ケジメは大事だ。自分のした事は責任を持つべきだからね。

「ごめんなさい田端さん…」

「この度は本当に申し訳ございませんでした!」

「そうだったんですか…この子ったら何も言わないから…」 

 

 山ぴょんと真優ちゃんが破局した日の翌日は土曜日。

 真優ちゃんは保護者付きで家に謝罪に来た。ご丁寧に菓子折りを渡され、玄関先で頭を下げられた。出迎えた母ははじめなんのことか理解していなかった。

 私は怪我の元の原因を親に話していなかったので現在母から刺さるような視線を向けられている。

 ママン、後で説明するから睨まないでください。



 昨晩ずっと泣き通しだったのか真優ちゃんの目は真っ赤に腫れ上がっていた。

 事情を知っているので私は敢えてそれを突っ込まなかったけども、謝罪に来た彼女に聞きたいことがあった。

 


「…朝生さんさ、何が悪かったか理解して謝ってるの?」

「…怪我をさせたこと、よね」

「山ぴょ…山浦くんに怒られたから謝りに来たんじゃないよね? 下手したら本橋さんは打ち所が悪くて死んでたかもしれないんだよ? 自分が何したかちゃんと反省してる?」

「わ、わかってるよ…」

「山浦くんには謝ってたけどさ、私や本橋さんは後手に回したのはなんで? 山浦くんと別れたくなかったから?」


 傷に塩を塗りつける発言かもしれないけど私は言わせてもらった。ちょっとそれはどうなのかと思ったから。


「私はそんなつもりじゃ」

「あのさ、前にも言ったけど傷害罪なんだからね? 言い訳しないで?」

「……」

「それで本橋さんには謝ったの?」

「…この後謝りに行く…」

「そう……山浦くんが怒った理由、ちゃんと考えなよ。いまはフラレていっぱいいっぱいなんだろうけどさ、全て自分がやらかしたことが原因なんだからね?」


 私のきつい言葉に真優ちゃんは涙を浮かべ俯く。

 私は言いたいことを言えたのでふぅ、と息を吐いて真優ちゃんから目をそらした。

 すると真優ちゃんのお母さん…朝生さんが改めて頭を下げてきた。


「…本当に、本当に申し訳ございません…」

「…謝罪いただけましたし…反省されているのなら…」

「お嬢様のお怪我の治療費もこちらで出させていただきます」

「いえそんな」

「いいじゃない慰謝料としてもらっておこうよ母さん」

「あやめ!」


 こういうことは後々のことを考えてお金で解決するしか無いのではないだろうか。治療費もタダじゃないのだから。

 母には窘められたが話し合いの結果、結局そういう事になった。



 最後まで頭を下げる朝生さんと泣き続ける真優ちゃんを見送った後、私は鬼へと変身した母に説教された。

 ヒロインちゃんを庇って怪我したとは話していたのだが、ヒロインちゃんが故意的に押されて階段から落下したのを庇ったとは話しておらず、母は大変お怒りである。

 こうなると思って言わなかったのだが…後で言うと大事になるな。反省だ。


「あやめ! 聞いてるの!? 庇った人間が死ぬこともあるのよ! あなたのした事は無謀なことなんだからね!! 見捨てろとは言わないけどね…」

「はい、反省してます…」



 私はフローリングの上で正座をしたまま説教を受け、その後足が大変なことになったのである。







 そんな事があったりしたのだが、いよいよ明日から2日間の文化祭が始まる。


 初日はここの在校生のみが文化祭を楽しめる日、2日目は外部からの入場が許される日である。

 セキュリティの関係でここ数年は在学生からの招待チケットがないと入れなくなっているが、毎年来場する地域の人には先生たちが配っているのでそこまで入場を制限しているわけでもない。私の両親は2日目に揃って来るそうな。


 2日目が終わると後夜祭があって運動場でベタなキャンプファイヤーをする。それと生徒会主催の出し物。去年は先生方を交えての某人気ダンスチームのコピペダンスをしていて好評だったが今年は何をするのだろうか。

