好き好き大好き! 返事は二択しかありません!
【大学が終わった後、ちょっと出かけないか?】
そのメールを見た私は飛び上がってしまいそうだった。
警察官を志す先輩の半年間の警察学校生活。会えない&あまり連絡も取れない寂しい日々を送っていた私だが、ようやく解禁の日がやってきたのだ。
私はこの日を待っていた。待ち続けていたのだ!! 大学で用事を済ませている間もソワソワしっぱなしで落ち着かなかった。
先輩は車で迎えに来てくれるというので大学敷地内にあるロータリーで待っていると、一台の車が目の前に止まった。
ウィンドウ越しに目が合った先輩。半年ぶりの先輩に私は感激のあまり涙を流した。半年ぶりの先輩…! かっこいい。ますますかっこよくなってるぅぅ!
運転席のドアを開けて車から出てきた先輩のもとに駆け寄ると、私は彼の胸に思いっきり飛び込んだ。
難なく受け止めてくれる先輩は以前にもまして逞しくなっていた。訓練の邪魔にならないように短く刈り上げたという髪型が、頬の肉が削げて精悍になった雰囲気とマッチしている。
あぁ、かっこいい…死んじゃう……先輩、しゅき……
「すきぃぃっ先輩っ、せんぱいっハグッ!」
「落ち着けあやめ。待たせたな」
「会いたかったですっ先輩っ」
犬みたいと言われても別に良い。
嬉しくて仕方がないんだ仕方がないだろう。久々に先輩と会えた私は嬉ションしてしまいそうだった。実際にはしないけどね。
飼い主と再会できた犬のごとく先輩に抱きついて喜びを表現していた私。大学4年生にもなってと呆れられるかもしれないが、今日くらいは大目に見て欲しい。
先輩は苦笑いしつつも、柔らかく微笑んでいる。私の頭をワシャワシャ撫でて、ギュッと抱きしめ返してくれた。
夢にまで見た本物の先輩だ。私は嬉しくて嬉しくてはしゃぐ心が抑えきれない。
「話はこれからゆっくりできるから、とりあえず車に乗れ」
「はいっ!」
お祝いでご家族の皆様に買ってもらったという車。これが初乗車である。私はどきどきワクワクと助手席に座るとシートベルトをして意気込んだ。
ありがたい事に企業から内定をすでに頂いている私は最近自動車学校に通い始めた。卒業までに運転免許を取得する予定である。私もいつか先輩を助手席に乗せて運転したいものだ。
車は一定の速度で走りはじめ、大学から離れると、一般道路に出た。車にはカーナビが着いているが、今は音を発していない。
私は隣で運転する先輩をちらりと見た。運転する姿をはじめて見た。ハンドルを握る手も運転する横顔もかっこいい……
私の手が勝手にスマホを掴み、無意識のうちに連写モードで先輩を撮影していた。
一時間ほどのドライブを経て到着したのは、高台のあるデートスポットだ。
夕暮れ時に到着したその場所はきれいな夕焼け空を一望できる。私達は高台に設置されたベンチに座ってぼんやりと景色を眺めていた。
「綺麗ですねぇ」
今まで電車やバスくらいしか交通手段がなかったけど、車があると色んな所にいけちゃうね。
「私が免許取れたら、私も先輩を乗せてどこかに連れて行ってあげますね」
「楽しみだな」
私は先輩と会えたらたくさん話したいことがあった。
就職が決まったことはもうすでに報告していたけど、そのことを改めてお話したかったし、先輩側の話もたくさん聞きたかった。会えなかった半年間の隙間を埋めるためにたくさんたくさん話がしたかった。
だけど実際に会ったらそんなことよりも先輩と一緒にいてこうしてきれいな景色を見られるのがすごく幸せで素敵なことだと感じた。
こんなきれいな場所で就活の話とか、大変だったであろう警察学校での話なんて野暮だ。
私は先輩の腕に抱きついて、しばしうっとりと時を過ごしていた。
そうしているうちに日は暮れ、夕闇が空を深く染めていった。
そうなると、街を一望できるこの高台は美しいイルミネーションを見ることができた。灯りがキラキラ輝いてとてもロマンチック。ここから空を見上げたら、空には星が瞬く。
この星すべて君のものだよ…なんてね。
「あー…あやめ。話があるんだが…聞いてもらってもいいか?」
「…話?」
何だ?
