第4話 影の予兆(2)
Gilthero Lanbasch 1994年7月31日 8時58分16秒 孤星天 旧レイテ市
かつて孤星天に存在したとされる王国の支配は、歴史の教科書の記述によると、千年前まで及んだらしい。それ以上のことはまるで覚えていないが、デカい戦争の一つでもあったのだとしたら、この旧レイテ市の廃墟群の惨状に少しは納得がいく。
ただの一夜にしてあらゆる街が破壊の限りを尽くされ、王国そのものが滅び去ったという伝説。いや、都市伝説程度の眉唾物の噂話だ。
石を積んで建てられた家屋が立ち並び、さぞ賑やかな街だったのだろうが、まるで怪物が踏みつぶしていったかのように一つ残らず崩れ去り、手つかずのまま時の流れに磨耗され続けている。現地のゲリラが言うには、この旧市街にはおぞましい形相の赤い騎士の幽霊がでるとかなんとか。だからゲリラたちでもこの街を初めとした先の戦争の爪痕の残る場所には近寄ろうとしない。怯えきった彼らの顔を思い出すと今でも鼻で笑えてしまう。
この墓石の群を通り抜ければ、現在の暫定政権が新たにレイテ市の名を与えた街だ。現代的な建造物がこの場所からでも見える。例の端末が傍受した情報によって、レイテ市内が騎士団の駐屯地になっていることを知った俺は、噂話を思い出しながら、幽霊よりも戦うべき敵兵を警戒しながらジリジリと歩みだした。流石に連合軍が怪談話に怯えて、重大な作戦に死角を作るとは思えない。故に、ここは既に敵地だ。対して俺はローン・ウルフを気取っている。装備もあくまで最小限。魔術師と戦える事実に喘いでいた俺は、通常兵器部隊との戦闘など頭の片隅でさえ考えていなかった。だが、魔術師との戦いとあらば、他にない絶対的なアドバンテージを握っていると自覚していた。
白兵戦における魔法の主流は
奴らに対抗するなら、奴らの撃つ魔法よりも速く、ただ速く、できる限り至近距離から攻撃することが重要だと俺は考えた。より原始的だが、確実な殺傷力、即ち斬撃。中でも取り回しの効くダガーナイフが最も有効だとこれまでの経験が答えをはじき出した。俺は格好付けてボロい真っ赤な布に何のタクティカル・アドバンテージももたらさない
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