第15話 ラウンド3

◇◆ ロシア モスクワ


損傷した身体の再生というより、再構築をしていた巨人は完全な無防備状態でした。


仮に…巨人が吹き飛ばした蜘郎が瞬間移動か、或いは超スピードで即戻ってきたならば、巨人は弱点の心臓を破壊されて死滅していたでしょう。


しかし、蜘郎はタチアナと遊んでいたため、間に合いませんでした。


復活した巨人は蜘郎との戦闘で明白となった自身の弱点を克服するために、粘体群に人間の他、鉱物等を運ばせていたのです。


それを使用して肉体内部で骨格を生成すると、完全二足歩行で素早い移動が可能となりました。


身体つきもブヨブヨとした肉塊の巨人ではなく、シャープで筋肉質な凶悪極まりない巨人へと変貌しています。


この力で巨人はさらなる悪夢を町中に振りまくのです!(※悪いのは蜘郎です。)


「■ャアアアアアアアアアア!!!」


巨人は機敏な動作で、短距離走選手の様に疾走。


巨体が地響きを唸らせて、新たな生贄が多数生息する市街地に最高速度で向い……


「■■ギ■ギャガカ!?」


……だが、突如として巨人の右足が消滅して、頭部が地面へ落ちるようにして倒れる。


その巨体が倒れた衝撃で、急ごしらえ故に柔軟性が欠ける背骨部分がへし折れて体がグチャリと潰れます。


巨人は急いで現在の状況を把握するために、頭部を強引に270度回転させる。


それにより巨人の頸椎部分は粉砕されましたが、自身の邪魔をする敵対者を発見できました。


巨人の前に現れたのは巨大な蛇竜の姿をしたサムライ……蛟賀です。


「某…オ前ヲ…丸囓ル!!!!!」


蛟賀は蜘郎が万が一にでも殺されるような状況になれば、途中で回収するつもりで密かに後方を追尾していました。


しかし途中で見失い、再捕捉した際に蜘郎がタチアナと戯れているのを確認。


そして、その間に巨人が復活……蛟賀は強化された巨人と蜘郎の因果関係を考察した末に、巨人を撃破することを選択しました。


何故、蛟賀がそのような事を選択したのか、彼は心中で何を思ったのか?……………それは、誰にも分かりません。


「「「あ!■ああ!■■ぁあぁ■…!」」」


突如として現れた蛟賀から巨人を守るために、周囲から湧いてきた粘体群が触手をうならせて彼へと群がります!!


……だが、その竜鱗に接触した粘体の触手は、空間から追放されたように消滅する!!


そして、蛟賀は凄まじい速度で長い尾を鞭の様にしならせると、粘体群を邪魔な建物ごと掃討!!


「「「■■ああ■■あぁ!?…」」」


強靭な蛇竜の尾に蹂躙されて、凄まじい速度で一方的に粘体群が消滅する。……そして蛟賀がそのまま蛇尾ムチを数回振り下ろすと、周囲の粘体群は呆気なく全滅しました。


それでも粘体群が時間を稼いでいた間に、巨人は身体を再生し終えました。


更に巨人の身体は、蛇竜の攻撃を防ぐために全身を金属の様な外皮で覆い隠します。


その有機的な炭素の鎧で全身を守る巨人は、だがしかし……


「無駄ダァ!!」


蛟賀の昇竜が天を突破するような突進!!

それにより巨人の腹が引き裂かれました!!

蛟賀の空間を抉り取る攻撃の前に硬度は意味を成さない!!


