第2話 酒場×愚痴

 ______天文界______


「うわぁ!!! エリシアさん!!! 私、この仕事向いてません!!!」


「おー。よしよし。今日はどうした?」


 少年の股間を蹴り上げ、罵声を浴びせた直後、私は自責の念に苛まれ、先輩であるエリシアさんの豊満なバストに顔を埋めた。


 エリシアさんは笑顔で、私の頭をソッと撫でてくれる。


「エリシアさん。良い匂い......」


 エリシアさんは私の直属の上司で、憧れの存在。

 仕事が出来るのはさることながら、天文界ベスト3の美貌とスタイルを持つ正に女神!

 初めて会った時は切れ長な目と180センチはある長身に「怖い人だぁぁぁ!!!」と戦々恐々だったが話してみると結構気さくで姉御肌で一時間程度で、私はこの人が好きになった。

 もちろん、異性から好意を寄せられる事も多いエリシアさんだが不思議な事に彼氏を作ろうとしない。

 もしかしたら、女の子が好きとか?

 気になるが私はエリシアさんに尋ねる事はしなかった。


「よしよし。で、何があったんだ?」


「それがですね。私、異世界に送った人間が魔王を討伐せずにグズグズしているのを知って、イライラしてその子の股間を蹴り上げちゃったんです......。その子、良い子なのに私は最低だ!」


 私はジョッキを持ち、キンキンに冷えたビールをグイッと飲み干す。

 ここは天命界にある人間界でいうところの居酒屋。

 主に酒を飲みながら守護天使達が愚痴を零す大衆酒場だ。


「うんうん。そうか」


 エリシアさんはすぐに自分の意見を言わない。

 私の話をウンウンと頷きながら聞き、焼き鳥を頬張る。

 正直、私の話を真面目に聞いてくれているのか疑問だが、ストレスが溜まっている私にとっては捌け口があるだけマシであった。


「しっかし! 何なんですかね! あいつら! 異世界に来たのに英雄になろうとしないし! 最近ではハーレムすら作らず、ただただ農民として暮らす強者もいいます! あいつらには目標や欲望がないのか!」


「まぁ、現世では女の子との免疫がないまま寿命を迎える人間が増えてきたらしいし、友情、努力、勝利系の漫画を読まない人間も増えて来ているのが原因じゃないか?」


「そうなんですか!? エリシアさん人間界について詳しいんですね!」


「え!? あ、あぁ、まぁね。人間界について調べておくのも守護天使の仕事というか......」


 エリシアさんは褒められる事が苦手なのか?

 ワタワタしながら、顔と耳を赤くしていて子犬のようだ。


「エリシアさんは凄いなー! 仕事も出来て、綺麗だし、可愛いし、それに私と違ってオッパイも大きいし!」


「あ、ハハハ。そんな事ない。私はテテスのように可愛らしい顔や身体になりたかったぞ」


「先輩! それは嫌味に聞こえるので以後、気を付けて下さい!!!」


「い、嫌味じゃない! 本心だ!」


「ぐはっ! わ、わかりました。それ以上、私の心を抉るのはやめて下さい......」


 エリシアさんは自身の大きな身体と切れ長の目がコンプレックスらしく、私が本心で褒めても乾いた笑い声と固い笑顔しか見せない。


「ところで、テテス? 君、転生者を説得するのに暴力を行なっているのか?」


 エリシアさんの声色が突然変わり仕事モードに入ったのが分かった。


「え? あ、その......。暴力と言ってもスキンシップ程度ですよ......」


「さっき、股間を蹴り上げるって言ってなかったか?」


「......」


 エリシアさんは大きく溜息をつき。


「転生者が目的を達成しない際はある程度の力技は必要だ。しかし、股間を蹴り上げるのはちょっと......な?」


「その、実は私、イライラするとすぐに暴力を振るってしまうんです。まるで、何かに取り憑かれたように暴力を振るっている時は楽しくて、楽しくて。でも、終わった後は『なんで、あんな事したんだろう』って反省しきりで......」


 私が守護天使として向いていない点があるとしたらそれは気性の荒さである。

 イライラしたり、カッとなると感情を抑えきれない。

 同性に対してはイライラする事はないのだが、異性に対してだと顕著に心のタガが外れてしまう。


 守護天使の身体は人間の身体がベースとなっている。

 基本的には新たな魂を入れる際に元の人間の記憶などは消えるのだが、稀に私のように元の人間の性格や記憶などが引き継がれてしまうらしい。

 そんな、情緒不安定な守護天使など欠陥品だ。

 今のところ、大きな問題になってはいないがこんな性格では時間の問題だろう。

 最悪、私はこの守護天使の仕事が出来なくなるどころか出来損ないの烙印を押され、神様に滅殺されてしまう可能性もあるだろう。

 それは何としても死守したい!


「そんな事情が......。人ごとに思えない」


 あぁ。

 エリシアさんは私の話を本当、親身になって聞いてくれる。

 私が男であれば、間違いなく今夜抱いているに違いない。


「そうだ! 今の君に打ってつけの人物を私は知っているぞ!」


 ん?

 打ってつけの人物?


「あの? それって、どういう事でしょう?? 話が全く見えて来ないのですが......」


「まぁ、とりあえず、明日そいつに会わせてやる! 私に任せろ!」


「はぁ......」


 と、いつになくヤル気を見せるエリシアさん。

 エリシアさんが紹介する人物とは??


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