 

 うちのクラスも準備は万端であり、例の看板は山ぴょんが出来上がり間近まで作り上げた所で制作チーム全員で仕上げをした

 あいつはよく頑張ったと思うよ。

 本人もペンキ塗りに自信を持ってたし手に職がついたんじゃないかな。結果オーライだ。



 明日からの文化祭が楽しみで私は自分の部屋でお化け屋敷で使う道具を試着して最終確認していた。



「うわっ!…なにしてんだよ姉貴」

「ちょっと和真ノックしてよね。私のクラスお化け屋敷するの。その試着」

「目が…うわ怖…」

「褒め言葉として受け取っておく。どうかしたの?」

「…飯だってよ…」

「あ、そう。すぐ行くって言っておいて…あんたが家にいるなんて珍しいらしいね。最近夜遊び控えてるの?」

「なんだよ家にいちゃいけねーのかよ」

「そういうわけじゃないけどさ」

 

 この格好で行くと親へのネタバレになってしまうので、素早くメイクや小道具を外して私はダイニングへ向かった。


 家族四人揃っての夕食では弟はやっぱり口数は少なかったが夏休みをピークにして反抗は落ち着いてきたと感じる。

 以前は週に4日は夜遊びに出かけていたというのにここ一週間は毎晩家に居て夕飯を一緒に摂っている。

 心境の変化でもあったのあろうか。

 

「あやめのクラスはお化け屋敷って聞いたけど和真は何するんだ?」


 私が文化祭の話をしていたのだが父が和真にそう尋ねた。和真は眉間にシワを寄せて言いたくなさそうにしていたが、父から目をそらして小さく呟いた。


「…クレープ屋」

「食べ物屋か。いいじゃないか食べ物屋はお祭りでは強いからな」

「来るなよ絶対」

「そう言われると行きたくなるよねー。あ、私2日目は早番だから。14時で出番終わりだから注意してね」

「来るなよ姉貴も」

「聞こえませーん」

「…ガキかよ」

「違いますぅーガキじゃありませーん」


 私と弟の掛け合いに両親が微笑ましそうに見つめてくる。しばらく弟の反抗期でこういう団欒的なものがなかったので両親も嬉しいのだろう。私も嬉しく思う。

 だって弟が笑ってる顔を私も久々に見たから。






 翌朝、私は文化祭の準備のためにいつもより早く登校した。お化け屋敷のセットの最終確認とヘアメイクの時間を要するためである。



 私のコスプレはホラー映画チャイル○プレイのティ○ァニーである。ウェディングドレスにウェディングベールという格好の上にレザーのジャケットを着た格好。西洋人風の彫りの深い顔立ちに見えるメイクに、目にはグリーンのカラーコンタクトをしている。

 流石にドレスは手に入れられなかったので、白いワンピースに手芸屋さんで購入したレースを装飾してそれらしく見えるようにした。

 我ながら中々化けられた気がする。



「アヤちゃんカッコいい!!!」

「沢渡君もその傷メイクすごいね」


 そして相棒の沢渡君はチャッ○ー。彼も本物そっくりに変身していた。わざわざ髪を赤毛にしてご苦労なことである。


 クラスメイトたちも準備万端なようで早番の子たちはもうスタンバイしている。

 お化け屋敷の入場待機室では私達お化け役達の三文芝居動画が観れるようになっている。皆で結構ノリノリで撮影していたが、できれば身内には見られたくない心境である。

 



ポン、ポポン!


『只今より第○回文化祭を開催致します…』


 10時になったと同時に校内放送で開始の挨拶があり、外では花火が打ち上がった。それを合図に客である生徒たちが一斉にお店に入っていく。

 ちなみに私は今日は遅番のため前半はいろいろ見て回ることにしている。早速文化祭を楽しんでこよう。


 とうとう待ちに待った文化祭が始まった。



 


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