁ、その子は今帰ったよ。」
『もう…って今帰ったの?おかしいわね…というかこの島は門限とか無いのかしら。…じゃなくて!アンタはこんな遅くまで出歩くなんてダメだからね!!砂の掃除だってやらないで!明日は朝早くから町長さんと学校に挨拶行くんだから!ご飯食べてお風呂入って早く寝なさいよ。』
ったくうるさいなぁ…ガキじゃないっての!まぁ何とかなって良かった。
苛立つ気持ちは心の奥底にぐっとしまい込み、母さんに手を引かれ砂浜を歩きはじめる。
ふと後ろを振り返った。と同時に砂浜に残っていた"俺たち"の足跡が波にさらわれて消えていくのが見えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます