海に向かって
ひふみん
第1話「再会」①
こんな矛盾した想いを持って明日を迎え入れるなんて、思ってもみなかった。
一体、何を期待しているのか。
きっと、何も起きるわけない。
そんなことは分かっているはずなのに。
それでも心臓はこんなにもドキドキしている。
この二日間。
何が起きても、何が起きなくても、
「……きっと一生、この旅のことは忘れない」
―――
朝目覚めて、最初に意識したのは遠くから聞こえてくる蝉の声だった。
「……」
薄く開きかけた瞼の裏に、強い光を感じる。あまりの眩しさに全然目が開けられない。
少しずつ慣れてきたところで、薄く開いた目の先にある光を見る。ほんの僅か開いたカーテンの隙間から、狙い澄ましたかのように目の位置ピンポイントで朝日が差し込んでくる。
堪らず、寝返りを打って朝日に背を向ける。
無事、目への直接射撃は回避できたが、それでも十分に瞼の裏は明るい。ぼんやりとした意識の中で、思考を巡らせる。
――あれ?俺いつ寝たんだろう?
意識的に眠った覚えはなかった。遠足前の小学生のように、昨日は今日が楽しみ過ぎて、布団に入ったはいいものの全然眠れる気配がなかった。
今日の予定を頭の中で反芻する度に、意識は瞼の裏でどんどん覚醒していった。これは、今日眠れないかもどうしよう、と思っていた結果が今現在のお目覚めだ。
結局、ぐっすり寝ている自分の呑気さに呆れる。
しかしすぐに、今日のこれからのスケジュールを考えると、ちゃんと眠れたのは良かったと思い直す。
炎天下の中、寝不足が原因でぶっ倒れでもしたら洒落にならない。
そんなことを考えていると、ツーと額に汗が伝った。それを合図とばかりに、一気に額に汗が噴き出す。
いや、気が付けばすでに全身汗だくで、寝間着が体に張り付いていた。
「あっつ!!」
たまらず、飛び起きて汗を拭う。すっかり目が覚めてしまい、自覚して噴き出してくる汗をひたすらに拭って、上着を脱いだ。その上着で全身の汗を拭うが、そもそも上着そのものがベチャベチャ過ぎて、タオルの代わりを全く果たしてくれない。
止め処なく噴き出してくる汗に悪戦苦闘しながら、枕元に置いてある時計に手を伸ばす。コンタクトを外している裸眼では、大分近付けないと時刻が確認できない。
デジタル表記の目覚まし時計は、「9:07」を表示していた。
チカチカと点滅する時間表示に合わせて瞬きを繰り返し、ようやく脳がクリアになった。
「……ヤバっ!」
慌てて飛び上がり、上半身裸のまま、バタバタと部屋を出た。
―――
ちゃんとしたタオルで体の汗を拭き、着替えを済ませると、慌ただしく一階に下りた。
「おはよう、昇。今日はやけにゆっくりやねー」
ちょうど、台所から出てきたばあちゃんと鉢合わせになった。
「おはよう、ばあちゃん。味噌汁用意してくれる?」
挨拶もそこそこに、台所に入って炊飯器からご飯をよそう。量は、いつもより気持ち少なめだ。ここであまり多く食べてしまうと、恐らく後がしんどい。
「慌ただしいのー」
お小言を言いながらも、ばあちゃんはすでに味噌汁を火にかけてくれている。
「ありがとう。母さん、おにぎり用意してくれてる?」
「うん?それか?」
ばあちゃんが指差したテーブルの上には、キッチンシートで包まれたおにぎりが二包み用意されている。大きさからして、一包みに三つは入っていそうだ。
「『三個で良いって言ってたけど、友だちも食べるやろうから多めに作っておきました』とお母さんからの伝言」
「おぉ、ありがとう!」
平日なので、既に仕事に出掛けてしまった母さんの代わりに、ばあちゃんに礼を言って温まった味噌汁を受け取る。自分でよそったご飯も持って、居間へと向かう。
席に着くと、すぐさま朝ご飯をかっ込んでいく。本当は八時に起きる予定が、大幅な寝坊だ。ゆっくりしている時間はない。
「そんな慌てて食べんでも」
