双極性障害の仕事

椿みなと

第1話 砂の城

2011年、ひどい震災のあった年だ。


僕の就職活動はもう少し前に遡るが、その頃のことはあまり思い出したくはない。

リーマンショックの影響が直撃した世代であるからだ。

この国の基盤となるもの、幼い頃から憧れたもの、これからは実力社会だと言われ

勝ち取ったと思ったもの。全ては砂の城であったと、この時に痛感した。


日雇い派遣、短期派遣、アルバイト、正社員雇用、安定した職やとてもやっていけるような仕事に就けないまま、既にこれだけの仕事を経験していた。


そして、この年。

僕は職場の上司を背負い投げした後、社員に追いかけられ仕事着のまま走って振り払い、電車に乗って人気のない川で涼んでいた。コンビニで氷の冷たいアイスも買って。


空は青く、雲は夏の空を描いていた。


子供の頃は、こんな時期には夏休みの半分を祖母の家で過ごした。

海辺にある祖母の家は、波の音が絶え間なく聞こえ、2週間以上もの間、飽きもせずに毎日海で遊んだ。

朝には昇ってきたばかりの太陽が海面を細かくきらきらと映し出し、昼にはもくもくと白い雲が海面をゆっくりと横切り、水平線に明かりが飲み込まれ水温が下がる頃まで、一日中泳げるところまで泳いだ。

台風の日は海が荒れる。だが、晴れてしまえば波打ち際は宝物の山となる。沖にあった色々なものが流され、軽く砂を払いのけるだけでたくさん貝が獲れた。その他にも、サンドグラスや桜貝を拾い集めた。


祖母はもう亡くなったが、就職活動をしていたとき、スーツ姿をみて「立派になったわね」と喜んだ顔を思い出す。


今の自分は、とても憐れだ。


こんな姿を、見せることがなくてよかったのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る