ボドゲ今昔物語

大地 鷲

ボドゲ昔話

[1.0] 中学生まで

 いらっしゃい。

 ……見ない顔だな。まぁ、一見さんでもこの店は大歓迎だ。楽しく過ごしてってくれ。

 ……って、他に客も居ないんじゃ、すぐさまゲームが出来るって状況でもないな。まぁ、取り敢えず、「喫茶サイコロキネシスへようこそ!」ってところだな。

 こんな店に来たってことは、アンタもボードゲームが好きだってことだよな。……だろ? そうか、そうだろう。好きそうな顔してるよ。

 で、どうして、そんなに店の中を見渡しているんだい?

 ああ、山のようにあるからなぁ……ボードゲームが。まぁ、若いアンタにゃ分からんかもしれんが、ボードゲームって呼ばれなかったものもあるんだよ。そっちの棚にある、横文字で書かれたゲームとかな。

 え? あ、アンタ、雑誌の記者さんかい。……もしかして、先週末にメールくれてた人か!

 そうか、悪かった。こんな店に取材だなんて、半分冗談かと思っていたからなぁ。……で、何を取材していくつもりなんだい?


               ◇


 ……うーん、「ゲームを始めたきっかけ」ねぇ。

 正直な話、何時から始めたかは分からないなぁ。物心ついた頃にゃ、何かしらやっていたと思うよ。

 幼少の頃はそれこそ、電池で動く釣りのゲームとかね。

 よく覚えているのは——ウチの親父がそれは麻雀が好きな男でね、打ってる最中にその膝に座って麻雀牌を触って怒られた記憶はある。何だか知らんが、麻雀牌は好きだった。

 だが、親父が麻雀をしないときは麻雀牌を目にすることはなかった。ま、悪戯されるの分かってただろうから、隠していたんだとは思う。

 でも、牌使って遊びたかったのには違いない。そんなとき、母親に連れられてデパートに買い物行ったことがあったんだよ。

 そのとき、おもちゃ売り場にすごいモノがあったんだ。

 それは、子供用の麻雀牌だった。あ、子供用とは言っても、本物の麻雀みたいに萬子、筒子、索子の牌や字牌がある訳じゃなく、それに似たマークや記号が描かれた奴だった。言うなれば、今の「ドンジャラ」や「ポンジャン」の祖先みたいな奴だろう。商品の名前は忘れたが、これが欲しくってねぇ。だが、おいそれとは買ってもらえず、結局は誕生日プレゼントとして手に入れることになった。

 でも、実際にやったことはほとんど無くってね。何せ、麻雀と同じく面子が揃わないと出来ないモノだったから、結局はほとんど遊ばず、軽〜いプラスチック製の牌を眺めてニヤニヤしていた。今で言う「積みゲー」って奴だね。

 その中でもお気に入りの牌があったんだ。その図柄ってぇのが、アレだ……よく外国の紋章なんかに立ったようなライオンの図柄があるだろ? あれをモチーフにした奴だったんだ。カッコ良かったなぁ……。


 次は定番のトランプだね。やったのは、ババ抜き、7並べ、ページワンかな。

 アメリカン・ページワン——「UNO」みたいなもんだけど、それをトランプでやるってぇのもあったけど、これは小学校の高学年で初めて遊んだ記憶がある。

 花札はこいこいだったか、それとも八八だったかは忘れたなぁ。麻雀に似て役ってぇのがあったから、これは結構ハマっていたかも知れない。

 あと、小学生のくせにオイチョカブもやったな。……あ、当然、賭けたりなんざしてないさ。……大体、金持ってないだろ?


 とまぁ、ここまではボードゲーム以前だよな。私が知る以前からあったのかも知れないけど、小学校高学年以降からなんだよね、「人生ゲーム」とかのボードゲームが出てくるのは。

 小4になってから、一気にボードゲームで遊ぶ機会が増えた。今の子たちと違って、ファミコンをはじめとする電源ゲームがなかったからね。タカラ、エポック社、トミー……色んな会社で色んなボードゲームが出てきた。

「人生ゲーム」もそうだし、「億万長者ゲーム」、はなやまの「バンカース」って和製モノポリーもあったね。この辺から色々とボードゲーム沼に足がハマっていくんだよな。それこそ、ズブズブと。

「人生ゲーム」——「ルーレットだけが知っている」ってキャッチフレーズで売り出してたよね。今でこそ、様々なバージョンが溢れかえっているけど、あの頃は当然ながら一種類。まぁ、お金の絡む双六で、最終的に一番お金持ちだった人が勝ちっていうのは今も昔も変わらない。

 あのゲームで衝撃的だったのは、最後にゴールした後で、子供一人につき$20,000もらえたってことだ。……あれって、要は「子供を売った」ってことだろ? たしか、人生ゲームの車のコマって、ペグ(人間を表す棒みたいなモノ)が8本までしか刺せなかったはずなんだよ。だから、それ以上に子沢山になると、その合間に突っ込んだりしたもんだ。

「億万長者ゲーム」もよくやったね。これは純粋にお金儲けのゲームだったね。円形にならんだマスを進んでいく、ゴールのないゲームだった。これも和製モノポリーみたいなモノだったね。まぁ、「モノポリー」よりもシビアじゃないし、ぬるいルールだったから、小学生には丁度よかったんじゃないかな。


