第7話 襲撃
【名称:ジテンシャ
番号:SK-1
説明:管理人である、坂本京太郎の足になる乗りもの。ペダルをこぐことで車輪が回り、前進する。
車体は白色でかなり軽く、こぐのにほとんど力がいらないのが特徴。
サドルは凸凹でも尻が痛くならないよう、柔らかめのクッションにしてほしい。
あと車輪はかなり頑丈に出来ていてちょっとやそっとでは壊れないってことで。
補遺:嗅覚は鋭敏で、どのような動物の痕跡も追えるようにする。
補遺2:やっぱりペダルは不要。自動で動くことにする。あと背もたれもつけて、移動中はゆったり本を読めるような感じで。
補遺3:タイヤを強化。今より大きめのサイズに。多少の凸凹でも問題なく走行できるようにする。】
”ジテンシャ”に関する追加ルールを書き込み、逃げていった蜥蜴頭たちの後を追う。
道中、”生命”の欄から、連中に関する項目を探してみると、辞書ほどある文面の中から、さほど労せずしてそれを見つけることができた。
どうやら、頭の中に思い描いたワードが自動的に検索される仕様らしい。
【名称:リザードマン
番号:GG-1096
説明:蜥蜴種に魔力が宿り、人型に変化した”魔族”の総称。
蜥蜴種は基本的に不老で、かつ無限に成長する生命体であるので、生き続ける限り最終的には必ずリザードマンとなる。
なお、リザードマンはリザードマンを産まず、中型の蜥蜴種を産むことしかできない。その性質のためか彼らは家族を形成することはせず、この世界に存在する多くの生命体と違い、子に対する愛着をほとんど持たない。
種族的な性格傾向としては、縄張り意識が強く攻撃的な一方、仲間と認めたものに対しては温情深く、全体主義的な考え方をするものが多い。】
「なるほど……ね」
全体主義というとあれか。個人の利益よりも社会の利益を優先すべき……、みたいな、そういう考え方のことだよな。
京太郎は長く嘆息し、見た目的にも考え方的にも友達になれなさそうだと思う。
思えば、かつて働いていた職場は、そういう行き過ぎた全体主義がまかり通っていたような。
とはいえこういう世界では、その手の考え方でいる方が生きやすいのかもしれないが。
▼
都市部を抜けると、今度は苔むした広大な洞窟が広がる一角に出る。
そこかしこに立ち並んでいる柱のようなものは巨木かと思いきや、どうやらキノコの一種らしい。見上げると、天井に突き刺さるような形で傘になっている箇所が覗いていた。
風景が変わっても”ジテンシャ”は一切減速することなく、迷宮の中をまっすぐ走り抜けていった。
途中、敵意むき出しの昆虫の集団に追いかけられたり、うねうねした触手を持つ食虫(獣?)植物を遠目に見かけるなどしたあたりでようやく、自衛の手段を持つべきだと判断する。
「ええと。……とりあえず、さっきの子に渡したのと同じものでいいかな」
「世界にただ一つ」といった彼には嘘をつくことになるが、仕方ない。
”スタン・エッヂ”を追加でもう一本作りだし、”管理情報”から、この短剣のみ例外的に管理者の周辺でも起動を許すことにする。
短剣を持つと、不思議と少年じみた気持ちが蘇り、胸が震えた。
――こういうの、子供の頃に持ってたらはしゃいでたんだろうなあ。
苦笑し、鞄の中に”スタン・エッヂ”を丁寧にしまう。
――帰ったら東急ハンズでベルト買ってきて、いつでもナイフを抜けるようにしよう。
そんな風に考えていると、
『MOOO』
”ジテンシャ”が小さくうなって、減速を始めた。
どうやら目的地が近いらしい。
さて、ここからだ。自分の器量が試されるのは。
京太郎は内心、気合いを入れる。
――とにかく情報を得る。できるなら人脈も。
そんな京太郎の決意を試すように、数本の矢が”ジテンシャ”の頭部に突き刺さった。
「――ッ!」
しまった、”ジテンシャ”にも無敵設定を付与しておくべきだったか。
一瞬だけそう思う。
が、問題はなかった。
京太郎に向けて放たれた危険物はその効力を失うルールがあったためだ。
木矢は”ジテンシャ”のふかふか毛に絡まっているだけで、あっという間に塵と消えていく。
「一時停止ッ! 私が降りたら、安全地帯まで退避していなさい」
『MO…………』
”ジテンシャ”は命令に従い、京太郎が降りると即座にその場を離脱していった。
まだ、敵の姿を視界に捉えてはいない。
以前、弓の射程は50メートルほどだとテレビでやっていたのを見たことがあるから、そこまで離れていないはずなのだが。
――それにたぶん、あの”リザードマン”の住処も近いはずだよな。
京太郎は、苔むした洞窟を慎重に歩きながら、遮蔽物に視線を向ける。
この洞窟は、横幅だけで百メートルはあろうかという広々とした空間だ。そこに背の高い柱にも見える巨大キノコが乱立していて、とても視界がひらけているとはいえなかった。
思考を巡らせている間も、矢が数本、それも正確に心臓を狙ったものが突き刺さる。
「うわ、怖……」
たとえ怪我をしないとわかっていても、心臓に悪い。
京太郎は一人でホラーゲームをやっていてもあまりキャーキャー騒ぐタイプではないが、その時ばかりは心胆寒からしめるものがあった。
恐らくだが、その矢にはそれだけ明確な殺意が込められているためだろう。
普通に生きていて、ここまで濃厚な気配を向けられることなどほとんどないに違いなかった。
「こちらは話し合いに来た! 害を与えるつもりはない!」
両手を挙げながら前進する。
とにかく、死角が多いことが気がかりだった。
いくら無敵だとはいえ、いきなり襲いかかられるのは肝が冷える。
当然ながら、暴力で事態を解決するような案は却下していた。
所詮京太郎は雇われの身である。無闇に暴力性を発揮して良いはずがない、――少なくともその時の京太郎はそう思っていた。
なお、この心配は全くの杞憂であり、たとえこの場にいる”魔族”を皆殺しにしたところで、上司であるソロモンは眉一つ動かさなかったであろうことを知るのは、それから少し後のことである。
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