私が先輩を見上げると、彼は緊張した顔をしていた。急にソワソワしだした先輩。どうしたのだ、トイレに行きたいのか。
彼は珍しく歯切れの悪い話し方をして、なかなか本題に入らない。
ますます怪しい。
……まさか、別れ話…!?
私がその可能性にぎくりとしてしまい、身構えているとは知らない先輩は視線をさまよわせながら言いよどんでいた。
警察学校にも女はいる。浮気は多い。と言っていたのは自称お見合い相手。
もしかしたら……浮気の自供とか?
そっ、そんなあんまりだ。
半年もの長い期間いい子でマテをしていたのに……
私はどこの誰かも知らない女と先輩が仲良くしている姿を想像して泣きそうになった。
「…すぐに、って訳じゃない。俺はまだ配属先が決まっていないし、半人前以前の人間だ。それにお前も就職を控えた学生の身分だ」
その言葉に私の出かかっていた涙が止まる。
「……その、なんだ…もともと俺は結婚を前提に付き合っていたつもりなんだが……お前はどうかな。今も同じ気持ちでいてくれているかな」
「……先輩、それって…?」
深読みしたら…すごく私に都合のいい言葉に聞こえちゃうんだけど、気のせいかな?
高台は暗い。うっすらぼんやりと先輩の表情が見える程度である。私の目には先輩がひどく緊張しているように見えた。
先輩はゴソゴソとポケットに手を突っ込んで、私の前に小さな箱を差し出した。
「…お互いに落ち着いたら……俺と結婚して欲しい」
「……!」
先輩の言葉を反芻して、その言葉の意味を理解した私は飛び上がって喜んだ。
「せんぱいっ!」
先程せき止めたはずの涙が大放水状態だ。嬉しくて嬉しくて、これが夢なんじゃないかと疑ったが、頬をつねったら痛い。…夢じゃない。
私は先輩に抱きつくと、彼の唇にキスを落とすことで返事をした。
「返事はハイかイエスの二択しかないにきまってるじゃないですか!! 結婚するに決まってます!」
贈られた指輪を先輩につけてもらうと、気分は更に盛り上がった。
喜びを表現するのに先輩にチュッチュとキスを送っていたが、人目を気にした先輩によって展望台から引き離された。
私はプロポーズに舞い上がっていたけど、周りに他にも人がいたみたい。意識していなかった。
…仕方ないじゃん。嬉しかったから感情が抑えきれなかったのだもの。
「今度おじさんおばさんにも改めて婚約のお願いをしに行こうと思うんだ」
「そしたら私も橘家のみなさんに挨拶しなきゃですね」
駐車場に停めてあった車に乗り込んだ私達は辺りが真っ暗なことを良いことに、キスを重ねた。先輩は助手席に座る私に覆いかぶさるようにしてキスをしてきた。
だがあくまでキスだけだ。それ以上のことはしないぞ。先輩が私の体に触れてオイタしようとしたが、手を叩いてお預けをしておいた。
「場所を変えなきゃダメです」
私からあっさり手を離した先輩は無言でドライブモードに切り替えていた。車はそのまま夜の街へと消えていったのだ。
その後はご想像どおり、熱い夜を過ごさせていただきました。
学生同士の恋愛から形を変えて、私達は夫婦になることを選択した。いずれは結婚して家庭をもつという目標を掲げ、私達は前へと歩き始めたのだ。
だけど、私達の前には超えなくてはいけないラスボスがいたのです…。
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