呆れながら、ばあちゃんが湯呑み茶碗片手に居間に入ってくる。
「十時に皆と約束しとるからね。あんまりゆっくりもしとれんの」
言いながら、ご飯を味噌汁で流し込む。
「準備は済んどんが?今日は何か随分暑くなるみたいやから、ちゃんと水分持って行かんと……」
「分かってる。昨日のうちにあらかた準備は済ましといたから、大丈夫」
ばあちゃんが言い終わらないうちに、割り込んで話を終わらせる。ばあちゃんは、小言を言い始めると長くなってしまう。
小さい頃は、何でもはいはいと良いお返事をしていたものだが、最近はそのちょっとしたお小言が正直鬱陶しい。
ちょっとしたことでもいちいち言われるものだから、最近はこうして途中で話を切ってしまうことも度々だ。
心配されているのは分かるが、高校三年生にとってこうしたお小言はどうしようもなく鬱陶しいノイズだ。
「ちゃんと考えて色々用意は済ませてあるから、心配せんといてー」
ばあちゃんはまだ色々と言いたい様子だが、それには気付かない振りでなるべく早く朝ご飯を済ませた。
―――
朝食を早々に済ませると、二階に駆け上がって準備の最終確認をする。
時刻は既に九時半を回っていて、出発予定時間まであと十分ほどしかない。
昨夜のうちに、あらかたの準備は済ませておいたが、それで油断して忘れ物があったら大変だ。せっかくの旅行なのだから、万全の状態で行きたい。
とはいえ、これからの道のりを考えると、荷物が多すぎるのはまずい。冗談抜きで、死活問題に繋がる。だからこそ、荷物は厳選に厳選を重ねて選び抜いたつもりだが、それでも一つ一つ今一度確認していく。
「……よし、良さそうかな」
口に出して確認し、朝入れようと思っていた充電器なども一緒にリュックサックに入れると、ジッパーを閉めた。
すると、心臓がドクンと脈打った。
――いよいよ、この旅が始まる。
準備は全て完了して、もう家を出る時間だ。家を出れば、今日と明日の短くも長い道のりの旅が始まる。
海の街、氷見市に向けての自転車旅行。走行距離約四十キロ。到着予想時間夕方四時の弾丸旅行。幼馴染から提案された夏の旅だ。
旅そのものにはすごくワクワクしている。提案された今回の内容は、結構無茶だがそれを上回って楽しそうで、ずっとこの日が来るのを心待ちにしていた。
だが、今心臓がスピードを上げて騒ぎ出しているのは、そうしたワクワクとは少し違う。
――もうすぐ、あいつらに会うんだ。
そう自覚すると、更に心臓は加速し、まるで耳元で鼓動が打ち鳴らされているようにどんどんヴォリュームを上げていく。
今日一緒に行くのは、中学時代の仲良しメンバー四人だ。
二人がいわゆる幼馴染で、小学校からずっと一緒で仲が良かった。そこに、中学で仲良くなった二人も加わっての仲良し五人組。中学時代はずっと一緒につるんでいて、学校内も放課後も、時には休みの日だって一緒だった。
掘り起こせる想い出は数え切れないほどあって、それを思い出すたびに、自然と頰が緩む。あの頃は良かったな、なんてジジ臭い感傷に浸ったりする。
こんな関係が、卒業してもずっと続いていく。
そう思っていた。
しかし、高校に入り状況は変わった。
それぞれ別々の高校に合格した俺たちは、買ってもらったばかりの携帯電話のメールアドレス交換をし、「また皆で遊ぼうな」なんて言っていた。
高校が違っても、これまでのように会って遊んでバカやって、同じような時間を過ごすと思っていた。
だが、実際この三年間みんなが集まることはなかった。
高校入学当初は、まだクラスメイトにも馴染みきれておらず、「最近どうよ?」なんてメールのやり取りをしたりもしていた。
しかし、ひと月も経つと友だちも増えてきて、クラスにも馴染んできたのを境に、こちらからメールを送ることはなくなり、皆からもメールが来ることはなくなった。
そのことについて、ふと気付いた時に一抹の寂しさを覚えても、そこで何かアクションを起こすわけでもなく、その気持ちはまた日常の中に埋没していった。