「■■ガギガ■ギギ…ぎ!?」


蛇竜に穿たれて巨人の腹に巨大な穴が開く。……それにより向こうの景色が一望できます。


巨人は半身を支えきれずに、ソレを地面へグチャリと落下させる。


大きな損傷により構造的に身動きが取れなくなった巨人に対して、蛟賀は全てを浄化する偉大な竜の咆哮で、肉粘体ごと巨人を消滅させます。


「唖嗚呼唖嗚呼唖嗚呼唖嗚呼唖嗚呼唖嗚呼唖嗚呼唖嗚呼!!!!!」


清浄な竜による魔を破壊する咆哮で、巨人の外皮は消滅する。


そして内側の邪悪な肉片達も同様に消滅していきます。


だが、本体である心臓は、生存のために肉の鎧を脱ぎ捨て、その身から伸びる触手を手足の様に使い逃走を開始します。


「逃ガサン…」


巨大な蛇身をくねらせて、障害物を紙のように引きちぎりながら、一拍で心臓の逃走経路に回り込む蛟賀。


「■■■■■!?!?」


蛇に睨まれれ、退路を断たれた巨人の心臓!!……しかし、この心臓にはまだ、今まで貯めた魔力と生命力があります。


心臓はそれを全て注ぎ込み、巨大な魔法陣を夜の空に作成する。

……すると、そこから無数の悍ましい肉粘体達が雨の様に降りてきました。


蛟賀は、仕方なく其方に対応するため心臓を見逃し、意識を空に移す。


「ヤレヤレ面倒ダガ、仕方ナイカ。……細カイ作業ナラ此方ダナ『変態』」


竜蛇の体が空間に浸透する様に消えると……代わりに、その空間から翡翠色をした龍鱗の外骨格を纏うサムライが現れます。


その眼を隠すバイザーと頭部の側面から生えた二本の角は琥珀色の輝きで、サムライのアギトを開くと巨竜じみた咆哮が夜のモスクワに雄々しく響きます。


「『変態』完了……まぁ、心臓の方は無視でいいな。地上には騎士達と蜘郎がいる。某は肉片らを始末する…!」


蛟賀はバイザー越しの龍眼で、魔方陣から召喚されて地表へと落ちる粘体群を全て捕捉すると、琥珀色に輝く翼を生成して竜が如く天へと飛翔する。


その飛行速度はまさに閃光で、蛟賀は竜の鍵爪の様な刀を生成すると両腕に装着し、無数の粘体が地表に落ちるより早く駆動して排除します。


「破ぁ!!」


蛟賀の竜爪に抉られた肉の粘体達は、この世界から追放されるように次々と消滅していきました。


縦横無尽に天空を飛ぶ蛟賀ドラゴン

狩られて、消える肉の粘体スライム


瞬く間に半数近く数を減らされた肉粘体の一つは、襲い来る蛟賀から身を守るため、ウニの様に全身から触手を尖らせて攻撃をします。……だが、しかし


「■■■■■!?」

「遅い……」


蛟賀は木葉の様にひらりと攻撃を軽く躱すと、続けて忍術を発動して空間から巨大な腕を召喚。


その腕で触手ごと肉粘体を握り潰す!!


更に蛟賀は肉片相手に空中で歌舞伎役者の如き大立ち回りを演じる。


その最中、突如として蛟賀の思考空間に、蛇眼の巫女姫たる利里子が現れました!


「大御巫?…何様だ。急ぎでないなら後にしてくれ…」

『蛟賀さん!』

「?」

『ふふ、呼んでみただけ♪』

「失せろ」

『どむぅ!?』


蛟賀は思考空間から利里子を排除すると、固有武装を展開する。


武装展開のうりょくはつどう…『竜頭荼毘りゅうとうだび』」


サムライの能力を発動したことで、蛟賀の胸部から竜頭が出現しました。


竜頭はアギトを開くと火炎を撒き散らして、討り残した粘体群を焼き払う!!!


「大方は消えたな」


竜の頭はアギトを閉じて炎を放出し終えると、冷却されてその閉じられたアギトの隙間から水蒸気が漏れ出ました。


「「「「「■■■■■!!!」」」」」


蛟賀が現世にいた肉粘体達を殲滅すると、魔方陣から新たに落ちる肉の粘体達は、機関銃から放たれる銃弾の様に蛟賀へと降り注ぐ……それは自身を弾頭とした起爆攻撃です!!


