告白失敗

@sauto

告白失敗

 仰向けで読んでいるせいで、ミカの脚がチラチラと目の端に入ってくる。本棚に押しつけて体を支える素肌の脚。

 そんな体勢を取るものだから、はずみでスカートが見えてしまいそうだ。

 だけどミカは気にする素振りもない。そのことが僕とミカの関係をわかりやすく表していた。

 幼馴染。

 小さい頃から一緒に育てば、いまさら異性として見ることはできない――と思っていたのに。

 高校生になってから、ミカを女子として意識しだすようになった。男子には無いしなやかな体のライン。少しの仕草が胸をきゅうとしめつける。

 膨れ上がった気持ちが僕を告白へ向かわせるまでに、大して時間はかからなかった。――玉砕するまでの時間も。

「はぁー……どうして今更そんなことを言うかなぁ? あんたって本当に空気よめないわね」

 下校途中に思い切ってぶつけた熱い想いは、ため息混じりの冷たい言葉で砕け散った。メガネの奥の眼が失望に染まっている。

 やってしまった。

 もうこの心地いい関係は終わり。二人で一緒に帰ることもない。ミカが僕の家に入り浸ることもない。置きっぱなしになっているヘッドホンとか本とかの私物も持って帰るのだろう。


 てっきりそう思っていたものだから、僕はいまの状況に困惑していた。

 ミカはいつもと同じように僕の部屋でヘッドホンをして宿題をやっている。

 あれ? 僕はさっきミカに告白したよな? それでフられたよな?

 壊れたはずの世界が何一つ変わっていないように思える。

 けだるい空気とゆったりとした時間。ひっきりなしの海風がカーテンを揺らしている。僕のそばにミカがいて、ミカのそばに僕がいる。うんざりするぐらいに変わり映えしなくて、だからこそ心地いい。

 一緒にいるだけでうれしくなる。

 ――そうか、そうだよな。僕らはこの関係でよかったんだ。前に進める必要もない。

「ミカ、さっきは悪い。これからも前と同じように一緒にいような」

 どうせ聞こえないと思いつつ、僕はすっきりした気持ちで言った。

 するとミカがぽかんと口を開けてこっちを向いた。それから片手で顔を抑えて長いため息を吐く。

「いや、うん、あんたをナメてたわ。10年以上付き合ってきてわかってたつもりだったけど、ここまでニブいとはね」

「なんだよ。いいじゃんか、幼馴染程度の関係だったって気づかなくて」

「私がなんで家にも帰らずにあんたの部屋に直行してるか分かる?」

 僕は答えに詰まった。そういえばそうだ。ミカの家族に問題なんてない。泊まりの連絡を入れるときも快諾してくれるし。むしろ歓声が上がるような……。

「一秒でも長くあんたと一緒にいたいからに決まってるじゃない」

「? 僕だってそうだよ? ずっと一緒にいたいし、でもフられたからもう……あれ?」

 簡単な宿題に苦戦する出来の悪い生徒へ教師がするような苦笑いで、ミカは答え合わせをした。

「こっちはとっくに恋人のつもりだったんだけど?」

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