第2話 仙人になりたいと思っていた話

剣山のように鋭く尖った峰々の何処かで、霞を食べてひっそりと生きる仙人。


どこかしらでこんな言葉を聞いたことがあるのではないのだろうか。実際に存在するかどうかは膝の上に置いておいておき、仙人は中国の山奥に住んでいるとされている。


そもそも霞を食べての霞って何ぞや!?仙人って何ぞや!?という人も、もしかしたらいるかもしれないので簡単に説明を。


霞とは”もや”のこと。”もや”は少し標高の高いところに行くと、辺り一面を覆う白いヤツ。まあ、うっすい霧だと思ってもらえれば良いのではないかなと。


仙人は、よくあるイメージだと長い白髭と白髪を垂らしたヨボヨボのおじいちゃん。ただ、一般人との判別基準は空を飛んだりするところ。空飛ぶおじいちゃんってヤバいよね。そんな”ヤバい”おじいちゃんになった原因は、山に籠って修行をしたから。しかも超能力みたいなものだけじゃなくて、不老不死も身に着けちゃった。マジヤバい。





と、ここまで霞やら仙人やらのよく分からない説明をしてきたが、いよいよ本題へ。


ここで一つ注意事項というか変な期待を持たないでもらいたいのが、仙人になりたいからといって実際に山奥に引っ込んでいる訳ではないこと。みなさんと同じように文明の利器やコンクリートに囲まれて、日々忙殺されている人間であること。なので、ただ願望のような空想を書き殴っているだけの文章であることを理解してもらいたい。





「仙人になりたいなあ」と思い始めたのは、確か大学生の頃だったと思う。地方で生まれ育ち、近くの政令指定都市にある大学へと進学した。


私は暇を持て余して、インターンシップをしまくっていた学生だった。何となく面白そうだと思ったものに片っ端から申し込み、毎日を食いつぶしていた。そもそも、小学校から高校まで生徒会(小学校は生徒会という名前ではなかったが)に所属したり、生徒会選挙に出馬したりするような子どもだった私が参加してしまうのは目に見えて明らかだ。


大学時代のインターンは戸別訪問や新聞に載せる記事の取材・執筆など、本当に多くの体験をした。また、債権回収のアルバイトもしており、今考えてみても中々ハードな日常を過ごしていたのだと思う。


そんな生活を続けていたら何が原因だったのかは忘れてしまったが、ある時急にスイッチが切れた。学生ながらに社会の様々な面に触れることは刺激的で楽しかったのは事実だった。





私は基本的に愚痴をあまり他人に話さない。話したところで相手は自分の気持ちは分からないだろうし、その場しのぎで分かったふりをされるのが嫌いだった。


しかし、多方面に繋がっていると意外な所で人と人が繋がっていたり、人間・社会の闇を垣間見ることも多かった。


モラトリアムを謳歌し、希望を持って社会に羽ばたいていくであろう純粋な大学生にとって、本当の社会の姿は酷なものだった。それが例え、氷山の一角だったとしても。


そして、いつの間にか人との付き合いに嫌悪感や恐怖心が生まれていた。


社会の残酷さに私はいつの間にか疲れていたのだと思う。プライベートでも精神的にやられていた時期が重なったことも要因ではあった。


その頃辺りから、いよいよ「霞を食べる仙人になりたい」と考えるようになっていた。


結局のところ、人付き合いから、社会から逃げようとしていただけだった。


就活が始まるという事で、人とあまり関わらない仕事というイメージから農業でもやろうかと考えたが、金銭面やら人脈、ツテやらが必要という事で断念。ちなみに後から知ったのだが、農業界も人間関係は複雑のようである。


と、何だかんだ言いいつつも、私は新卒で就職させてもらい、転職をしているが未だにしっかり?…働いている。結局、人と関わることの多い、少し特殊な仕事なのだが。





遠い将来、どこかの山奥で空を飛ぶ老人が見つかったら、それが私であることを期待したい。

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駄文目録 やまむら @yamamura

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