11.噂の舎弟はリアル舎弟に喧嘩を売っている




「知ってるか。昨晩、駅前で荒川と貫名が隣町の不良を伸したらしいぜ」


「知ってる知ってる。二人に喧嘩を売ったからだろ? 馬鹿だよな。あの二人に喧嘩売るって、命を差し上げるようなものだぜ」


「ちげぇねぇ。あ、そういや荒川のヤツ。舎弟を作ったらしいぜ」


「あの荒川が? そりゃまた強ぇんだろうな」


「それがそうでも無いらしいぜ。見た目メッチャ弱そうで不良っぽくもねぇんだとか」


「そういうヤツほど、実は並外れた腕っ節があるって王道パターンだろ。空手習っていました~とか。合気道やっていました~とか。顔はイケてる。超美形。間違いなし」


 「ありそうありそう」笑いながらレジに二冊雑誌を置いてきた。

 手際よく会計を済ませレジ袋に入れながら「620円です」と、客に告げる。客はヨレた千円札を渡してきた。受け取り釣銭380円を客に渡して、レジ袋を差し出し「ありがとうございました」と頭を下げる。


 会話に夢中なのか、客は此方を見向きもしなかった。

 去って行く背に溜息をつき、利二は雑誌コーナーに目を向けた。週刊コミックを立ち読みしている同級生がひとり、ぎこちなく顔を上げて硝子越しに見える先程の客達に空笑いしていた。


 あれこそ、客達が話していた荒川庸一の舎弟だった。



 

 ◇ ◇ ◇  




 なんで休日という安息の時間にまで、舎弟という言葉に反応しなきゃなんねぇんだよ……ツイてねぇ。


 しかも何だよ王道パターンって。生憎、俺は空手も合気道もしたことがない。習い事をしていたのは、習字と塾。塾は高校受験のため。習字は母さんから無理やり行かされていた。

 一応、中二まで頑張っていたよ。中3からは塾に行く関係で習字をやめた。習字から解放されたって思った瞬間、勉強尽くしかよ! って憂鬱になった思い出がある。


 つまり体を動かす習い事なんて一切してねぇんだよなぁ。


 ちなみに顔も凡人ちゃんだよ。舎兄がイケてるからって舎弟がイケてるかっていったらそうでもねぇんだぞ。世の中。 あの客達の話からだと、王道パターンから外れている俺は邪道? いや俺は悪くないぞ。勝手にヨウの舎弟の人物像を描いたあいつ等が悪い。


 っつーか、実は並外れた腕っ節があるって王道パターン? イケてる? 超美形? 舐めるな! そんな都合の良い設定が出来る世の中じゃないんだぜ! 出来るんだったら俺はとっくに、超美形のメッチャ喧嘩強い男らしい男、田山圭太になっているって!


 それ以前に舎弟の件、お断りしているって。


「人の噂って恐いよな。皆様の噂じゃ、俺、超美形の腕っ節強い男の中の男になっているんだぜ? 利二」


「男の中の男、は言っていなかったような気がするが」


 利二は呆れたように頬杖を付いて、カップに入った珈琲を啜っていた。

 俺は利二から奢ってもらっているチキンナゲットを口に放り込む。美味い、やっぱナゲットは美味いよ。揚げたてだからマジ美味い。

 今日、俺は利二と会う約束をしていた。というか利二の方から誘ってきたんだ。今日会えるか、奢るからって。利二のことだから、先日ヨウと遊びに行くことにウザイくらいに嘆いていた俺を慰める為に誘ってくれたんだと思う。


 バイト終わったら直ぐに家に帰りたいだろうに、こうやって誘ってくれる上に奢ってくれる。


 マジ優しいっつーか、利二、お前の性格なら女の子にモッテモテだと思うぞ! いやモッテモテにしてやる! 俺、女の子にお前の良いところ教えまくってやるからな! 五木利二の良さを女の子達に宣伝しまくってやる! それでモテなかったら、うん、それは、お前に原因がある。俺のせいじゃないから。  

