満たる星が消えし時
þoþufa
第1話 終わり
破壊の足音は、思ったよりもずっと上品だったのだ。
「世界のあちこちで大きな鐘の音が聞こえる」そんな噂がニュースでほのぼの語られているうちは、こんなことになるとは誰も予想していなかっただろう。
「草や農作物に感染する謎の病原体」が人間に感染しないことがわかると、いつもの不安はいつものように過ぎ去っていったように思える。
赤潮が世界中で大量発生した時も、異常気象が世界各地を襲った時も、「人間は自然に逆らえないものだなあ」などと、今よりかは幾分呑気に構えていた。
それが今や、誰一人として胡座をかける安全地帯がなくなってしまった。
いつしか、「この未曾有の大災害を生き残るにはどうすれば」「安全な避難場所はないのか」と一心不乱に伝えていたニュースキャスターもテレビに映されることはなくなっていた。
バラエティ番組もCMもなくなり、連日緊急放送や災害情報として文字ばかりの青い画面を映すようになった後、テレビは付かなくなった。
せめて砂嵐でも流してくれたほうが、少しだけでも気が楽になりそうなのに……
ごうごうと唸る風雨に紛れて雷鳴が鳴り響いた。
あまりの風の激しさに、窓がガタガタと悲鳴に似た音を立て続ける。
暗闇の中で手に持った携帯を握りしめた。
電池はあと9%、電波は依然「圏外」のままだ。
「既読」になったメッセージが無力に表示されるのを確認して、画面を切った。
今まで生きてきて、これ程までに恐怖を感じたのは初めてだった。
震える手で、そばにあった毛布を掴み、身を隠すように包まる。
その時、大きな地鳴りと揺れを伴いながら外で轟音が鳴り響いた。
揺れる床によろけそうになりながら、窓の外を見る。
「……あ、あぁ……」
声にならない声が、口から漏れた。
大きな雷がビルを木っ端微塵に破壊するその真下で、大きく地面が割れるのが見えた。
その大きな地割れはバキバキと大きな音を立てながら、自分の住むマンションまで迫ろうとしている。
怖くなり、思わず駆け出したが、無残に散らばる本の山に足をひっかけ、転んでしまった。
逃げ場所もないというのに、逃げても無駄だな。
僕はゆっくりと傾く部屋の中で、自らの死を受け入れた。
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