短編集 『迹』

あるまたく

短編

『ドップラー効果』

 じわり、じわりと―――


 ミーン、ミンミン、ミーン


 ―――ユダる。


 茹蛸ゆでだこ


 クーラーの無いうちを今ほど呪ったことは無い。

 床に寝そべったまま、壁に足の裏をつけて思う。


「足の裏だけ冷たくなってもね……もうぬるくなってきたし。」


「ちょっと、女の子がなんて恰好してんの! あし閉じなさい!」


「うぇーぃ。」


 暑すぎてパタパタとさせていたら怒られた。お母さんは暑くないのだろうか。

 だるい体をそのままに、顔だけを向けて聞いてみる。


「おかーさんは暑くないのー? すごくない? 汗かいてないじゃん。」


「ソレで我慢なさい。」


 足元で今もぬるい風を送っているソレの前に座り、口をパクパクする。


「……あうあうあ。」


「……何やってんの?」


 なんかやりたくなった。なけなしの女の子らしさも、お母さんの白い目も気にならなかった。


 あちー。




―――――――――――――――――

 日常の一コマ。

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