おっさんとわたし

真白世界

第1話 ベランダ

 21時になると真里は見計らっていたかの様にベランダへ行き、煙草に火を付ける。

 白い煙を吐きながら夜空を見上げて暫くすると隣からガラッという音とカチカチとライター特有の音が聞こえた。

 真里と同じ、バニラの香りを含んだ煙草の匂いが隣のベランダから夜風と共に流れてくる。


「斎藤さんも煙草っすか?」


隣のベランダには髭の剃り残しが目立つおっさんが寂れたスーツの内ポケットにタバコの箱をしまいながら缶コーヒーのプルタブを開けていた。


「ん、ああ、真里ちゃんか。てか未成年なんだから煙草の吸い過ぎには気を付けろよ」


「おっさんの小言……」


「……聞こえてんぞ」


 真里は面倒臭そうな表情を浮かべながらベランダの縁に寄りかかるとゆっくりと一口を味わう振りをして隣を見た。


斎藤はベランダの縁によりかかって煙を吐き出して帰りに買ってきたであろう微糖の缶コーヒーが熱いのか舐める様に飲む斎藤と目が合って慌てて目を逸らした。



「バイトの調子はどうだ?彼氏にしたい男でも見つかったか?」


「セクハラっすよ、それ」


「はぁ、最近のガキは」


「聞こえてるんですけど」


「聞こえるように言ったんだ」


 いつもの時間、いつもの場所。

 いつもの香りにいつもの二人。

 至福の一服。至福の時間。



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