人生の大半は悩みばかり。でも意外と取り越し苦労だったりする。
「田端さん! おっはよー!」
「おはよう三栗谷さん」
「ねぇねぇ文化祭のとき陸上部で出店やるの! たこ焼き屋なんだけど良かったら来てみて!」
「あーうん行けたらね…」
テスト前だというのにもう文化祭の話をしてきたのは引退した3年に代わり陸上部のキャプテンとなった三栗谷楓さん。以前から私を陸上部に熱烈歓迎してくる同級生である。
「おはよう楓ちゃん」
「あっおはよー寿々奈」
「田端さんもおはよう」
「…おはよう」
そして…あの図書館での遭遇以来、私と接触を図ろうとする林道寿々奈。
ますます何を企んでるのかわからなくて不気味だ。私はやんわり距離を置いているんだがそれに気づかないのかわざとなのか、また声をかけてくる。
「田端さんのクラスは文化祭なにするの?」
「お化け屋敷。…ごめん私テスト勉強したいからもう行くね」
親しげに尋ねて来る林道寿々奈にそう断り、私は階段を登って自分の教室に入っていった。
林道寿々奈は学年で二番か三番目に可愛いレベルの容姿をしている。(私はヒロインの花恋ちゃんは学校一可愛いと思っている)
黒髪ロングで華奢な庇護欲そそる可愛らしい子だ。男子にも密かに人気があるらしい。
私はさり気なく和真に「(林道寿々奈と)どこで知り合ったの?」と質問してみたのだが、なんと、入学式のときだと言う。入学式の実行委員として体育館まで案内して貰ったというではないか。
イベントを見張ってた私は遠目だったので実行委員の顔までは見てなかったがあの実行委員が、林道寿々奈。
…じゃあ、ヒロインちゃんのイベントを乗っ取ったのは林道寿々奈ということだ。故意的に。
…和真を好きだから乗っ取りをやっているのか、それともゲームとして楽しんでいるのか本人に問い詰めたいところだけど、変人扱いされるのは私だし、これ以上関わりたくないというのが本音だ。
自分の席に着くとべしょり、と机に突っ伏す。
私はどうしたらいいんだ。
過保護は良くないとはわかってるんだけど、あっちの動向がわからないからどう対応すればいいのか決まらないというのが最近の悩みだ。
☆★☆
テスト期間が終わった。
中間テストでケアレスミスがいくつかあった。集中力が途切れがちになってしまったのが原因だろう。
人のせいにしちゃいけないけど、林道寿々奈が私の周りをチョロチョロするせいだと思ってる。
あの人は何がしたいのか本当に。
全教科答案が帰ってきたのだがその結果に私はうなだれた。
1学期の期末テストで著しい上昇を見せたその成績は元通りとは言わないがガクッと下がってしまった。
凹んだ私のその様子に同情した沢渡君がオロオロしながら私に声をかけてくる。
「アヤちゃんアヤちゃん! 大丈夫! 俺赤点2つあるから!」
「沢渡、あんた全然大丈夫じゃないからね」
「アヤほら次があるからそんな凹むなって。アヤは真面目だなー」
リンが私の頭をぐしゃぐしゃ撫でてくれる。
友情って素晴らしい。
私は友情に縋りたくなり涙目で友人らを見上げた。
「今日気晴らしに帰り付き合って!」
「あ。ごめん私彼氏と会う約束してんだ」
「私も〜彼ピッピと会うからごめんね〜」
リンだけでなく最近恋人ができたユカにまでフラレ、私はガクリ…と肩を落とす。
彼氏を目の前にした女の友情の希薄さよ。
「ゆ、友情なんて…」
「アヤちゃん! 俺と遊ぼう!? クレープとかアイス食べに行っちゃおう!」
「アイス…」
「特大パフェとかも売ってる店知ってるんだ! ね?」
「……行く。今日はダイエット封印する」
「そう来なくっちゃ!」
ヤケ食いしないと気が済まない気分だった。ヤケ食いは体に良くないとはわかっていたけど。
成績が落ちたのはもちろん、あの事で私は地味にストレスを感じていたのである。
そうと決まれば学校が終わるなり私は沢渡君と街に繰り出すことにする。
下駄箱で靴を履き替えてさぁ学校を出よう!としたその時。
「田端さん!」とまたあの声。
私は顔が引きつらないようにして振り返った。
「今帰り? 良かったら一緒に帰らない?」
「ごめん、約束があるから」
「あ…その人と? そっかぁ…じゃあまた今度誘うねっ」
林道寿々奈はニコッと笑い「ばいばい」と告げて帰っていった。
私は彼女が居なくなってふかーいため息を吐き出した。
「…アヤちゃんあの子と仲良かったっけ?」
「ぜんっぜん?」
「…どうしたの? なんか様子が」
「沢渡君早く行くよ。私は食べるぞ」
「あ、ちょっとまってよ!」
学校近くの駅から2駅先に行くと若者向けのお店が立ち並ぶ街がある。若者向けなので流行り廃りが激しく店の入れ替わりが激しいが、たまに面白いお店を発見することがあるので面白い。私も散策がてら遊びに行くことがある
沢渡君おすすめのお店は女子がいかにも好みそうなお店。どうやって見つけたんだろうかと聞けば従姉妹に引き摺られて来たことがあるとの返答だった。だよね。男だけで入るのは勇気いりそう。
私は店に入るとメニューをじっくり吟味し、シンプルないちごバナナチョコレートジェラートクレープを注文した。あえて冒険せずに馴染みのものを頼んでみた。
しばらく敬遠していた生クリームたっぷりの悪魔の食べ物を眼の前にしたときの罪悪感は半端ない。食べる時一瞬躊躇ったものの、一口食べれば私は口の中で広がる甘味に頬を緩ませた。
「…おいしい」
パシャリッ
「!?」
「アヤちゃんの笑顔いただきました~」
「ちょっと! 消してよ沢渡君!」
「うんうんいつものアヤちゃんに戻ったね」
「え」
「最近元気がなかったから」
沢渡君、鋭い。
いや私の態度がわかりやすいだけなのかもしれないけど。
私は食べるのをやめて沈黙した。
沢渡君はそんな私を見ていつもみたいに笑う。
「アヤちゃんが何に悩んでるのかは知らないけどさ、悩み事って意外と取り越し苦労だったりするよ? 大丈夫大丈夫」
ポンポン、とリンにされたように沢渡くんも私の頭をなでてきた。リンの柔らかくて小さな手とは違う大きな手に私は緊張して固まってしまったけども沢渡君の見守るようなその優しげな表情に私はいつの間にか肩の力を抜いていた。
「アヤちゃん俺のもちょっと食べる?」
「…じゃちょっと貰おうかな…」
「はいあーん」
「そういうのいらない」
「アヤちゃんつれない!」
またアホなことしてくる沢渡君をあしらいながら私は久々のクレープの幸福感を味わっていた。しばらく控えていたけどもたまにこうして息抜きするのも大事なのかなと感じた。
クレープを食べ終わりお店を出ると、沢渡君がとあるショップを指さした。
「アヤちゃんあれ!」
「ん?」
「文化祭のお化け役、おそろいにしない?」
「おそろい?」
「うん。テストは終わったんだから次は文化祭のこと考えよ! ちょっと店の中見てみようよ!」
「ちょっと沢渡君!」
沢渡君に手を引かれ私は店の中へ連れて行かれる。彼のペースに巻き込まれ気味だったけどさっきまで沈んでいた気持ちがいつの間にか浮上していることに気づいたのはうちに帰ってからだった。
文化祭。
文化祭はイベントが満載だ。文化祭当日もだが、準備の時、文化祭後の後夜祭でも乙女ゲームのイベントが盛り沢山ある。
私は多少の不安があったものの、沢渡君の取り越し苦労という言葉を自分に言い聞かせて気持ちを切り替えることにした。
…結構なトラブルが私を待っていたんだけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。