「■■■!!!」「■■■!!!」「■■■!!!」「■■■!!!」「■■■!!!」


「喧しい……」


悍ましい肉片の花火の間を縫うように飛行する蛟賀は、その最中に両手で印を結びます。


「所詮は猿知恵だな……蛛呑の方がまだ賢い」


蛟賀は起爆攻撃を避けながら、自身が修めた忍術を使用して空間に浸透する様に消ると、そのまま異空間に異動する。


余人の存在を許さない安全な空間で、別空間にいる肉粘体達をバイザー越しに捕捉しながら、『固有武装こゆうのうりょく』を背中から展開はつどうします。


武装展開のうりょくはつどう流刀蛇尾りゅうとうだび』」


蛟賀の背中から禍々しい蛇腹剣、或いは蛇じみた長く強靭なムチが生成されました。


蛟賀は自身を安全な異空間に置いたまま、その蛇腹剣を肉粘体が渦巻く空間へ特攻させます。


伸縮自在な蛟賀の蛇腹剣には戦闘用の自立思考能力と赤外線感知器官が搭載されており、肉片達を追尾して次々と殺戮を繰り返し、更に物理攻撃に完全な耐性を持つその蛇腹剣は、肉の起爆攻撃を無効化して、粗方の肉片を消滅させ続けました。


「良し。いいぞ、大体消えたな。……………ふむ?なんだこの気配は」


蛟賀は魔法陣の奥から巨大な気配を感知し、通常空間に帰還する。


すると其処で、モスクワの上空にある魔法陣の奥から冷気と共に肉の粘体で構成された巨大な脳髄が迫ってきているのを確認しました。


「なるほどな。あの肉片達の『大元』か……さて、どうするか。魔法陣の破壊か、それとも大元を排除するか……」


……蛟賀は思考の末に、巨大な脳髄の排除をすることを優先しました。


魔方陣の破壊をした場合、その影響で向こうの空間と此方の空間を繋ぐ門が閉じられずに、その結果この町全土が恒久的な異界になる可能性を危惧したからです。


蛟賀は、肉粘体の『大元』たる巨大な脳髄を一撃で破壊する。


そのために真打の姿を現します!!


「さて…『真打変態』」


蛟賀の背からは輝く琥珀色の翼が生れます。


更にそのバイザーが開かれて、両眼の間に存在する蛟賀の逆鱗である『第三の眼』が露わとなり、仮面を失った蛟賀の体の奥からは制御不能な憤怒が生れる……


「グウォオオオオオオォォォ!!!!!」


出口を求めて体内で荒れ狂う憤怒のエネルギー、それは冷静沈着な振る舞いを心がける者とは思えぬ咆哮と共に、開かれたアギトから琥珀色のエネルギー破として放出されーーー


「■■■■■!!!???」


魔法陣の奥に存在する巨大な脳髄に直撃。


「■■■%△!?……ゲ…ガァァ!?」


巨大脳髄は内側と外側から魂すら焼却する龍炎に喰い尽くされて融解────その後、消滅。


そして、『大元』たる巨大脳髄の消滅に伴い、召喚物が消えことで、この世界と彼方の世界を繋ぐパスが途切れ魔法陣も薄らぎ消えました。


蛟賀は、討伐を確認すると『真打変態』を解除する。憤怒の感情が消えて、冷静の仮面を取り戻した蛟賀はバイザー越しの龍眼で心臓を探索します。


「心臓は……発見いた、あそこか」


節足動物めいた移動をしていた心臓を魔導騎士の部隊が包囲しています。


その戦闘は直ぐに終了する。そう考えた蛟賀は今度こそ本当に姿を消しました。


「雑事に時間を取られたな。…そろそろ『本命』の任務に取りかかるとしようか…」



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