第16話



『色々あったよ。』


その複雑な思いがこもった声に、その"色々"が俺が聞けるような事ではないと悟る。


「ん…まぁ何があったか知らないけど、もう暗いんだから家帰れよ。危ないだろ。」


そう言って華奢なその身体の横へとしゃがみ込んだ。


『あ…それ…』


突然何かに気づいた様子で俺の方を指差す。

その細くしなやかに伸びた指の先を辿ると、先程直してもらったばかりのペンダントが俺の首元で月明かりを反射して輝いていた。


「あ、これ?今日ここで拾ったんだ。"スイショウ"って石なんだ。占いとかにも使われるヤツ。」

そう言ってペンダントを顔の前まで持ち上げ、先程得た知識をあたかも知っていたかのように説明する。


『へぇー…そうなんだ…そういうコト。…それ、肌身離さずに持ってて欲しいかも。』

俺の顔を覗き込みペンダントへとしなやかな指が触れる。


ち…近すぎだろッ…


俺は慌てて視線をそらしたが、風に混じった甘い香りが"アイツ"との距離を更に意識させた。


その瞬間、なんだか無性に恥ずかしさが増して咄嗟に思いついた"あの時の事"を訪ねた。


「てかさぁ…これ拾った時おかしな事があったんだけどこれって呪いのペンダントとかじゃないよね…?」


咄嗟とは言え"呪い"とかガキみたいな事言って余計に恥ずかしいじゃんか。


『ふふ♪面白いね、キミ。まぁ…そんなカンジ、かな?おかしな事って?』


ほら笑われた…だけどアレは絶対にヤバい何かの現象だった…って"そんなカンジ"??!


「やっぱ?!周りが急に止まったっていうか…一瞬だったんだけどなんかとりあえずヤバかったんだよ!!これなんなのマジで!!?」


『なにそれっ。うーん…心当たりはある、かな?だけど今は教えられない。』

そう言って"アイツ"はふっと立ち上がった。


「なんだよそれッ。」


勿体つけないで教えろよ、ぶっちゃけ怖い…し。


『それじゃぁ私の手伝いしてくれたら教えてあげてもいいよ?』


「て、手伝い??」


『だめ?』


月明かりに輝く海を見つめ少し考えるフリをする。

コイツに手伝って欲しいって言われるのはぶっちゃけ悪い気はしないけど…

即答するのは、なんか…カッコ悪い。


俺はめんどくさそうに頭を掻きながら立ち上がり、"ふぅ"と態とらしくため息を吐き、「しょうがないなぁ…何を手伝うの?」そう言って"アイツ"に視線を落とした。

改めて横に並んでふと思う。

…ちっちゃいな。


そこで俺の肩に並んだ顔がこちらを見上げる。


『ホント?ありがとう…』


その時、初めて間近で目が合った。

月を映しこむ、水晶のように澄んだ大きな瞳。

それは俺の記憶の中の"何か"に似ていた。





 

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