最強の魔道士は、千のフェチを持つ変態

あずえむ

女勇者のパンツ

 ズバァン


 女戦士リールの剣が群がる魔獣どもを斬り捨てる。

 洞窟内にはいくつもの魔獣の死体が転がっている。

「はあ、はあ」

 リールは肩で息をしながら、洞窟の奥を睨みつける。


「この奥は禁断の地、魔王の墓場」


 さらに一匹の魔獣が背後からリールに飛び掛かる。

「何としても、アレを取り戻さなくっちゃ」

「グオーーッ」


 ズドン


 リールの剣が魔獣の首を跳ね飛ばす。


「戦士としての、誇りにかけて」 


 リールは剣にこびりついた返り血を振り払い、再び洞窟の奥へ向かって駆け出した。

 

 青い長髪がきらめく。

 上半身を覆う金属鎧プレートアーマーが音を立てる。

 スラッと露出した長い脚と、黒いタイトミニスカートがまぶしい。

 そのまばゆさを洞窟内に灯された魔法の明かりが映し出す。


 そしてついに、リールは深奥へとたどり着いた。



「さすがだ。辺境一と名高い女戦士リール。よくここまでたどり着けたな。合格だ」


 洞窟の深奥、巨大な生物の化石と化した死骸の上に、一人の男が座していた。

 黒いマントを羽織っているようだが、暗がりでそれ以上はよく見えない。


「おだまりなさい。この盗人め。目的はなんなの!」

 リールは男に向かって詰め寄る。

「ここが、かつての魔王の眠る禁断の地だとわかっているの」

「くくく、当然だ。オレ様の座しているのが、腐れきったその魔王の死骸だぞ」

「なんですって」

「自己紹介しよう」

 そう言って男が立ち上がる。

 黒いマントを翻し、その下に纏っているのは……纏っているのはまっ白い全身タイツだ。

「オレ様は大魔道士ラツィオ様。やがて世界を手に入れる偉大な男だ」

「なに」

「くくく、お前はオレ様のお眼鏡に叶ったのだぞ」

「何を言っている」

「オレ様について来い。そうすればオレ様が無敵の力を与えてやる」

「無敵の力?」

 リールの顔に怒りがにじむ。

「お断りよ。世界征服の勧誘なんて!」

 さらにリールは一歩踏み出す。

「さあ、もういいから。私をおびき出すために盗んだアレを、とっとと返しなさい!」

「アレではわからん」

「愚弄する気か!」

「はっきりと言いたまえ」

「く……ボソ……」

「聞こえぬ」

「おのれ、邪悪な魔道士め!わ、私の……私の……」

 リールが大きく叫んだ。

「わたしの洗濯かごから盗んだパンツを、返しなさいよ!!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 魔道士の顔にまで、魔法の明かりが届く。

 その邪悪な笑みをたたえた顔の上に、すっぽりと、パンツをかぶっていた。


「何かぶってんのよこの変態!」


 バゴォン


「ぶへっ」


 リールの右ストレートが魔道士の顔面にクリーンヒットする。

「ナ、ナイスパンチ。だが」

 吹っ飛びながら魔道士が両手で印を結ぶ。

拳 施錠ケン・シャム・ロック


 ポポポポ


 突然何もない空中に羽の生えた手錠が出現すると、瞬く間にリールの両手にまとわりつき、拘束してしまった。

 そのまま両手を上に持ち上げられ、バンザイの恰好で固定される。

「魔法!?」

「くくく」

 鼻からだだ漏れる鼻血を手で振り払う魔道士。

 その血が魔王の死骸にまで飛び散る。


「く、何をする!こっちへ来るな!」

「そう言うな。オレ様に素直に従えるよう、身体に言い聞かせてくれるわ」

「や、やめなさい」

「わっはっは。泣け!喚け!」

 高笑いしながらラツィオはリールの腰に巻かれたベルトを外し、剣を鞘ごと放り投げる。


 ボコ!ボコ!


 鼻血が付着したあたりの魔王の死骸が律動している。


「あ、あん……ああ」


 両手を吊られている女戦士リールの体中をまさぐりながら、ラツィオは鎧を脱がせにかかる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 鼻血が付着したあたりに内蔵と思しき器官が生まれる。


「ほうれほうれ」

 ラツィオの手がリールのスカートの中に伸びる。

「こ、こぉのぉ。いい加減に……」


 ズズン


「ん?」

「え?」


 ドドドドドドドドドドドドド


 確かにさっきまでただの化石と化した死骸であった。

 だが、今は完全に肉体を備えた大きな大きな巨人となって、洞窟の天井すれすれの高さにまで起き上がっている。


「ま、まさか!魔王の死骸が動いてるの?」

「む、むう。血だ。オレ様の高い魔力のこもった鼻血が、魔王を復活させてしまったようだ」


 ヴァオオオオオオオオオオオオオオオ


 魔王の雄たけび。

 ビリビリと凄まじい圧が飛んでくる。


「な、なんてこと」

 あまりにも巨大で、あまりにもなす術がない。

 剣一本で立ち向かえる相手ではない。

 相手は伝説の魔王なのだ。

「は、外してよ、これ!逃げなきゃ!急いで」

「いや、駄目だ。魔王をよみがえらせてしまったのは、我々の責任だ」

「原因はあんたでしょ!」

「とにかく」

 ラツィオは毅然とした態度でこう宣言した。

「魔王を倒す!」


 ドン!


