[3.0] 北大シミュレーション同好会まで

 ところでアンタ、普段はボドゲをやる相手はいるのかい?

 ……そいつぁいい! 職場の人間でも家族でも、付き合ってくれる相手は大事にしないといけないよ?

 やっぱりさ、ゲームは対戦相手があってこそ、だからねぇ。

 私は大変だったなぁ。兄弟はいたけど付き合ってくれないし、学校の連中は全く興味を示さなかった。「同好の士」は本当に探すのが大変だったよ。

 今はインターネットを使ってのSNSで、然したる苦も無く見つけられるのかもしれないが、私の時代にはねぇ……。


 それじゃ、それを踏まえて、話の続きをしようか。


              ◇


 たまに足を運ぶデパートのおもちゃ売り場。そこで一枚のチラシを見つけたんだ。それには——「ゲームコンベンション開催!」と書いてあった。

「コンベンション」なんて大仰な言葉だが、要するに「ゲーム会」ってことだ。まぁ、コンベンションは集会とか大会とかって意味だから間違ってはいないんだけどね。

 一気にワクワクしてきた。開催日はそのときから約3週間後の日曜日、朝10時から午後5時までの七時間。嬉しくってね。もう、待ち遠しくって仕方がない。

 だが、そこでふと我に返ったのさ。

「ヤッベー、ルール、ちゃんと覚えなきゃ!」ってね。

 今のボドゲ、出来るだけ簡単なモノが好まれるよね? インスト数分で楽しめるゲームとかさ。

 ところが、このウォーゲームって奴は大半が分厚いルールブックなんだよ。規模の小さいモノとかだと、8ページくらいのモノもあるんだけどね。スコードリーダーは確か48ページだったかな? ……いや、もっとあったかもしれないな。まぁ、とにかく厚いんだよ。とは言え、全部を読む必要は無かった。というのも、スコードリーダーは「プログラム学習方式」といったシステムを取り入れていてね、こっちシナリオはこのルールまで、そっちのシナリオはそれに加えてこのルールまで——そんな感じで段階的にルールを上乗せしていく形式だったんだ。

 私は歩兵戦闘と戦車のルールまで覚えて臨むことにした——ここまで覚えていれば前半の盛り上がるシナリオまではこなせるようになるんだよ。

 で、コンベンション当日。

 私はスコードリーダーとクロスオブアイアンを持ってそのデパートへ。

 ちょっと用事があったので、最初から参加することは出来なかった。会場に着いたのは昼頃——始まってから2時間くらい経ってからのことだったかな。

 やってるやってる——

 カタログでしか中身を見たことなかったゲームたちが目に飛び込んできた。本物だよ、全部本物。太平洋の覇者、ミッドウェー、独ソ戦、パンツァーブリッツ……。そんな中に、スコードリーダーをプレイしている人たちもいた。やっていたのは「シナリオ3:スターリングラード市街戦」だ。

 マップ1枚の中にスコードリーダーの面白さをぎゅっと凝縮したようなシナリオさ。

 プレイの様子は終わるまでずっと見ていた。ドイツ軍の猛攻をジェルジンスキートラクター工場のソ連軍が何とか耐えきったことで、決着は付いていた。まぁ、史実のスターリングラード攻防戦は約半年弱の長き戦いだったから、この戦闘はその一部を切り取ったモノになる訳だよ。

 それにしても、やっぱり二人でのプレイは違うね。ソロプレイとは大違い。力の入り方が違う。

 その後、私もそのお二方に加えて頂き、スコードリーダーのシナリオ1の相手をして頂いた。

 そして、新たな情報を教えてもらったんだ。

「月に一度、長銀ビルでゲーム会をやっている」——ってね。

 長銀ビルってのは、文字通り、長銀のビル、すなわち日本長期信用銀行のビルだ。この長銀は既にない銀行だな。今は確か……新生銀行だったかな。

 まぁ、そんな過去の銀行の話は置いといて、そのゲーム会だ。

 日付はしっかりと訊いてきた。そのデパートでのコンベンションから二週間後の日曜日だった。

 札幌の街中のパルコ近くのビルの九階だったかな? 休みの日だから、人気がないんだよ。今思うと、何故あの場所をボードゲームの為に開放していたのか不思議だなぁ。

 大きな通りに面したビルの入口にゃシャッターが降りてて入口は見当たらない。ならば、と裏手に回ると職員通用口のようなところ。そこから入って、人気のない暗い廊下と歩き、エレベータで上がる。降りたところも暗い廊下だった。少し歩くと、ボソボソと話し声が聞こえる。右手のドアの向こう側だ。

 ドアノブに手を掛け、回す。

 ——がちゃり。

 ドアの向こうには——


 一気に集中する視線。

 しどろもどろになって話したら、すんなりと受け入れてもらえた。

 やってるゲームを色々と見せてもらう。普通にAH社のゲームとかやってる方はいた。でも、その中で異彩を放っているモノがあった。

 それは、ガンダムのゲームだ。……ガンダム、知ってるよね? でも、今どきのガンダムじゃない。今風に言えば「ファースト」ってのかい? 私等は「無印」って呼んでたけど。でもね、その頃は無印どころか、Zガンダムすらやっていない。そんな時期に、宇宙空間のヘクスマップ上でガンダムだ、ホワイトベースだ、ムサイだのフィギュアを使ってゲームに興じていたことだった。

