第46話 希望のみちしるべ(16)

 Mira 2010年1月11日 19時32分46秒 氷星天 シーグラ市参区 ジャンドランド


 恐れていた夜の闇と寒さが僕らに味方していることに気づいたのは、シーグラ市参区、ジャンドランドにたどり着いたときのことだった。薄々感づいてはいたが、僕らの格好は余りにも人目に付きやすい。指名手配されている可能性もある以上、人が少なく目立ちにくい時間帯ならば、とりあえずホテルまでの道のりで捕まることはないと踏み、僕らは真っ直ぐ走り続けた。


 ……しかし、僕もアリスもしっかりと意志を以て行動しているとは言えなかった。惰性だ。捕まらない為に、生きるために、とりあえず足を動かしているだけ。ギルテロさんの死を目の当たりにしたとき、考えることさえおぞましい程に僕の頭は冴えていた。あの時発揮した力はどこに行ってしまったのか。まさか生け贄がなければやる気が出ないほど僕は血に飢えていたのだろうか。


「……あっ」


 飢えと言えば、僕らは夕方から何も口にしていない。それに気づいた僕はギルテロさんのポーチに手を伸ばし、中身を探った。運良く市販の携帯食料が丁度二人分入っている。僕は後ろを歩くアリスにそれを渡そうと振り返った。


「アリス、とりあえずこれを食べ……!!」


 彼女は僕の遙か遠くを歩いていたのだ。しかも今にも倒れそうにフラフラと千鳥足になっている。Cs'Wで体力を補えるとはいえ、六時間近く歩いたのだから無理もない。雪道を僕は急いで彼女のもとにかけより、彼女の背中と膝の下に手を回して抱き上げた。


「おおうふ!? み、ミラくん!?」

「重いです。早く行きましょう」

「う、うん……ごめんなさい」

「……気にしないでください」


 アリスは申し訳なさそうに体をうずくまらせた。彼女の涙がリキッドスキン・スーツに染み、丁度胸のあたりに暖かさを感じ、すぐに冷たくなった。


「……ギルテロさんのこと。あたしが狙撃手に気づいてれば」

「どうしようもありませんでした。悔しいけど……本当に、どうしようもなかったんです」


 そう、誰にも彼を助けることはできなかった。僕はアリスやギルテロさんの様に芸があるわけでもないし、レーダーのような索敵手段など持ち合わせていなかった。あのまま闘っても狙撃手への対抗手段は無いし、攻撃をかわし続けたとしても追っ手を撒ける保証などない。


 敵は優れたスカウトのギルテロさんに見つけられない程に高いステルス技術を持っていた。そして……解せないことに、そいつは敢えて僕らを見逃した。あんな開けた場所で背中を見せて逃げるだけの僕らを撃ちそびれるなんて、素人でも難しい。ましてや時間をかけて索敵したであろうギルテロさんに察知されなかったのだから、何か特別な理由があると考えるのが自然だ……。


 ――――泳がされている? だとしたら、僕らは今も監視されているのだろうか。誰が何のために……?

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