秘密の花園に潜入! ごめんなさい先輩これは浮気ではないの。
あやめ大学1年の秋頃のお話。
一部百合風味がありますが、このお話はガールズラブではありません。
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『あやめさんも私の高校の文化祭に是非お越しください』
今年高校3年の雅ちゃんにそんなお誘いを受けた。雅ちゃんは聖ニコラ女学院というお嬢様学校に通う生粋のお嬢様。そんなお嬢様学校の文化祭に私のようなギャルが出没して問題にならないだろうかと尋ねたけど、雅ちゃんに「お気になさらずとも大丈夫ですよ。是非いらしてくださいな。良かったら橘さんと」と言われてしまったので、私は先輩とデートがてら雅ちゃんの通う女子校にお邪魔した。
この文化祭は私の母校の高校と同じく招待チケット制だ。文化祭の期間中のみ外部から男性の入場も許可されている。招待制だからおかしな人は入ってこないと思いたいが…
「可愛いねー彼氏いるのー?」
「あの、どいてください!」
「いいじゃんそんな冷たいこと言わないで〜」
私はつねづね思うことがある。ああいうナンパ野郎とのエンカウント率高くない? 遭遇すると高い比率で女の子困っているよね。
私は隣でパンフレットを眺めている彼氏の存在を忘れて、そのナンパ野郎と困っている女の子の間に割って入っていった。
「あんた達ここをどこだと思ってんの!? ナンパしたいなら街に出てからやりな!」
「んだよテメーには関係ねぇだろ!」
「誰だよお前!」
「あんたらこそ誰だ!」
ナンパ野郎が偉そうにしてんじゃないよ! 女の子が怖がってるのがわからないのか!
相手に威嚇されたので、私も威嚇し返していたのだが、後ろからガッと肩を掴まれて私は「なにっ」と肩を掴んできた相手を見上げた。
そこには無表情の彼氏様がいた。
…やっちまったなー!
ナンパ野郎どもは先輩に追い払われた。アイツら女だからって私のこと舐め腐ってたけど、背が高くてガタイのいいイケメン先輩には怯んで尻尾巻いて逃げてったぞ。
「…お前は、何歳だ?」
「…じゅ、19ちゃいでふ…」
「19にもなって学ばないのか?」
「しゅいまちぇん…」
顎の部分を片手でがっしり掴まれ、ほっぺをぶにゅっと潰されている状態だからしゃべりにくい。
最近先輩は私に指導する際体罰を加えるようになった。口で言ってもわからないからって言うけど、顔の形がブサイクになるから止めてください。
体罰よくないですよ先輩。
「あ、あのっ助けていただいてありがとうございました!」
「あぁ、いや…」
「本当に困ってたんです! …あの…お名前は…?」
ここで助けた男性に惚れるってよくあるベタな展開だよね…私は潰された頬を撫でながら複雑な心境でそれを見ていたのだが………何かがおかしい。
なぜかって、彼女は私を見上げて目をうるうる潤ませていたからである。
その目を私は知っている。初恋話をする際の花恋ちゃんである。
「……私の名前を聞いてるの?」
一応念の為に確認したんだけど、彼女はコクコクと勢いよく頷いていた。
「…田端あやめです…」
「…あやめお姉さま…」
彼女は私よりも背が低く華奢だ。黒髪ボブカットで目鼻立ちは小作りな顔立ちだが、顔自体が小さいので、バランスは悪くない。気が弱そうな雰囲気がさっきのたちの悪い男たちの格好の獲物になりそうな子である。
彼女に名前を呼ばれた瞬間、ブワッと百合の幻覚が見えたのはきっと気のせいだ…なんでこの子は私をうっとり見上げてるの?
「あの、文化祭にいらしたんですよね? 良ければ私が案内いたしますけど…」
「あ、いや…招待してくれた子に案内して貰う予定だから大丈夫…」
私の隣にイケメンがいるというのに彼女は私を見上げてうっとりしていらっしゃる。…まさか私がギャル男に見える…いやそれはないか。
「…懐かれたな」
「あはは…」
「……」
彼女は口を挟んできた先輩の存在に顔を歪めた。…まるで邪魔者を見るかのような目で先輩を睨みつけている。それにはさすがに先輩も戸惑っている様子だ。
女子校特有の文化なのだろうか…。
都市伝説だと思っていたけど、まさか本当にそんな世界が存在したというの…?
「あやめさん!」
「あ、雅ちゃん…」
この女の子の様子がおかしいからどうしようかと困っていたら、雅ちゃんが迎えに来てくれた。雅ちゃんと待ち合わせをしていたので、私と先輩は玄関付近で留まっていたんだ。今日は雅ちゃんに案内されて校内を見て回る予定だったの。
「…あら、静音さん…なにしていらっしゃるの?」
雅ちゃんは私の傍にピッタリ寄り添った状態の女の子を見て不思議そうに首を傾げていた。どうやらこの子のことを知っているようだ。
「…小石川先輩…あやめお姉さまとお知り合いですか?」
「私のお友達よ。…あやめさんが困っていらっしゃるから離れて差し上げて?」
雅ちゃんの後輩みたい。
やんわりと引き剥がしにかかってくれた雅ちゃん。ありがとう。どうにも振り払えずに困っていたんだ。
「あやめさんの隣は私の居場所なのよ。ごめんなさいね?」
「えっ」
雅ちゃんは私の腕に抱きついてにっこり大和撫子スマイルを浮かべた。
その笑顔の可愛いこと…! やだぁ私雅ちゃんに独占されちゃったぁ…
静音さんって子がショックを受けた顔をしているのが見えたけど、ごめんね! 私の隣は雅ちゃんの居場所みたい!