(な、なによコイツ。意外にマジメじゃない)

「そこでだ」

 ラツィオはリールに近寄る。

「お前にチカラを授ける!」

 そう言ってスカートに手を入れ、一気に履いているパンツをずり下してしまった。


 ボッ


 赤面するしかないリール。

「さあ、行くぞ!」

 親指を立てて威勢よく吠えるラツィオの脇腹に思いっきり膝をめり込ませてやる。


 ドボッ!


「ナニしてんのよこんな時に!!」

「ぐはっ!ちゃ、ちゃう。オレ様はただ、こっちのパンツを穿かそうと思って」

 そう言って自らの頭にかぶる盗んだパンツを指さす。

「なにが違うのよそれの」


 その時いつの間にか伸ばされた魔王の右手が、両手を吊られたままのリールをつかみあげた。

 巨大な魔王の顔の辺りまでリールは持ち上げられる。

「ひ、ひえ~~~~」

 目の高さで、手のひらの上に乗せたリールを魔王はまじまじと観察する。

 生気のない、くぼんだ両目が髑髏にしか見えない。

 大きな口が笑っているようにも見える。


飛翔術クライ・ファート


 ドン!


 ラツィオが魔法で空へと舞い上がる。

 魔王の頭の高さまで飛び上がった。

 その魔王は手のひらの上のリールに向かい、反対の手を近づける。

「な、なに、なによ」


 ピラッ


 魔王の巨大な指が器用にリールのスカートをめくる。

「ちょ」

 慌てて両手でスカートを前から抑える。


 トン


 背中を押されて四つん這いになる。

 スカートをまくってなにも履いてないお尻をガン見……しているのはラツィオだ。


「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 バキッ


 顔面に足裏をめり込ませる。


「ぐおお鼻が。何をするんだ」

「見たからよ!」

「なら魔王もぶてよ」

「そうしたいわよ!」

「ならばコイツを穿け!」


 そう言ってラツィオは頭にかぶっていたパンツをリールに渡す。

「いいか、このパンツは、すでにお前の知っているパンツではない。オレ様の魔力がこもっている」

「うわぁ」

「それを穿けば、お前は無敵の超人になれるんだ。オレ様を信じろ」

「えー」

 そう言ってラツィオは魔王の眼前に立ち上がる。

「いいな。後は任せたぜ!相棒」

「相棒じゃない」

「オレ様は、パンツを穿く時間を稼ぐ!」


 そして勢いよく飛び立つ。

「たぁっ」


 ビン!


「うわあ」

 指一本で弾き返されてしまった。

「一秒も稼げてない」

 リールは渡されたパンツをじっと見つめる。

「と、とりあえず、穿こう」

 さっきからノーパンのせいか、タイトミニのスカートがお尻にピッチリと張り付いて、おかしな気分になっていた。

 いや、それだけが原因ではない。

 この極悪な緊迫感が、汗と、そして命に訴える生存本能が、彼女の体の奥底から、マグマのように迸る愛え……


 ビン!


 魔王が指一本を思いっきりしならせてはなったデコピンの空振りが風圧となって、リールの着ていた衣服や手錠を木っ端みじんに吹き飛ばした。

 「な、ちょっと!それが魔王のすることなの!!超サイアク。信じられない。クソ魔王ー」


 リールの悪態が理解できたのかだろうか?

 突然魔王の口内に火炎が渦巻きだした。

「え、まって」

 待つわけもなく、大きく口を開けた魔王が特大の火炎ブレスを吐き出した。


 ズドォッ ドドドドドドドド


「な、なんていう凄まじい炎だ」

 地面にひっくりかえっていたラツィオが見上げている洞窟の天井が、魔王のブレスで崩れていく。


 ドドドドドドドドドドドドドドドドド


 多くの岩が降り注ぐ。

 やがてブレスの放射が終わるころ、天井はぽっかりと大きな穴を開け、きれいな夕焼けの空が見えるまでになっていた。

「天井が…………はっ」


 空を見上げていたラツィオはすぐに気が付いた。

 たなびいていた雲が突然、一点を中心にして渦を巻き始めた。


 ドン


 その中心に一つの人影が見える。


 ドドン


 輝く裸身を煌めかせて、急降下してくる彼女。


 ドドドン


「こぉのぉーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 落下のスピードに合わせ、パンツ一丁のリールは右拳にありったけの力を込める。


「すけべぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 魔王の脳天に直撃するクリティカルヒット。

 それは凄まじい轟音を立てながら崩れていくようだった。


「あとは語るまでもないだろう。魔王の脅威は去ったのだ。無敵となったパンツの勇者、リールによって、な」


 ニカッと汚い笑顔を見せるラツィオに向かって石をぶつけてやる。


「はう」


「もう、一体なんだったのよぉ。このお話は。ばかー」


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