瀬戸広樹の解答
バレてないと、思ってるんだろうか。
幼馴染で親友の
はじめは本当に未知の世界って感じで正直どう接すれば良いのかもわかんなくなった。
家は近所で、気づいたときには二人で遊ぶようになってて、小学校も中学校も一緒。
好きなこととか趣味とか、気が合うことは数少なかったけど、裕太の側は一番自分が楽でいられる場所だったからそんな裕太が変わってしまうことに何によりも不安を覚えた。
しかし当の本人はいつまでたっても何も言わないし、何もしてこなかった。
今思えば、ちゃんと向き合ってやるだった。
恐らく自分でもどうすればいいのかわかっていない感情を抑えてら、周りが求める〝普通〟というやつになることにしたんだろう。
現にあいつは、いつの間にか昔のあいつに戻っていたように見えたし、俺はそれに安心して、俺も何も気づいていないかのように振る舞った。
あのとき、ちゃんと、向き合えてたら。
「(……向き合ってたらどうなってた?)」
もしもの未来を想像しては自ら打ち消していく。
どうにもならないだろ。
男同士だから。
〝普通〟じゃないから。
その選択肢はまちがいで、相手の幸せを願うのなら裕太の選択は〝正しい〟ものなんだろう。
世間の目がそういうことに冷たいのは知ってるし、誰にでも受け入れられることじゃないことも知ってる。
わざわざ険しい道を選んで裕太を傷つけるのは嫌だ。多分あいつも同じことを思ってくれてるからこそ、あいつは何も言わなかった。
幸せになってほしい。
笑っていてほしい。
けれど、同時に思う。
なんで俺じゃだめだったのか?
男同士だから何がいけないんだ?
何も悪いことしてねーよ。
好きなやつが同じ性別ってだけでなんで駄目なんだっけ?
俺、なんで男同士だからおかしいとか考えたんだ?
男と女が付き合うことと何が違うんだ?
ずっと、今でも考えているけど、俺の頭じゃ全然思いつかなくて、結局子供ができるかできないかくらいしか出てこなかった。
でも、それは関係ないだろ?
付き合うとか、結婚とか、一番好きなやつに隣にいてほしかったからするんじゃねえの?
必死に親友であろうとして、笑っていた。
けれど、時折寂しそうに笑うあいつが嫌いだった。
それは、決して嫌悪という感情ではなく、もっと幸せそうに笑うあいつを知っていたから、「そんな顔で笑うなよ」って、怒って、男のくせにサラサラとしたあの黒髪を思いっきり、グシャグシャに撫でて。
抱きしめてやりたいって思った。
側にいて守ってやりたいって思った。
裕太に気付かされた形でようやく自分の感情が、友情なんて言葉で収まるものではなかったことを知った。
周りの連中がクラスの可愛い女子の話をして盛り上がる中で、女子を好きになることが当たり前だった中で、両思いなんて。嬉しいなんて言葉じゃ足りなかった。
走り出したらそのままどこまでも行けそうなくらい、いっそ叫んでしまいたいくらい嬉しかった。
けれど、どうしてか未来はない。
数ある選択肢の中で、俺は。
俺たちは。
この思いを言葉にすることを選ばなかった。
向けられる悪意を気にしないでいられるほど大人ではなかったし、この先の未来を楽観視できるほど子供でもなかったから。
友情と呼ぶには歪すぎて、恋情と呼ぶには不毛すぎた。
感情を持て余して、親友なんて体のいい言葉でごまかして、ずっと側にいられる保険をかけていた。
俺があいつの一番近くにいたかったから。
それが例え期限付きのものでも。
せめて高校を卒業するまでは俺が、あいつの。
《宮澤裕太》の一番であり、そして。
卒業したらあの全身に溢れた喜びも全て捨てて生きていく。
俺はきっと、まだ現状に納得できないから、完全に殺してなかったことにはできないだろう。
その代わりに、思いはこの教室に置いていく。
二度と戻ることのできないこの場所ならきっと、時間の流れとともに風化していってくれるとできるかもわからないくせに、必至に、言い聞かせて、信じてる。
「なー、帰りにアイス買ってこうぜ」
「はぁ? 帰りって、まだはじめて二時間も経ってないだろうが。しかも全然問題進んでねえし」
「そうピリピリすんなってー。俺が奢ってやるからさ!」
「誰のせいだよ! ……ったく、何なんだよお前は」
「あははは!」
呆れたようにため息をついているが、その後に「新発売のチョコミントのやつな」と言ってきたのでそれに笑って了解、と答えてシャーペンを握り直す。
俺はこの先も、くだらない会話をしたり、たまには本気の相談もできるような気のおけない親友でいる。
それが、〝正しい〟答えなんだろ?
わかってる。
ああ、でも。
一言だけ。
今日は暑くて暑くて、頭もちゃんと働いていないみたいだからさ。
許してよ。
お前が好きだ。
解答︰理解できなかった思いも今なら受け止めてやれるのに、それを周りが許さないことに納得していないが、自分の力ではどうにもできないことも知っているため全てを過去に置き去りにしてせめて、親友としてお前の側に居る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます