同じ人間だと言うのに。これが格差社会か。

 始業式を終え、HRも終えた私はヒロインちゃんがクラスメイト達に囲まれているのを尻目に家へとダッシュで帰った。自分の通帳と財布を取りに行ったのである。

 それらを鞄につめて街に出ると、美容室、ドラッグストア、洋服屋を廻った。今までにないくらい買い物をしたせいで諭吉さんがたくさん旅立ったけれども仕方ない。

 これは必要経費なのだ。


 そのあと、帰宅した時の家族の驚き様は笑いものだった。







 二日後、入学式。

 この入学式で弟とヒロインちゃんは出会う。

 ベタなイベントだが、桜吹雪の下で。

 桜に見とれるヒロインちゃんに弟が体育館の場所を尋ねるのだ。


 私は心配で建物の影からその様子を窺う。

 だってほら、小説でよくあるじゃない。逆ハー狙いのビッチヒロインて。実際問題ヒロインちゃんがどんな子かわからないから心配で仕方ないのだ。

 お姉ちゃんはそんな爛れた男女交際を認めませんからね!


 じー…とガン見していると、予定通り弟の和真はヒロインちゃんと接触していた。

 ゲーム通りなら一緒に迷うんだけども。


「ねぇ君ー! 新入生だよねー? 体育館こっちこっちー!」


 だが、そこに二人のファーストイベントを妨害する声が入ってきた。

 私はその声にビクリと肩を揺らしたが、その声の主を見てあぁ、と納得した。入学式の実行委員の腕章をつけている女子生徒は和真を体育館の方に誘導していく。


 (乙女ゲームと言えど、あくまでこの世界は現実世界ってことか)


 私は思わずため息をついた。ゲームのことを考えていたが、ここにいる人たちはみんな生きた人間だ。そりゃ、イレギュラーも存在するか。

 モブである自分の行動について色々考えていたが、そう肩肘を張る必要なんてないのかもしれないと少し安心した。


 桜の下で和真を見送っていたヒロインちゃんに目を向けると、また桜に意識が向いていた。

 あれっ、ヒロインちゃん!? 和真にあんまり興味ない感じ!? 姉が言うのはなんだけどうちの和真はイケメンよ。小さい頃は女の子のようだったけど、大きくなるにつれ、美形って言うの? まー整った顔立ちをしててね。アーモンド型の二重瞼はほんとに羨ましい。交換してくれ。

 中学の時とか他クラス、他学年から女の子が見に来るくらいモテたから、もしかしたらフォーリンラブするかと思ったんだけどね。そううまくはいかないか。


 結構長いこと桜を見上げて見惚れるヒロインちゃん。

 だが一応入学式には在校生も参加する必要があるので、同じクラスメイトとして無視できず、私は彼女に声をかけてみた。


「本橋さん」

「え。あ…同じクラスの」

「田端あやめ。入学式、一応在校生も参加しないといけないから行こう?」

「うん! 教えてくれてありがとう田端さん」


 体育館まで彼女を先導しながら、私は前世でやった乙女ゲームを思い出す。


 攻略対象は生徒会長(3年)、副会長(3年)、会計(2年)、風紀委員長(3年)、風紀副委員長(3年)、養護教諭(27歳)にスポーツ万能なクラスメイト(2年)

 それに加えて下級生の私の弟田端和真(1年)だ。


 ちなみにスポーツ万能なクラスメイトは私たち姉弟の幼馴染みでもあるが、今では全く関わりがない。

 だって、イケメンとモブ女子が仲良くしたら女の子のやっかみ買うしメンドクサイ。



 よくある組み合わせの攻略対象で、よくある設定の心の闇をヒロインが救ってあげるという、よくある話の乙女ゲームである。なので説明は省かせてほしい。



(しかし、かわいいな)

 

 私は横を歩くヒロインちゃんをこっそり観察した。

 明るい茶髪はセミロング、パッチリした二重の瞳は黒目がちで、キスしたくなるようなぷっくりした唇はうるうるピンク。そしてミルクのように白く、キメ細やかな肌。頬はほんのり赤く、可愛らしい。

 そしてボンキュッボンな体型。

 なのに手足はすらりと細い。


 ……乙女ゲームなのにその体型は……なんなの。



 私は自分の大根のような足やポッチャリした二の腕を思いだし、決意した。



 (私、今日からダイエットします。)

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