 薄情だけど地味に心配性な利二の行為に甘えて、俺はこうやって有り難くナゲットにありついていた。ナゲットを頬張りながら、俺は利二に礼を言う。


「サンキュな。奢ってくれて。バイト代、こんなんで削って悪いな。時給安いんだろ?」


「コンビニだしな。まあ、それなりに稼ぎはある。それより田山……」


「ん? 何だよ。もしかして食いたいか? 一個やるぞ?」


「違う…お前、喧嘩騒動に巻き込まれたそうだな」


 ……なんで知っているんだ。その騒動はまだ誰にも話してないのに。焦って食べようとしていたナゲットをボックスに戻す。利二は「やっぱりな」と肩を竦めた。


「荒川に舎弟ができた。喧嘩に参戦した。バイト中、コンビニに来る不良達の会話をよく耳にしていたから、な」


「そんなに噂が立っているのかよ。勘弁しろって……ただでさえ現状に胃が痛いっつーのに」


「お前、言っただろ。何か身の危険を感じたら、直ぐに逃げろって。なのに何で巻き込まれているんだ」


 そりゃ逃げられるもんならそうしたかったけど。

 もしもあそこで逃げていたら、ヨウの後を追わなかったら、絶対に後悔していたと思うんだよな。

 思うんじゃない、これは予感だ。きっと別の道を選んでいたら、俺はヨボヨボのじいさんになってもこの青春時代を思い出して胸を痛めるくらい、めっちゃくちゃ後悔するんじゃないか? そう感じたんだ。


 黙り込む俺に利二は吐息をついて、何があったかストレートに聞いてくる。

 先日の騒動を知っているんだ。別に利二になら言っても大丈夫だって思った。正直に先日の騒動を話せば、「自分から足を突っ込んでどうする」心底利二に呆れられた。俺も確かにそれは思う。苦笑いして俺は話を続けた。


「ヨウのダチと面識を持っちまうし、喧嘩には巻き込まれちまうし、チャリ漕ぎすぎて筋肉痛にはなっちまう。災難ばっかりだったなぁ。今改めて思うと、舎弟の件……ますます断れなくなったよな……どーしよう。利二、俺、マジで不良ロードまっしぐらだぜ」


「金髪に染めても似合わないと思うぞ。せめて茶髪にしておけ。それならお前でも似合うと思う」


「いや、そこじゃないだろ。利二」


「冗談を言ったつもりだ。今のところは笑うところだが?」


 珍しくおどけてみせる利二、だけど俺は全然笑えなかった。寧ろ助言をくれたり、ツッコんでくれたりして欲しかったな。っつーか、人が真剣にどうしようか悩んでいるのに、お前ってヤツは……こういう時に冗談言うか? そういうキャラでもないクセによ。


 引き攣り笑いを浮かべて俺は利二の足を軽く爪先で小突く。何事もなかったように珈琲を啜る利二に、微妙に腹が立つのは俺の気の長さの問題だろうか? けど俺、利二に奢ってもらっている身分だから悪態はつけなかった。

 態度で俺の心情を読み取ったのか、利二はさも可笑しそうに肩を竦めてきた。


「不良になっても変わらず接してやるから安心しろ。長谷や小崎はどうか知らんが」


「ヒジョーにウレシイお言葉をドウモ。お前はともかく、透や光喜はぜってー俺を避けるね。断言できる。利二、俺、お前の言葉信じるからな。俺が不良になっても避けるなよ!」


