第124話 メイドロボ・よし子、死す
”世界樹”付近に建つ教会の屋根の上から、蹂躙された魔術都市を眺めている。
この辺りは特に酷い有様だった。
今でもその足下に、何人かのグラブダブドリップ住人が埋もれている気配がする。
だが、少なくとも死んではいない。
どうやら『ルールブック』にて、彼らに空気が送り込まれるようになっているらしい。
――少なくとも、……彼らを窒息死させるつもりはなかった、か。
ウェパルの真意はよくわからない。
とはいえ少なくとも、彼らを道具のように扱っていることには間違いなくて。
「――やれやれ」
物思いに耽っている間も、壮絶な戦いが繰り広げられていた。
【名称:メイドロボ・よし子
番号:SK-17
説明:管理者の言うことをなんでも聞いてくれるメイド型ロボット。可愛い(重要)。
B:99.9センチ、W:55.5センチ、H:88.8センチ。身長は167センチ、体重は50キログラム(峰不二子と同じ)。
容姿は可愛らしく(超重要)性格は優しく、可愛い(ものすごく重要)。家事全般が得意で料理の天才でもある。好きなことは人に喜ばれること、得意なことは運動。
太陽光発電で動くため食事などは必要ないが、食事をすることでもエネルギーを蓄えることが可能。
補遺:戦闘能力はSK-6”龍”と同等のものとする。】
”メイドロボ・よし子”とニーズヘグの一騎打ちである。
ニーズヘグが何ごとが叫んだが、
『グゲガァゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ殺ス!』
としか聞こえなかった。
瞬間、こちらに向けて破壊光線が直撃。足場が消し飛んだが、京太郎はちょっとよろけただけで近くの足場に着地する。スーパーマンとしての立ち回りにはそろそろ慣れつつあった。無論、”無敵”ルールが働いているため痛くも痒くもない。
『――!?』
黒竜が一瞬、妙な顔を作る。
生命エネルギーを奪うはずの術を受けて平然としていることに驚いているらしい。
ただそれだけで、彼がウェパルにとってどういう存在だったかがわかった。
――捨て駒、か。
瞬間、ニーズヘグの顔面がぐにゃりと歪む。”メイドロボ・よし子”の対艦ミサイルを思わせるアッパーカットをまともに受けたのだ。
”よし子”の外見は……秋葉原とかで見かける等身大フィギュアが動き出したらこんな感じだろうかと思われた。ぶっちゃけかなり不気味である。戯画的な表現を現実に持ち込むとこうなるという好例に思えた。
――良かった。……あれを性欲処理とかに使わなくて。
何がどう悪く作用してしまったかはわからない。だが二代目の”メイドロボ”を考える時は、もうちょっと具体的に外見を設定した方が良さそうだ。
何より大きな誤算がある。
彼女たぶん、股間に何もない。
”メイドロボ・よし子”とニーズヘグの戦いは一見、前者の優勢に見えた。サイズ感が違いすぎるため、ニーズヘグが翻弄されている形だ。
だがそれだけでは足りない。時間が掛かりすぎる。ステラの見積もりでは「まともにやってたら日が暮れる」レベルらしい。
――《不老不死》の”固有魔法”と対峙する手段は。
一つ。A級以上の”マジック・アイテム”を使う。
一つ。同じく”固有魔法”をぶつける。
京太郎が考えたのは、ステラかシムの”固有魔法”を利用する案であった。
それがダメなら”焔の手袋”を使う。だがこの手は使いたくなかった。威力が強すぎるためである。下手にあの力を使って街の人々に被害が及んだ場合、彼らを殺してしまいかねなかった。
では、どう奴を攻略するか。
”異世界用のスマホ”で相談したところ、解決策はすぐに見つかった。
ステラもシムも、うまく戦えば”不老不死”を無効化する奥の手を持つことが判明したためだ。
そして議論の末、――今回の主役はシムに決まった。
『グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア! カンリシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』
ニーズヘグが、真っ直ぐこちらに向かって跳ねる。《空中浮遊》を使っているのだろう。その動きはどこか物理法則に反していて、不自然な感じだ。
京太郎は焦っていない。《破壊系》の術は何も怖くない。彼の手札は、どちらかというと防御に特化している。
――とはいえ、こちらが完璧な安全圏にいるわけではないが……。
レンガの街を蹴飛ばしながら、竜が近づいてくる。東京ドーム一つ分は離れたつもりだったが、あっという間に距離を詰められていた。大迫力だな、と思った。USJのハリポタの乗り物と同じくらい。
その竜の行く道に立ち塞がるように、”メイドロボ・よし子”が回り込む。だが、そろそろ彼女のハッタリじみた戦術も通じなくなっていた。黒い鱗の竜は、蒼白いオーラをその翼にまとい、箒で払うように”よし子”を薙ぐ。
『グ……………ギギギガガガ、ピー!
(-_-)』
あんまり可愛くない悲鳴を上げて、”よし子”の首から上が飛んだ。青と黄と赤いコードで結ばれた断面図がここからでも見える。
その次の瞬間、――彼女のボディがものすごい光を放ち、ニーズヘグの視界を一瞬だけ塞いだ。
”よし子”には悪いが、それを作戦が最終段階に入ったという合図にしている。
『これでぇ! どうだッ! ――《サジタリウスの矢》!』
すでにニーズヘグの懐へ潜り込んでいたステラが、曇り空を貫いて一本の光の矢を召喚。矢は真っ直ぐニーズヘグの背に直撃した。
『グウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
黒竜がひらがなの”く”の字を寝かせたような形になって、悲鳴を上げる。
『もっかぁい! ――《ヴァルゴの宝石》!』
ステラがポケットから緑色のエメラルド石を取り出し、アンダースローで投擲。
緑色の閃光を放つそれが黒竜の喉元に叩き付けられ、その肉の大半を吹き飛ばし、血の色に染まった骨を露出させる。
その損傷は即座に《自己再生》によって回復するだろう。
だが、――目的は、顎の裏の部位、――逆鱗を天に向けさせることにあった。
「悪いな」
京太郎が嘆息する。
そして空から一閃、真っ直ぐ落下するような形で一人の”人狼”が現れた。
火焔の力を付与された”シムの槍”を手に、その肩にはフェルニゲシュの姿も見える。
彼曰く、「武器は何でもいい」らしかった。
ただ、彼の”固有魔法”《大番狂わせ》は、……彼我の実力差があるほどに手持ちの武具・魔力を強化する効果がある、らしい。
――終わりだな。
せっかくのシムの必殺技が炸裂する瞬間だったが、――京太郎はニーズヘグに背を向け、『ルールブック』を開く。
彼が「できる」と言い切ったのだ。
で、あれば、自分の目で見るよりも結果は明らかだと思われた。
それまで続いていた轟音に比べれば、とどめの一撃は針を落とした程度のもの。
ず、ど、……と、確かに肉を破る音が聞こえて。
断末魔すらなかった。
巨大な肉の塊が弛緩し、当たりにある数軒の建物を巻き込む形で斃れる。
京太郎はすでに次の問題、――周辺にいるワイバーンの対処に取りかかっている。
わざわざ確認する必要すらなかった。
優しい”人狼”の友人が、その後何をするかについても。
しばらくすると、”魂運の指輪”が働く音が聞こえてきた。
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