失楽園
折葉カナ
第1話
深い闇に堕ちて征く。何も見えない。何かの叩きつけられるような鈍い音、その残響だけが聞こえる。ここは、ここはどこだ。僕が信じられるものはコイツだけだった。いつの日も。
それさえも失おうと言うのか。
考えても見れば僕は、いつだって失ってばかりの人生だった。重度の没頭癖が故に彼女を失い。周囲との乖離が故に友人を失い。方針の相違が故に家族を失い。そして今、独りが故にコイツを失いかけている。
ひと通り自責の念に駆られ、頭蓋に鈍痛が走る。その痛みで闇から引きずり出される。
自宅だ。そうか、僕はまた文を書いている途中で……
僕が全てを失ってでも続けてきた「物書き」
別に一流の作家になりたい訳でも、賞を総なめにして有頂天になりたい訳でもない。ただの趣味として、誰かに読まれることも無ければ、誰かに褒められることも咎められることも無く、自己満足を極められるのならばそれで良いのだ。そんな程度のコイツを守り抜くために、僕は今日まで失い続けてきたのだ。
この物語はそんな僕がまだ何も失っていない、5年前から始まる。
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