そして、そういうものなのだと心が納得してしまっていた。
そんな、夏が間近に迫ってきたある日、一通のメールが届いた。
『中学時代のメンバーで自転車で海に行かないか?』
それは、幼稚園からの幼馴染、井川亮から送られてきたものだった。
それが送られてきた時、心の中で何かが弾けた。
高校最後の夏に、あのメンバーで最高の想い出を作りたい。
即座に「OK」と返信し、二人で大枠の計画を立てて他のメンバーにもメールを送り、今日この日を迎えた。
ずっと楽しみにしていたはずなのに、どうして今頃になってこんなにも心が騒いでいるのか。
三年という年月は、高校生として過ごしてきた時間としてはあまりに長い。
そして、その間に離れてしまった五人の関係が、今日と明日であの頃のように戻ってくれるのか。
いや、むしろ今日会った時点から、何の違和感もなくあの頃のように戻って楽しい時間を過ごせるのか。
それが、どうしようもなく怖いのだろう。
「……ふぅ」
ゆっくりと目を瞑り、大きく深呼吸をした。それを繰り返し、心を落ち着ける。
でも、そんなことをあれこれ考えていても仕方がない。もう、出発の時間は来ているのだ。
――大丈夫。俺たちなら、絶対にあの頃に戻れる。
そう強く信じて、目を開けた。
「……よし」
一言、自分を奮い立たせて呟くと、荷物を担いで部屋を後にした。
外に出ると、眩しい光が体全体を包み込んだ。玄関先に止めてある自転車も、太陽の光を反射させてキラキラとしている。
空は雲一つない青空。上空の太陽は、煌々と白く輝いていて、これからの旅を祝福してくれているかのようだった。
庭では、春に花を咲き終えた椿、これから色付こうとしている楓がそよ風を受けて葉をそよがせている。今はどちらも見頃と言える季節ではないが、葉だけの椿も、色付いていない楓も、地面に生えている苔や草までもがやけに綺麗に見えた。
太陽の眩しさに顔を顰め、手を顔の前にかざして光を遮った。
いい天気だ。
自然と頰が緩む。しかし、すぐにその顔が引きつった。
「……って、天気良すぎるだろ」
晴れて欲しいと思ったのはもちろんだが、雲一つない晴天はやり過ぎだ。今の時間でも結構暑い。これは、本気で熱中症に気を付けて行かないと死ぬ。
「……ふっ」
思わず、笑みが零れた。
自分たちが、これからやろうとしていることの阿呆さ加減に思わず笑えてくる。
これから、三十度は軽く超えてくるのであろう真夏の気温の中を、四十キロ近く海を目指して走っていくのだ。しつこいくらいに心配していたばあちゃんの言葉に、今なら頷いてしまうかもしれない。
しかし、俺たちは自転車で海まで向かうんだ。
リュックサックを担ぎ直すと、自転車に跨った。ペダルにしっかりと足を乗せて、ゆっくりと漕ぎ出した。
自転車はゆっくりと進み、そのまま見慣れた風景の中に加速していった。
待ち合わせの場所は、自転車で約五分の公園だ。昔は、汗だくになりながら遊びまくった公園だが、今は行く機会もすっかり減ってしまった。
やはり、今日は昔のことをよく思い出す。
日頃は全く気にならない見慣れた風景も、そうした場所の一つ一つに皆との想い出があった。家を出てすぐのところにある坂道も、その先にある神社の大きな銀杏の木も、商店街も、それぞれの場所に想い出があった。
その想い出を拾い集めていくかのように、自転車を走らせていく。
商店街を抜けると、あっという間に公園が見えてきた。地元の公園の中では一番大きな公園だ。
その公園の入り口に、三人の男子が立っている。その横には、並べられた自転車が三台。
また、心臓が微かに弾む。
一人が、こちらに気付いたようで大きく手を振ってきた。心臓の鼓動をかき消すかのように、ことさら大きく手を振って大声を上げた。
「おーい、お前らー!」