 光喜や透って薄情者だけど、利二も結構薄情者だからな。不良になった途端、避けそう。声を掛けたら「はじめまして」とか言われそうで恐いっつーの。

 利二の言葉を信じる一方、片隅で疑心を抱きながら俺はナゲットを口に放り込んだ。ナゲットが生温くなっている。美味いけど。「安心しろ」利二は微苦笑を浮かべた。


「不良になっても、中身を知っているからな。恐ろしさは感じないと思う」


「あんま嬉しくない言葉だぜ、それ。はぁーあ、マジさッ、俺……危ない世界に足突っ込んでいる気がする」


「それは舎弟になった時点で分かっていたことだろ。田山」


「そりゃそうなんだけど」


 俺は頬杖をついて思い出したくも無い記憶を捲る。


「変な不良に絡まれたんだ。俺」


「変な不良? どういう意味だ」


 利二の眉根が軽く寄った。間を置いて俺は口を開く。


「先日の騒動の時、俺、ヤバそうな雰囲気の不良に声を掛けられたんだ。別に何かをされたってわけじゃないんだ」


 ただ……あいつはヤバイ。地味平凡の六感が悲鳴を上げそうになった。

 虎視眈々とした鋭い眼、嘲笑を含んだ笑み、擦れ違いざまに生徒手帳を奪った手馴れた動作。記憶を辿ると、今も鮮やかに思い出せる。


 あの不良は、俺が今まで出会ってきたヨウやタコ沢とは別の不良のオーラを取り纏っている。畏れているワタルさんのオーラともまた違う。シズやモトとも違うし、響子さんや弥生ともまた違う。ココロなんて親近感を抱くくらいだから、絶対に違う。


 誰にも似ていない、俺がヨウの舎弟になってから出会った中で1番、禍々しいヤバイオーラをあの青メッシュの不良は纏っていた。全身の毛穴から嫌な汗が出てきて、思わず身震いして二の腕を擦ってしまう。

 俺の話を聞いていた利二は、今までに無く険しい顔をして珈琲を胃に流し込んでいた。珈琲を飲み干してしまったのか、軽く紙コップを握り潰して利二は重たそうに口を開く。


「田山。荒川とつるんでいる不良グループはある不良グループと仲が悪い。知っているか?」


「し、知らねぇよ。んなこと」


「自分も、バイト先のコンビニは不良の出入りが頻繁だから、嫌でも不良達の情報を耳にしてしまうだけで詳細は知らないんだが……荒川は不良達の間で有名な不良だっていうのは知っているな?」


 それは知っている。あいつは俺達不良の中じゃ相当有名だ。って、タコ沢が言ってたしな。


「中学時代から荒川は喧嘩に明け暮れていたらしい。同級生は勿論、年上も伸していたそうだしな。当然、そんなことばかりしていれば有名にもなる」


「はは……そりゃ、な」



「だが、本当に有名になったのは喧嘩に明け暮れていたからじゃない。当時、荒川の地元……田山や自分の住む地域一帯で1番有名な不良グループを伸したからだ。勿論、荒川ひとりでやったわけじゃない。荒川とつるんでいた不良達と共に、不良グループを蹴散らした。高校生だったらしい、そのグループは。その一件で荒川含む不良達は、他の不良達から恐れられるほど有名なグループになった」



 言葉も出ない。ヨウの中学時代ってそんなにスゲェのかよ。俺の中学時代なんて中二まで習字に嫌々ながら通って、中三になったら受験勉強に追われて、あとはフッツーの学校生活を送っていただけだっつーのに。

 なんか生きている世界が違うっつーかさ、同じ日本の同じ地域に住んでいるとは思えないっつーかさ。同じ学校の生徒で俺とタメって思えないっつーか、俺、本当にお前の舎弟なのか? って疑問を抱いちまうっつーか。

 とにかくスゲェの一言しか思い浮かばない。


「同時期、荒川含む不良達の間で諍いが起きた」


「諍い?」


「ああ。詳細は知らないが諍いは次第にエスカレートしていき、とうとう亀裂が生じて二つのグループに分かれてしまった」


「そのうちの一つが、ヨウのいるグループってことか?」


「そのとおりだ。よく荒川とつるんでいる貫名も、当時の騒動のひとりに関わっているらしいぞ」


 完全に潰してしまった紙コップを見つめ、利二が一呼吸置いた。


「不良グループには必ず中心となる人物が出てくる。かしら的な存在というべきか」


「あれだろ、総長ってヤツ」


「暴走族とかでいえばな。まあ、この場合グループのリーダーと言った方が適切だろうな。二つのグループに分かれた時、片方のグループの中心人物は荒川。そしてもう一つのグループの中心人物が日賀野ひがの 大和やまと


