天邪鬼な君へ

白川 夏樹

天邪鬼な君へ

ウーーーーー。

無機質な扇風機の音だけがこの部屋に響いている。

夏休みに入ってはや10日、俺は毎日幼馴染のマリと共にこの部屋で暇を潰していた。


暇を潰すと言っても2人同じことをしているわけでもなく、マリは聞いたことのない名前のグループの歌をヘッドフォンで聴きながら黙々と勉強。

一方俺はマリの兄が集めた小説を馬鹿みたいな体勢で読んでいる。


ちなみに、俺がマリの家に毎日入り浸っているのは俺とマリの両親の仲が良く、子供の頃から休みは部屋でよく遊んでいたからだ。

その名残が今も残っているのだ。

高校2年生にもなって付き合ってもいない男女が、とかそういうことは誰も思いすらしない。



だから今日はこのどこか曖昧な関係をはっきりさせるためにも、マリと恋仲になろう。

つまり一世一代の告白をしよう。と意気込んでこの家を訪れたのだ。

緊張と興奮のせいか、さっきから小説の内容が全然入ってこない。

心臓の音がとても近く、大きく響く。


どんな話から切り出せばいいのだろう。

断られたらどうしよう、その後はもうこの家には来れないのか。嫌だな。

などといった考えが頭の中をぐるぐる回っていた。

「セイジ。」

不意にマリに名前を呼ばれて、驚きで体がはねた。

「うおっ!…なんか用かよ。」

「なんでそんな驚いてんのよ。どうでもいいけど、そこのシャー芯入れとって。」

そう言われて俺は枕の横にあるシャー芯入れをマリに渡した。

「ありがと。」

「おう。」

俺からシャー芯入れを受け取った彼女は再びヘッドフォンを付けて筆を動かし始めた。


見ての通り、俺とマリが話す機会はごくわずか、しかも俺の応答が素っ気ないせいか、マリもつまらない顔でしか俺と会話をしない始末。

俺はマリが好きだけど、優しい紳士みたいなやり取りはできない。

こんな天邪鬼、好かれてないのかもしれない。


いつもはそうやって後ろ向きな考えがよぎり、行動出来ない俺ではあるが、今日はそれなりの決心をしてきた。

もうすぐ帰宅する時間が来る。

その時、俺は意を決してマリに愛を叫んだ。

「あのさ、マリ。好きだ、俺と付き合ってくれ!」

言った。ついに言ってしまった。

マリは驚いたようにこっちをしばらく見つめ、返答した。

「……ごめん。」

稲妻が落ちた。

そんな衝撃だった。


終わった。とか俺の何がダメだったんだ。

とか後悔の言葉がよぎりそうになった瞬間、彼女が続けた。

「ごめん。よく聞き取れなかった。」

「ん?」

よく聞き取れなかった?じゃあまだ振られてないのか?

「申し訳ないけど、もう1回言ってくれる?」

安堵がこみ上げてくるが俺にもう一度言う勇気は今はない。

「いや、大した用じゃないし。帰るわ。」

そう言って酷い疲労感を覚えながらカバンを持って部屋をあとにしようとした。

「また明日。」

そう言ってドアに近づく。

ドアノブをひねる瞬間


「バカ。」


と背中から聞こえた気がしたが、聞かなかったことにした。


天邪鬼はどっちだろう。








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