 しかも、フルカラー着色済みフィギュアだったから驚いた。

 後年、ツクダホビーから、ガンダムのウォーゲームが出版されるんだけど、それよりも数年前のお話だ。

 あの当時で、完全なオリジナルのルール、自作のマップ、ユニット……凄いモンだと思うよ。ただ、惜しむらくは一度もプレイできなかったことだ。

何でも「まだ調整中だから」の一言で観戦だけだった。今なら、テストプレイってとこなんだろう。

 こいつは完全な妄想なんだが、あのゲームが後にツクダホビーから出たのかもしれない——なんて思ったりね。


 こうして、デパートのコンベンションと長銀ビルにちょこちょこ参加するようになった。まぁ、二ヶ月に一回とかそんな頻度だったけど。

 それでも顔見知りは増えていく。で、あるとき、ちょっと騒々しい陽気なヤツに会ったんだ。訊けば、ひとつ下の学年だ。意気投合しちゃってね。まぁ、そいつたぁ未だに付き合いが続いてる。腐れ縁って奴だな。私はこんな仕事してるけど、あいつはホビージャパンだのアークライトだので発売されるアチラさんのゲームルールの翻訳やってるんだよ。今はどうか分からないけど、昔はMagic:The Gatheringのカードテキストの翻訳もやってたんだよ。なんたって、元レベル3ジャッジだしね。

 そんなのはまぁいいか。

 とにかくヤツとは色々遊んだよ。さっきの戦闘指揮官もやったし、電撃作戦、剣と魔法の国、真昼の決闘……上げりゃキリがないね。まぁ、両手両足じゃ到底足りないくらいさ。

 一緒にやってて思ったのは、SFやファンタジー系のゲームが好きだったね、お互いに。まぁ、ハヤカワ文庫も読みまくってたってところでも共通点があったから次第にその方向のゲームをやることも多くなってくる。

 丁度その頃、ホビージャパンからSPI社のゲームが発売されるようになったんだよ。

 SPIってのはAHと双璧を成していた当時の会社さ。手頃なものからビッグゲームまで様々なゲームを出していた。AHと大きく違うのは雑誌の付録になっていたゲームをBOX版として出してたとこかな。

 これはユニット数が少なくて、マップも小さい。本当にお手頃なものだったんだ。しかも、値段も少しは安い。その上、SFファンタジー題材のゲームが多かった。

 二人して、それらも何とか買って遊んでた。まずは魔法の大陸。それからタイム・トリッパーとか死の迷宮とか。


 更に新たな出会いもあった。

デパートでのコンベンションで対戦した人から、「戦闘指揮官の対戦相手に困ってるんならウチに来ない?」なんて、お誘いがあったのだ。

 何と、その方は北大シミュレーション同好会ML・Kの会長さんだったんだよ。

 聞くと、毎週土曜日の午後一時から、クラーク会館で部屋を借りてゲーム会をやっている、とのことで、これには狂喜乱舞だった。

 先のヤツは高校も自宅も北大から離れた場所だったんで、中々参加はできなかったけど、二人揃って参加させていただいた。

 私はそこで、戦闘指揮官での「師匠」を見つけたのさ。……ああ、戦闘指揮官だから「上官」といった方がいいかもしれないな。

 しかもまた、この上官の住んでいたアパートが、私の家から近かったもんだから、毎日のように通ったよ。

 戦闘指揮官は「第二次世界大戦のあらゆる戦場をシミュレート可能」が謳い文句で、マップの組み合わせや対戦する国、部隊、装備……その組み合わせが違うシナリオと呼ばれるものが沢山あった。

 ……ま、勝敗は推して知るべし。私の勝率はほんの二割程度だった。それでも、上官と戦った時間は何物にも代えがたいものだったよ。

 他にも得難い経験もさせてもらった。

 その頃、ホビージャパンからTACTICSという、シミュレーションゲームの情報誌が出版されてね、それとともにTAC-CONという、大掛かりなコンベンションが各地で開催されるようになった。一年に一回だったか半年に一回だったか、札幌市民会館の大きな会議室を二つぶち抜きで会場にしてね、全道各地からシミュレーションゲーマーが集まるお祭りみたいな感じだった。

 そこで、ホビージャパンの人から、ML・Kにゲームルールの翻訳依頼が来たのさ。原タイトルは”Civil War”。米国の南北戦争を題材にした戦略級のゲームだった。邦題は確か……「大戦略:南北戦争」だったかなぁ。

 私も少しだけ手伝ったよ。本当に少しだけどね。……でもまぁ、ゲームをするために翻訳もしなければならない——その経験があったから、今に繋がっていると思うんだけどね。

 しかし、そんな時間にも終りはやってきた。

 上官が卒業になったのだ。同時に会長さんも卒業。今までかわいがってもらった先輩たちが一人、また一人と卒業していった。

 だが、ML・Kには新たな人たちが入ってきて、規模が大きくなってたんだよ。

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