 険しい面持ちを作ったまま、利二が俺を見せてきた。


「荒川と対等の力を持つ男だそうだ。この2人相当仲が悪いらしい。自分の言いたいこと、ココまできたら何となく分かるだろ? 日賀野は青メッシュを入れている」


「まさかッ、黒髪に青メッシュなのか? 俺に話し掛けてきた奴ッ……あれが日賀野大和だっていうのか?」


 利二が口を閉じてしまう。態度で肯定と判断した俺は絶句してしまった。

 あの時、俺に話し掛けてきたのが日賀野大和だとしたら、俺の立場上絶対に危なくなる。だって俺はヨウの舎弟だぜ? 話が本当なら、ヨウを嫌っている日賀野は俺も敵視する筈。


 な、泣きたい! 冗談じゃねぇって! なんで俺が、見知らぬ不良さまに敵視されなきゃ……いや舎弟だから仕方が無いと言えば仕方が無いんだろうけどよ。

 俺が噂のような人物なら、日賀野って不良も恐くないんだろうケド、生憎俺はチャリだけが取り得の凡人日陰少年だぜ! ちなみに習字も得意だ! 習字とチャリなら任せとけ! ……そんなこと呑気に思っている場合じゃねえし。


 ヨウってそんなに厄介な不良だったのかよ。有名だってのは知っていたぜ? だけどそれは学校内での噂だけだし。


 そういえば、先日の騒動で“あいつ等”って皆揃いも揃って顔を顰めていたよな。

 ハジメって不良がヤラれていたのは、日賀野率いる不良グループのせいなのかなぁ。でも日賀野はあの騒動に直接は関わってなかったし。わっかんね、頭が混乱に混乱している。タコ沢の言うとおり、あいつと関わったことでメチャクチャ厄介なことに巻き込まれそう。もう巻き込まれている一歩手前、いや手遅れかもしんねぇけど。


 頭を抱える俺の余所で、「まさかもう接触があるとはな……」利二が吐息をつく。


「そいつが日賀野じゃないという可能性も無いことも無いが……可能性は限りなく低いだろうな。何よりお前は荒川の舎弟。日賀野が目を付ける条件は揃っている。田山、日賀野との接触のこと荒川は知っているのか?」


「……いや知らねぇ。言ってねぇから」


「知らせた方がお前の為じゃないか?」


 俺のため、か。そりゃそうだけど日賀野と軽い接触をしただけだもんな。それにこういうことをヨウに言ってイイのか、正直迷う。

 仮に日賀野と接触があって何か災難が降りかかっても、それは俺と日賀野の問題。ヨウには関係のないこと。原因がヨウの舎弟であったとしても、結局は日賀野と接触した俺の問題じゃないかと思う。


「確かに今はヨウの舎弟だぜ。だけどさ本当に舎弟って言えるような関係じゃねぇんだ。成り行きで『舎弟にしてやる』言われただけ。俺は成り行きに任せて今日まで舎弟の座に座っているんだけど、それも何時まで続くやら? だし」


「それはそうだが……」


「接触があったとしても、まだ話し掛けられた程度だしな。こういう時だけヨウにヘコヘコと頼るってなーんかイヤじゃん?」


 利二が微苦笑して、ボックスからナゲットを取って自分の口に放り込む。


「頼ることが恐い、の間違いだろ?」


「それもある。やっぱ恐いって。不良さまはさ……利二!俺、カッコは付けてみたけどやっぱ恐ぇ!どーしよう!」


「言われてもな……こうやって話を聞いてやることくらいしか出来ない。心配はしているんだぞ。長谷や小崎もそうだ。お前の前ではフザけているが、お前がいないところでは心配している。何も出来ないことは実は歯痒かったりするんだ。今日だって部活で来られなかった二人が『自分達の分まで励ましてやれ』……って、おい?田山?」


 俺、スッゲー感動した。

 薄情者だと思っていた奴等が、そんなにも俺のことを心配してくれていたなんて!