「人生ゲーム」も「億万長者ゲーム」もタカラが出してたんだけど、エポック社が頑張り始めてきた。私の中でセンセーショナルなゲームが出てきた。

「ティルト」だ。

 これはビー玉を使った双六なんだが、ゲーム盤がシーソーみたいになっていてね、ビー玉の重さでゲーム盤がかしぐんだよ。で、長ーい溝が掘ってあったり、近道になるような溝があったり、これを上手く利用して、手持ちの4個のビー玉を全てゴールさせるのが目的だ。

 これが面白くてねぇ。狂ったようにやってたよ。

 その後、「スーパーティルト」なるゲームも発売されたけど、こっちはイマイチだったね。


 で、それ以上に心に震えるゲームをエポック社が出してきた。「ペトロポリス」ってね、まぁ言うなればまんまモノポリーを産油国に置き換えたモノなんだけど、これがハマりにハマった。

 システムはほぼ「モノポリー」。同色グループの概念もあるし、家やホテルの代わりにシルバータワー、ゴールドタワーってのがあった。チャンスカード、共同募金カードの代わりにテレックスカード。ただし、公共事業と鉄道がなかった。

 このテレックスカードがカッコよくってね、カタカナで書いてあるのさ。それが妙にリアルでワクワクした。……あ、モノポリーで言うところの刑務所もちゃんとあるよ。国際司法裁判所ってのがね。何だかビジネスマーンって感じでカッコいいのさ。モノポリーには「刑務所に行け!」って警官の描かれたのがあったけど、テレックスカードだとね、「コクサイシホウサイバンショ ニ シュットウサレタシ」なんだよ。

 このゲームで国際司法裁判所がハーグにあるってことを覚えたんだよなぁ。


 この「ペトロポリス」の所為で石油関係のゲームが面白くなってね、トミーから出た「オイルショックゲーム」ってのもよくやった。

 ゲーム盤の真ん中に油井ゆせいの模型が付けられていて、そこにチップを入れてボタンを押しながらゲームを進めていく。

 で、ある一定の回数ボタンが押されると入れていたチップが噴き出して、それを手にするってやり方だ。……まぁ、黒ひげ危機一発の変形と思ってもらえれば分かりやすいだろう。

 このゲームは「ペトロポリス」とは違って大雑把なゲームだったけど、チップの噴き出すのが面白くてよくやった。ちょっとルールを変えれば、今でも十分に楽しいと思うんだけどね。


 その後、エポック社がちょいとアダルト向けのゲームを出してきた。アラジンゲームシリーズって奴だ。当時人気者だった大橋巨泉さんを使ってね……って、大橋巨泉知らない!? ハッパフミフミの……じゃ、もっと分からないか……んじゃ、クイズダービーの。……えっ!? クイズダービーも分からんのか。……まぁ、いいや。そういった有名人を使ってCMを打ってたんだよ。

 ここに並んでいるのがそれさ。「トリップル」、「バリヤー」、「インタセクション」、「プッシュオーバー」、「トータリー」……立体四目並べの「スコアフォー」なんてのもあったね。

 これは今のボードゲームに近いかもしれないね。どれだったかな、確かシド・サクソン御大がデザインしたのもあったはず……ああ、これだ、これ。「プッシュオーバー」と「トータリー」だな。

 これも面白かったね。アダルティックな雰囲気で。小洒落たゲームだったから、あんまり子供向けじゃなかったかもね。


 そして、「モノポリー」。

 とは言え、まだまだ小学生時分だったから、ひりつくようなプレイは出来なくて、ぬるかったけど、楽しかったなぁ。

 ほとんど「ペトロポリス」と変わらないんだけど、公共事業と鉄道の存在が大きい。

 カッコよさでは「ペトロポリス」に及ばないんだけど、金額とかが実際のモノに近いからリアルだった。「ペトロポリス」とかはン万ドルとかだから、ちょっと現実離れしてるんだよ。その点、「モノポリー」はそんなことなかったからね。


 あと、小物のゲームもよくあったね。今じゃ一人で遊ぶんなら、プレステだのスイッチだのってテレビゲームなんだろうけど、当時はそんなのなかったからね。一人用の小さなボードゲームもあったんだよ。あと、短い時間で出来るような、学校でこっそり遊んだりできるようなものとかね。

 タカラのスクールパンチシリーズとか、トミーのポケットメイトシリーズとか。ポケットメイトはボードゲームっていうか、野球盤みたいなものもあったり、ちょっとしたギミック使ったモノが多かったけど。

 スクールパンチは見事にボードゲームだったね。当時680円。小学生には結構な出費だったけど、色々買って遊んだよ。好きだったのは「鉄道輸送ゲーム」。ポイントを切り替えて目的地に荷物を運ぶ双六だね。

 そうしたらまた、エポック社がアダルティックなブックゲームシリーズってのを出してきたんだよ。これがまた少し高くてね、1,500円くらいだったかなぁ。でも、いいゲームが多かったよ。「探偵学入門」ってのはまんま「CLUE」だったけど。その中でも「大競り市」は今でもしっかり遊べるゲームだったと思う。

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