第14話 力不足
黒髪のポニーテールが目の前でさらりと揺れた。
「…そこまでだ。これ以上治安を乱すならば、王の命令に従い、貴様らを裁く」
低くて澄んだ声が響く。
「王の命令…だと…?」
「まさか…お前は…」
目の前に突然現れた人物の背中で、チンピラ達の姿は見えないが焦っているのか声が震えている。
「今立ち去るならば見逃してやるが、次は容赦しない。牢に叩き込んでやろう」
声が先程より一段低くなる。私に向けられた言葉じゃないのに、少し怖いと思ってしまう。
「「ひぃっ……も、申し訳ありません!」」
チンピラ達も恐怖を感じたのか、逃げ出したようだ。バタバタと足音が遠ざかっていく。
それと入れ替わるようにレオンとシオンが駆け寄ってくる。
「大丈夫か!?怪我してないか!?」
「何を考えているんですか、貴女は!」
「……ご、ごめんなさい…つい」
「つい、で騒動を起こされては敵わない。勇気と無謀は違うものだ」
庇ってくれた人物が振り返った。整った顔立ちの青年。
黒い前髪は眉にかかる位で整えられ、瞳は深海の様に暗い青。
私を見る、冷たい視線がそこにはあった。
「力の伴わない正義感は意味をなさない。覚えておけ」
「お言葉ですが、力だけじゃ救えないものもあります」
「…力すら無い者の戯れ言に耳を貸す気はない」
そのまま青年は背を向けて去っていく。
言い返してやりたかったけれど、確かに私は無謀だったのかもしれない…
自分の力で男二人に勝てたハズもないのに……
悔しくてぎゅっと手を握ると、女の子が此方を見上げていた。
私が青年と言葉を交わしてる間に、落としたさつまいもを拾い終えた様で、そのうちの一つをこちらに差し出している。
「あの…ありがとうございます、助かりました。よかったら、これ…貰ってください」
「いえ…私は何も出来ませんでした。あの男達を追い払ってくださったのもさっきの方でしたし…」
「それでもっ…お姉さんが、助けてくれようとしたこと、私は嬉しかったです。だから…ありがとうございます」
女の子はにっこりと微笑む。
助けるつもりが、私の方が助けられてしまった…情けない
私の手にさつまいもを握らせると、女の子はぺこりと頭を下げて行ってしまった。
「本当に無謀です」
女の子の姿が見えなくなると、低い声が隣から聞こえた。
恐る恐る視線を向けると、無表情なシオンが目を細めて此方を見ていた。
めっちゃ怒ってる!これ絶対めっちゃ怒ってるやつだ!!
もともと嫌われてたけど、さらに嫌われたよね…うぅ…
「まぁまぁ。俺達がしっかり見てなかったのも悪いんだからさ」
「…そうですね」
言葉ではそう言うものの、シオンの表情は納得していない。
「…申し訳ありませんでした…反省しております」
「何が悪いか、理解しておいでですか?」
「勿論。私が力も無いのに飛び出したのか良くなかったのです。ですから今後は精進して、体力をつけて剣術と魔法を学ぶことといたします!」
「………は?」
「ぶふっ…」
気合いをいれようとぐっと拳を握る。
力がないなら力をつければいい、それだけの事だ。
頭の中で改善策を立てる私の横で、シオンはぽかんと口を開け、レオンは口許を押さえ肩を震わせていたがまるで気にならなかった。
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