第206話 大事な日。

 8月186日……


 今日もレイヤースペースへとおもむく。ベースには、神妙しんみょう面持おももちをしたジュウザブロウさんがいた。


『おはようございます』

【おぉ、ヒカルか。おはよう】


 挨拶をして、いつも通りシャルを手に持つ。しかし、俺はジュウザブロウさんの様子が気になり、声をかけることにした。


『ジュウザブロウさん、どうかしましたか? なんだかいつもと雰囲気が違う気がして……』

【気にしてくれてありがとう。今日はオレにとって大事な日なんだ】

『大事な日?』

【あぁ。12年前……。”夢幻むげんの八月”が終わった日だ】

『あっ……』


 そういえば、以前聞いていたことを思い出した。


【あの時のDemiseデミスにはリベンジできたし、仲間への顔向けはできるかな……。まぁ、正直みんな生きてるかどうかもわからんけどな】

『正常な時間に戻ったときには、すべてが元通りになるんですかね……』

【さぁな。そう信じたいものだ】

『必ず、生きて戻りましょう』

【当たり前だ。もう少し頼むぞ、ヒカル】

『はい。任せてください!』


 俺は胸を叩いて答えた。ジュウザブロウさんはうなずき、街の中へと歩いていった。俺はその背中を見送りながら、シャルを握りしめていた。

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