他の二人も、こちらに気付いて手を振っている。
「遅いぞ、昇ー!」
その声に、一気に自転車を加速させ横断歩道を突っ切った。
そして、三人の手前で急ブレーキを掛けた。正確には、「遅いぞ」と言った井川亮に当たるギリギリ手前で。
「うわっ、危ねぇ!」
亮は、大げさに飛び退いて俺の体当たりを避けた。
「昇、今本気で轢く気だったろ!」
「そんなわけない。一応」
「最後の一言が余計!」
朝から妙にテンションの高い亮に、思わず苦笑いが浮かぶ。
井川亮。この三人の中では、一番古くからの付き合いで、幼稚園のときからの腐れ縁で、今回の旅行の発案者だ。小さい時から妙に気が合って、ずっと変わることなく付き合いが続いている。照れ臭くて口に出して言うことは決してないし、これからもないと思うが、「親友」とはこういうやつのことを言うのだろうと思う。
しかし、高校に入ってから会ったのは高一の一学期以来で、約二年ぶりになる。久しぶりに会った亮は、長めの髪をバッサリ切って、さっぱりとした髪型になっていた。
久しぶりに会ったとはいえ、こいつとは昨日まで一緒に遊んでいたかのように自然に振る舞うことができる。
「いやー、相変わらずだね、二人とも」
テンションの高い亮とは打って変わって、穏やかな声が通る。南理久は、柔らかな微笑みを浮かべ、俺たちのやり取りを眺めている。
南理久。中学校からの同級生であり、同じ中学テニス部時代の部長で、中学の時に一番仲良くなった友だちだ。
地域の関係で小学校の時は別々の学校に通っていたが、中学校で同じ学校に通うようになり、同じ部活に入った。真面目で優しい性格から友だちは多かったが、その中でも一番仲良かったのが俺たちだった。
「何か、そんなやり取り見るのも久しぶりだね」
「そうか?昇とは、会う度にこんな感じだから、よく分からんな」
「って、俺たちも会うのは二年ぶりとかだろ」
亮のしょっちゅう会ってるような口ぶりに、思わず苦笑する。
「それにしても、理久は随分真っ黒に焼けたな。これは、夜会ったら気付かないな」
「そうかな?もう、ずっとこんな感じだから、自分ではよく分かんないけど」
「……おい、お前ら」
そうして、三人で盛り上がっているところだった。
「大事なやつを忘れてねぇかぁ!!」
亮を遥かに超える大声が、辺りに響き渡った。
「お前らだけで、楽しそうに盛り上がってんじゃねぇよ」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、吉川健吾が会話に乱入してきた。
吉川健吾。小学校からの付き合いで、この中では二番目に付き合いが長い。いつも意味不明なハイテンションで、周りを巻き込むお調子者だ。声もでかいが身体もでかく、背も高い。その体格だけで十分に存在感があるのに、それに加えてこのテンションなので、こいつがいるだけでその集団はやけに目立つ。
その性格で、理久同様友だちが多い健吾だが、なぜか比較的静か(健吾基準)な俺たちと仲が良く、ずっとこうしてつるんでいた。
「……よ、吉川も相変わらずだね」
明らかにその雰囲気に圧倒され、理久は固まっている。
「っていうか、朝からうるせぇよ。これから氷見まで行くっていうんだから、もうちょっと体力温存させてくれよ」
鬱陶しそうな表情を隠そうともせず、亮は指で耳栓をしている。
「なんだよ、これから辛い道のりが待ってるから、俺がチームの雰囲気を盛り上げてやろうっていうんじゃないか」
「盛り上げなくてもいい。っていうか、お前はそのデカい体で風除けになってくれれば、それがチームにとって一番いい」
亮と健吾のお決まりのやり取りが始まった。二人は、事あるごとにこうした小競り合いをしている。漫才でいうボケとツッコミの役割が決まっていて、健吾がボケて亮がツッコむ。
現に今も、「何だと!」と言って健吾が亮の耳栓を全力で外しに掛かっている。それに対して亮は、無駄に全力で抵抗していて、理久はそれを微笑ましく眺めている。