私がそれに喜んでいると、先輩になんとも言えない視線を向けられた。
ごめん先輩。でも浮気じゃないのよ。雅ちゃんは前世からの推しキャラだったから仕方ないのよ…! 私達ノーマルの女同士だから浮気ではない。
「…じゃあ、そこの殿方はなんなのですか」
「あやめさんの彼氏さんよ。そういうことだから、他を当たってちょうだいね」
どうやら雅ちゃんは牽制してくれているようだ。私が困っていると察知したから、体を張って守ってくれているみたい。
唇をかみしめて雅ちゃんを恨みがましい目で見ている静音さんをその場に残すと、私は雅ちゃんに校内案内をしてもらうために移動した。
現場から離れると、雅ちゃんがそっと私の腕を解放した。
「抱きついたりしてすみません。なんといっても女子校という閉鎖された学校なので、女性が女性に…という文化がありまして」
「びっくりしたけど、雅ちゃんが庇ってくれたから大丈夫! 雅ちゃんならいつでも大歓迎〜」
「まぁ、あやめさんたら」
雅ちゃんが照れくさそうに小さく笑った。だって腕組むのって仲良しみたいで嬉しいんだもん。全然問題ないよ。
私はニコニコしていたのだが、遠い目をして私を見てきていた先輩が口を突っ込んできた。
「…仲いいなお前達」
「仲良しでしょ~。でも先輩と大久保先輩もいつもこんな感じですよ」
「…俺は健一郎に抱きついたりしていないぞ」
何故か先輩は真顔になって首を横に振っていた。なかよし度を同じくらいと言っただけなのにどうしたんだ急に。
雅ちゃんの案内で、聖堂で行われるハンドベル部のコンサートを鑑賞したり、清貧をモットーにした食堂で一緒に食事をしたり(見様見真似で食べる前にお祈りしてみた)シスターと生徒たちが一針一針祈りを込めながら縫ったという霊験あらたか…いや、ありがたい小物入れなどを販売している雅ちゃんのクラスの出し物を見て回ったりした。
キリスト系の学校だからね。ちょっとだけついていけない部分があったけど、いい経験にはなったと思うよ。
ちなみに雅ちゃん自身は別にキリスト教ではなく、お家は仏教徒だと言っていた。
「今日は来てくださってありがとうございます。つまらないものですが、お土産にお持ちください」
「わぁぁー! ありがとう! 美味しくいただくね!」
「橘さんもありがとうございました」
「こちらこそ」
お土産に手作りらしきお菓子をもらった。雅ちゃんのクラスは小物屋だったから、雅ちゃんがお家で作ったものかな?
雅ちゃんに見送られて私と先輩は聖ニコラ女学院を後にしたが、帰り際に先輩がポツリとある疑問を呟いた。
「…彼女は、伊達の婚約者だと聞いたが…伊達は…色々問題行動を起こして…彼女を怒らせていただろう? どうなんだ?」
先輩の問いに私は目を丸くした。仲が悪かった伊達先輩のことを気にするのが意外だったからだ。いや雅ちゃんの心配をしているだけなのかもしれないけど。
「…なんだかんだお家同士の婚約だから…そういう流れみたいですよ? でも雅ちゃんはおっとりしていそうで芯が強いので、上手いこと転がすと思います」
正直私だって伊達先輩以外の男性の方が雅ちゃんは幸せになれる気がするけど…家同士の事となると私は口出しできない。
今現在伊達家で嫡男の再々教育をしているらしいから…クズ部分が矯正されるといいよね。
その話を終えた時、先輩はため息を吐いていた。
「…あやめは女にもてるな」
「…ヤキモチですか? でも先輩も男にもてると思いますけど」
「どこが」
高校の時後輩たちに慕われていたじゃないの。いいじゃん嫌われるより好かれたほうが。
「それに先輩は大久保先輩と取っ組み合いをよくしてるし」
「あれは抱き合ってるんじゃない」
なんでそんなに否定するんだか。仲良くていいと思うよ。
「…取り敢えずお前は何でもかんでも首を突っ込まないように」
「…すいません…」
先輩に蒸し返された。悪かったと思っている。身体が…勝手に動いちゃったんだ…
「チケット制でもああいうのが入ってくるんだから…考えものだな。世間には聖ニコラブランドなんて括りで見ている奴らもいるし、女子校といえどせめて男性教諭くらい配置するべきだと思うが…」
雅ちゃんいわく、この学校にはいろんな家庭出身の子が入ってくるようになって以降、外部開放の時ああいう輩が出没するようになったと言っていた。
私の母校の高校は共学だし、風紀委員会がしっかりしていたのでなんとかなっていた部分があるが、ここは女子校で、先生もシスターだけという女の園。だから手に負えない部分もあるのかもしれない。
お嬢様学校の聖ニコラ女学院の生徒をブランドのように扱おうとする男も世の中には一定数いるらしく、その魔の手に引っかかる女子も存在するらしい。
「…異性慣れしていないがために起きてしまうこともありますからね。…だけど男性恐怖症だから女子校に入るって女子もいるから、女子校自体はあったほうがいいし」
中学2年の時同じクラスだった友達は、男子によるいじりという名のいじめでとうとう男嫌いをこじらせた為、女子校に進学していた。
大学も女子大で、就職も女子比率の高い所を目指し、一生非婚主義を掲げている。まぁそんな生き方もあるというわけだ。
「…あやめが、女子校に進学していたらどうなっていたんだろうな」
「…あれ、私が女子校を滑り止め受験したこと話したことありますっけ」
話したことあったっけ?
私が先輩を見上げて首を傾げていると、先輩は苦笑いして「なんでもない」と首を振っていた。
先輩は私の手を掴んで、スタスタと歩きだしたので私は黙ってついていったのである。
…なにか忘れている気がするけど…まぁいいか。
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