07.出来すぎ論
【二階堂家・次男の自室にて】
「よーし、よし。俺に近付くな。それを手放すまで俺に近付くな。近付くなよ!」
「ナニを怖じている。あたしの婚約者だろ? 快く受け入れるのが筋というものではないのか?」
二階堂家次男、二階堂大雅(17)は追い詰められていた。
幼馴染(というか腐れ縁)を前に追い詰められていた。
只今、同年の婚約者が泊まりという口実で部屋に転がり込んでいるのだが、嫌な予感はしていたのだ。彼女が我が家に泊まりに来たいなんて。
最初こそ両親と対峙しているから、家は居心地が悪く、此処に逃避したいのではないかと安易に思っていたのだが。部屋に来た途端の彼女のあくどい面持ちを見て大雅は悟った。こいつは攻め不足を補うために此処に来たのだと。
どうにか談笑という手で誤魔化し誤魔化し流れを作っていたのだが、ついに鈴理が動き出した。その手にリボンを持って自分に迫ってきた。
ただのリボン、されどリボン、持ち手によってその用途が変わることを大雅はよーく知っているために壁際に避難している。
「大雅。何故逃げる? 怖くないぞ。リボンを出しただけだぞ」
ニンマリ笑みを浮かべる鈴理に、
「それで何する気か分かってんだぞ」
お前はそれで俺様を拘束しようとしているだろ! ビシッと大雅は相手を指差した。
「いやいやそんなまさか。あたしが婚約者にそんな酷なことをするわけないではないか」
なーんて、ひらひらとリボンを回しながら鈴理がスマイルを作っているが目が泳いでいる。図星のようだ。
「テメェは俺を犯したいのかよ!」大雅の喝破に、「仕方がないではないか!」究極の攻め不足なのだから! 鈴理は開き直ったように声を張り、グズッと可愛らしく泣き真似をする。
「ちょっとだけでいいんだ。ちょっと縛ったら気が済むから。うぇーん、大雅が縛らせてくれない」
ちっとも可愛くねぇ嘘泣きである。
大雅は大きな溜息をついて肩を落とす。
「テメェのちょっとはちょっとじゃねえんだよ。昔からテメェは俺との男女ポジションを交換したがっていたが、豊福と関わり始めてから一層磨きがかかりやがったな」
グズグズと嘘泣きを続ける鈴理にキショイと毒づくと、チッと舌打ちして傲慢にも腕を組んでみせる。
「さっさとさせんか。ばか者め」
上から目線の鈴理に冗談じゃないと大雅は肩を竦め、早く受け男を取り返せと助言する。
勿論そのつもりだが、そのためのエネルギーが必要なのだと鈴理は荒々しく頭を掻き、ずんずんと大股でソファーに向かうとそこに腰を落とす。足を組んでむっすりと顔を顰める鈴理は欲求不満だと不満を零した。
「今頃、玲とあーんなことやこーんなことをされているのではないかと妄想しては欲が爆ぜそうになる。はぁあ、あたしがヘタレていたばっかりの結果だな。一生の不覚だ」
「だからって縛りはねぇよ縛りは」
「空の時はよくやっていたぞ? まあ、あいつは非力だから押えつけて無理やり縛っていたんだが。いやぁ、あいつの焦る顔が毎度楽しくてな」
笑顔で言うことじゃねえよ、阿呆。
引き攣り笑いを浮かべる大雅はえげつねぇと零した。
改めて思う、攻め女って怖ぇ。ああ、自分の身の危険を感じる。三ヶ月の間に婚約を白紙しないと自分が受け男にされてしまう。もしもそうなってしまったら、嗚呼、ガッデムである。
「豊福はよくテメェ相手に我慢できたな」
ある意味寛大な男かもしれない、大雅は感心を抱いた。
「けどよ鈴理。三ヶ月で大丈夫なのかよ。婚約を破談するスパンとしては短い気ィするぞ。親父達は俺達がガキん頃から将来を誓わせようと目論んでいた。せめて半年の期間は見積もるべきだったんじゃねえか?」
大雅は壁際から自分のベッドに移動してそこに腰掛ける。
「正直辛いな」三ヶ月で説得できたら自分を褒めてやりたい、鈴理は神妙な顔で吐露した。半分以上は見栄を張ったと婚約者の口から真相を聞き、「嘘だろ」じゃあ受け男の件も見栄かよ! 頓狂な声音を出す大雅に婚約者、「それは本気だ」駄目だったらあんたを受け男にするつもりだと鼻を鳴らす。
冗談ではない。
だったら半年にすればよかったのではないかと大雅が物申す。
「その手もあったが、半年じゃ多分、すべてが遅い気がしてな」
鈴理が口をへの字に曲げた。
「玲と空の婚約は極最近に決まったことだ。が、あの調子ならば一ヶ月後にでも正式に婚約してしまいそうな気がしてな。
なにせ、御堂家の愛娘は財閥界でも有名な男嫌い。世継ぎ問題で悩まされていた御堂家にとっては朗報も朗報の筈。半年もスパンがあれば正式な婚約式を挙げるに違いない。それだけはなんとしても阻止したかった」
「だから三ヶ月って見栄を張ったわけか。ったく、無茶だぜ。三ヶ月なんて」
あの頑固ジジイ共が簡単に婚約破棄なんて許可を出すわけも無い。
現に自分達の申し出になんの冗談だと一蹴する始末。自分達が主張に見合うような仕事をこなすと言っても相手にしてくれない。相手にしてもらわないと、証明するものも証明できないのだから困ったものである。
「お前んところはなんて?」
大雅は鈴理に視線を流した。
ちなみに自分は親父がカンカンだと肩を竦める。
似たようなものだと鈴理は冷然と伝え、決断を下してくれるまで口もきかないつもりなのだと勝気を見せた。