全然変わらないやり取り。
久しぶりに会ったとは思えないほどに、四人の関係性はあの頃のままだった。
そのことに、こっそりと胸を撫で下ろす。どうやら、ああして色々と悩んでいたことは、杞憂に終わりそうだ。
そう、今ここにいる三人は、紛れもなく友だちなのだから。
「……あれ?そういや、原田はまだ来てないか?」
健吾とのやり取りを終えた亮が、辺りを見渡した。
『原田』
その名前を聞いて、心臓がまた跳ねた。しかも、それは今までよりも大きい。
くそ、なんで俺は。
男子三人との久しぶりの再会を終えて、ほっと胸を撫で下ろしたところだというのに、また心臓がドキドキし始めた。自分の心境の移り変わりに、ちょっとうんざりしてくる。
「あいつは、いつも少しだけ遅れて来やがるからな」
「えっ、そうだっけ?原田さん、結構時間通りの人だったと思うけど?」
健吾と理久は、特に動揺することなく話をしている。というより、こんなにも意識している俺の方が変なのだろう。
そう、あいつと俺は特に何でもないのだから。
「おっ。噂をすれば何とやらだな」
その言葉に、また心臓が跳ねる。亮が見つめる先に視線を移す。
ついさっき走ってきた道の先、一人の女子がこちらに向かってきている。
「ごめーん、遅くなった!」
原田由唯は、元気いっぱいのよく通る声で、大きく手を振りながらこちらに向かって加速してきた。
「おせぇぞ、原田!ペナルティ一つな!」
手をメガホンにして、原田と変わらないボリュームで健吾が答えた。
横断歩道を渡った原田は、一直線で突っ込んできた。
さっきの俺と同じように、「遅い」と言った健吾めがけて。
「うぉっ、危ねぇ!」
まるで、先程の再現かのように、健吾は亮と全く同じリアクションをした。
ぶつかるギリギリのところで絶妙なブレーキを掛けた原田は、腰に手を当ててビシリと健吾を指差した。
「ふざけたこと言ってると、次は本当に轢くからね」
そして、ニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべると、その笑みが即座にニカッと満面の笑顔に変わった。中学時代、「花咲く」と評された原田得意のスマイルだ。
その笑顔に、男子であれば一瞬動きが止まる。
「……って、物騒な女だな、おい」
あんなにお調子者の健吾が、今の笑顔一発で完全にイニシアチブを取られた。見ると、亮と理久も若干固まってる。
そんな男子たちの膠着に気付いているのかいないのか、男子全員の顔を見渡すと、まずは理久のところにその笑顔を向けた。
「理久君、すごい久しぶりだね!背、伸びてるよね?日焼けもすごい」
「……久しぶり。そ、そうかな?背はよく分かんないけど、日焼けはテニス焼けかな」
三年ぶりに会ったなんてことを感じさせない原田の屈託のない話し方に対して、理久はすっかり緊張してしまっている。健吾でさえあの様だ、無理もない。
「井川も、結構久しぶりだよね?髪切ったねー」
「結構ってなんだよ。会うのは、理久と何も変わらないぞ」
「あはは、そう言えばそうか」
一方、亮は案外冷静に対応できている。亮は、男女共にあまり人と話す時に緊張することはなく、誰に対してもフラットに接することができる。
それでも、亮はまっすぐに見つめてくる原田に対して、面と向かって目は見れないみたいだ。そういう意味では、亮も十分に緊張している。
何しろ中学の時一緒に遊んでいた女の子が、高校生になってここまで可愛くなっているとは予想外だろう。
そして、
「そ・し・て、」
原田の顔がこちらに向けられる。しかし、その顔は笑顔ではなく、
「久しぶり、ボーイフレンド昇君」
悪だくみを思いついた、悪戯っ子の表情だった。
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