第19話 『ぼくのわんちゃん』

 『子犬のプルー』と言う、NHK『みんなのうた』のお歌がありましたね。


 時期的には、それから数年後のことでしょうか。


 ちょうど、例の『キオスク新聞事件』の頃です。


 まあ、現在は、『拡散疲労砲』エネルギー充填マイナス120%(低いほど威力が増すのだ!) 状態ですが、当時はまだ元気でした。

  

 やましん、は、学校のキャンパス内の、古〰️い、昭和前半期くらいの校舎(格式があるというか、崩れかけと言うか)に、ちょっと事務的な用事さあって、お出かけしたのです。


 その格式溢れる(本館とも呼ばれていたような)校舎に入る前、いつのまにやら、小さな子犬さんが、やましんの足元にまとわりついて来ていたのです。

 

 どこからやって来たのか、やましんの『足』か『くつ』を、親と勘違いしたのか、強力な磁石か、はたまた、指に絡まって落ちてくれないビニルの切れ端みたいなかんじか、で、追い払おうとしとも、頑としてくっついてきます。


 かわいいけど、校舎の中を子犬さんを引き連れて歩くのは、いささか不安と言えば不安。


 でも幸い、この校舎は、あまり実用的ではなく、人の姿はまったくなし。


 仕方ないので、子犬さんを引き連れたまま、事務作業に入りました。


 すると、子犬さんは、少し離れた場所にうずくまり、安心したように、おねんねを始めます。


 しかし、やましんが、少しでも立ち上がたり動いたりすると、その可愛い首を、きゅっともたげて、不安そうにこっちの動きを確認するのです。


 いささか大きめの教室で、向こうの本棚に行こうとすると、もう大事になります。


「きゅわん、きゅわん!!」


 と鳴いて、くっついてきます。


 もとの席に戻って作業再開すると、また安心したように、ねんね態勢に入ります。


 これを1~2時間は続けたでしょう。


 もう、お昼です。


 お腹もすいた。


 ふと思うに、この子犬さんは、やはり、お腹がすいているのではないか?


 だから、離れないのではあるまいか。


 そこでやましんは、食料を供給してやろうと思ったのです。


 しかあし!!


 ちょっとでも、立ち上がって動こうとすると・・・


「きゅわん、きゅわん、きゅわん!!!!」


 と、大騒ぎになります。


 何回か、逡巡したのち、隙を見計らって(のつもり・・・)部屋から飛び出し、ドアは閉めて売店さ、向かいました。


 まあ、その後、十数分、その部屋の周辺は、子犬の叫び声で大騒ぎだったようなのです・・・・・


 それでも、どやら、誰も救出には来なかったらしく、やましんが戻った時には、「きゅわん、きゅわん!!!」の嵐が吹きまくっておりました。


 案の定、お腹は空いていたらしく、買ってきた、あんぱんだったか、なにかを、むさぼるように、食してしまったのでした。


 やましんも、パンを食べつつ、事務作業を再開し、やがて、するべきことは終了しました。


 そこで、考えたのです。


 あまりに、かわいい。


 すでに、その時期から孤独であったやましんですから、ずっと一所に居てやりたいとは、思ったのです。


 しかし、下宿人の身に在っては、そうもゆかない、ここは、誰かよい人に見つけてもらうに、越したことはない。


 この子がもとめているのは、やましんの『足』であろうから、キャンパスに出れば、『足』はいっぱいいるはずなのです。


 そこで、おかたずけをし、部屋に鍵をかけ、「きゅわん、きゅわん!!」と、嬉しそうに飛び跳ねる子犬さんを引き連れて、大勢が行き来するキャンパス中央部に移動したのであります。


 ・・・・・やがて、子犬さんは、いつの間にか、いなくなりました。


 誰かが拾い上げたのだろう、きっと。


 あるいは、もっとやさしい人の『足』に、くっついていったんだろうな。


 いまでも、そう思っています。

 

 やましんの人生で、あとにも先にも、たった一回、生き物から、めちゃくちゃ慕われた、至福の時でありました。


 あれから40年。


 わんちゃんは、ちゃんと大人になったろうか?


 幸せに暮らしただろうか?


 気にはなるけど、もう永遠に、なにもわからず、ただ、身に合わない酸っぱい思い出だけの、やましんであります。 はい。



               『くたばれ やましん!』

  













 
















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