 グッゾーッ、卑怯だぞ。こういう時にそんな友情いう名の優しさを俺にしてきてくれるなんて。俺にこんなことしても涙しか出ないんだからなバッカヤロー! 嬉しいぞチックショウ! 感動のあまりに出た洟水をポケットティッシュでかむ俺に、利二は「苦労しているな」と同情してきた。


 苦労どころか、現状に胃と心臓が毎度の如く痛いっつーの。肝が鍛えられるぜ。マジで。


「しっかし利二……お前、あの二人よりも親身になって俺の話を聞いてくれるよな」


「性格上というのもあるが、お前だからというのもある。世話にもなってるしな。また泊めてもらっても良いか?」


「いつでも来いよーっ、一日中俺の舎弟不幸話聞かせてやるから」


 利二が笑ってくる。

 利二はよく俺の家に泊まりに来るんだ。本人曰く家が堅苦しいらしい。家族と上手くいっていないとかじゃなくて、何となく家が窮屈に感じるらしい。家に対する反抗期かもな、だって言っていた。透や光喜のところに泊まりに行くこともあるみたいだけど、二人とも電車通だけ家が遠い。

 同じ地域に住んでいる俺の家の方が運賃掛からないし、気軽に泊まりに来られる。


「あのアルバム買ったんだ。今度持って来てやる」


「マジで? ぜってぇ聴く!」


「言うと思った」


「良かったか?」


「お前の家で聴こうと思って、まだ聴いてない」


 俺は利二と笑い合った。それは俺にとって心落ち着く時間だった。




 適当に駄弁った後、俺と利二は店を出て帰ることにした。利二もバイトで疲れているだろうしさ。愛用チャリで来たから途中まで乗せてやろうか? って言ったけど、利二は遠慮してきた。だよな、ニケツは違反だもんな。下手すりゃ罰金科せられるもんな。

 でも俺の舎兄は平然と後ろに乗ってくるんだな、これが。途中まで俺はチャリを押して、利二と駄弁りながら帰路を歩くことにした。 


「んでもよー、モトって不良が俺を敵視してくんの。初対面とか最悪。ストレートパンチかましてきたんだぜ?」


「災難だったな」


「ほんとほんと。でも後で、取り敢えず仲良くは…なったんだぜ? 取り敢えず。ゲーム貸したくらいだしな」


「脅されて貸した、の間違いじゃないか?」


「いやそれが、おっと赤だ」


 信号機の色を見ずに歩道を渡るところだった。

 危ない危ない。車に轢かれちまう。赤信号、皆で渡っても、やっぱ車は車。轢かれたら大惨事になるって。


「赤信号、皆で渡れば恐くない……誰が考えたんだろうな? 常識的に考えたら迷惑だよな」


「まあな。物の例えじゃないか?危険なことも皆でやれば、乗り越えられる的な…そんな感じだと思う」


「危険なことでも……か。そういやさ、先日の騒動で一つ思ったことがあるんだ」


「何だ?」


「ヨウ達ってお互い仲間を大切にしているなーってこと。部外者の俺から見ても、何かまとまりがあってさ。ヨウなんて、仲間の危機にひとりで突っ走ろうとしているんだぜ? ひとりじゃ危険だって分かっているのによ」


 幾ら強くてもひとりじゃ危険だって、あいつ分かっていたくせに突っ走ろうとする。その必死な顔を見て、ああ追いかけなきゃなって思ったんだよな。結果的に厄介に厄介が上乗せされちまったんだけどさ。


「ああいうのはなんか、見ていて良かったなーって思えるぜ」



「何が良かったんだプレインボーイ。俺も会話にまぜろよ」



 俺の肩に誰かの腕が乗って寄り掛かってくる。

 いやいやいや、それよりも、今の呼び名。うわぁ、なんか懐かしいってか、本能が号泣しているっつーか、利二の顔、めっちゃ青い。信号機と同じ色。あくまで信号機の色は青だぜ。緑っていうけど俺は青だって言い張る。とか思っている場合じゃない。

 ぎこちなく視線を上げれば、黒に青がまじった髪が目に入った。嗚呼、神様、何度恨んだか分からないけどさ。今回ほど強く恨んだことないぜ。休日だってこの日に、まさか……まさかの、しかもヨウ達がいない時に、利二がいる時に…、


「今日は舎兄と一緒じゃないんだな、プレインボーイ」 


 ガムを噛んでいる日賀野大和がニヒルに笑って、俺を見下ろしてきた。


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