「そこまでするか?」呆れる大雅に、「当たり前だ」本来ならば激怒も激怒して家を出て行くレベルだと鈴理は舌を鳴らす。
「思えば、父さまと母さまが勝手に話を押し進め、ついには独断で空に別れるよう強制した。良き友人でいて欲しいなどと言うが、それは偽善だ。結局は別れろと脅しているのも一緒。式に呼んだり、こっそり会ったりッ……思い出しただけで腹が立ってきた」
「ま、その点に関しちゃ豊福も鈴理も気の毒だと思うけどよ……なあ、鈴理。あいつを助けることなんてできるのか? 玲と豊福は一歩前進した、悪い意味で」
大雅は彼等の関係に目を伏せ、借金問題について指摘する。
後輩も言っていた。自分は御堂財閥のものであり、王子のものではない、と。
きっと自分達の知らないところで何か、騒動が起きたのだろう。だから玲は空に命令をするし、空はそれに従う。傍から見てもまともじゃない関係。
一応玲の幼馴染として言わせてもらう。あの関係は玲の一番嫌う形だ。なのに、その関係を作るということは、御堂財閥内で何か遭ったのだろう。
「豊福家の借金は、正直俺達じゃどうにもなんねぇよ。蒸発した人間を捜すってのも骨が折れるぞ」
仮に婚約が破談されたとしても、向こうの婚約は破談されない。
向こうには借金という分厚い媒体があるのだ。それを無くすことは自分達が肩代わりでもしない限り無理だと思う。先ほども述べたとおり、借金を押し付けた人間の行方を捜すのは至難の業である。
一千万という大金は自分達の小遣いや貯金で、ようやく足りるかどうかだろう。
しかし集まった金を豊福家が受け取るかどうかは別問題だ。
なにより安易に第三者の立ち入る問題でもない。
それは鈴理も、挑発してきた玲も分かっているはず。空自身もその件に関しては複雑そうな念を抱いている様子だった。
「これは御堂家と豊福家の問題だ。俺達の入れる余地なんてねぇぞ」
大雅の問いに、鈴理が「そのことについてなんだがな」ちょっと小耳にした情報があるんだ、と眉根を寄せ、ソファーの背面に身を預けた。
「最近、空のご両親が弁護士を探しているらしい」
「弁護士を? ……てか、テメェがなんでそんな情報を。まさかストーキングか? ああ、てめぇならありえる」
遠目を作る大雅に「いいから聞け」鈴理が眼光を鋭くして話を続ける。
「聞いた話によると、豊福家の借金は自身が負ったものではない」
「そりゃ俺も知ってっぞ? なんでも連帯保証人になってうんぬん……で、借金だろ?」
「そこだ。あの家族がそう簡単に連帯保証人になるなんて思えないんだ。
空と関わってよく分かるんだが、あいつの家は裕福どころか、生活がいつもぎりぎりだ。
弁当の件を知っているだろう? 時々弁当すら持って来れないほど、あいつの家は
ナニが言いたいかというと、あいつの家族が“借金”を負うかもしれないサインをするとは思えないというところだ。
よっぽど信用があれば話は別だが、金銭面に関しては非常に用心深い家族だ。空のケチっぷりを見ていたらそう思えてしょうがない。
空で手一杯だった夫妻だ……連帯保証人になりはしないと思うのだが」
いや、想像ができない。鈴理は唸る。
「あいつの生活は質素だったと思うが家庭的にはとても上手くいっていたと思うし、ご両親も温かな人達だった。
空はご両親の実子ではない。元々ご両親の兄夫婦の子供だ。
事故で親を亡くし、身寄りのなくなった空をあの夫妻が引き取ったと聞いているが、引き取る前から夫妻の生活はアップアップだったそうだ。それでも空を引き取り、11年間我が子として愛育した。自分達の生活を切り詰めて子を持ったのだ。
そんな夫妻が連帯保証人になった。しかも弁護士を探しているという。
弁護士を雇うだけでも、相当の資金がいる。
それを承知の上で空のご両親が動いているということは、借金事情の根が深いということだ。
これはあくまであたしの憶測だが、知らないうちに連帯保証人にでもされてしまったのではないだろうか?
知っているか、大雅。
借金を負う十人に一人は連帯保証人のせい。つまり第三者の借金を負ってしまったものなんだ。
玲も事情を知って当事者を捜しているのではないだろうか。あいつはああ見えて、不正を許さない性格だからな。婚約した理由が不純ならば、しかも毛嫌いしている祖父の差し金なら何か裏があるのではないかと思っているに違いない」
「……なんかよ。出来すぎているよな」
「ん? どういう意味だ。大雅」
「いやだってよ」大雅は頭の後ろで腕を組み、ここ数ヶ月間の出来事を口に出しながら思い返した。
事の発端は二階堂家のM&Aがニュースで話題になったことだ。
あれを皮切りに財閥の繋がりを強化しようと親同士が自分達を強制的に婚約させ、自分達は婚約式を挙げさせられた。並行して鈴理と空は別れる。
その空が一ヵ月後、諸事情により借金を負って御堂家の一人娘と婚約。御堂家の世継ぎも決まり、竹之内家と二階堂家の関係も強化された。一件怒涛の展開のように思えるが短期間でこんなにも環境が変化するだろうか?
「特に玲達の婚約は不可解だと思わないか? 仮に俺達が婚約しなくても、豊福は借金を負う未来になっていたと思うんだ。で、肩代わりに玲のじっちゃんが出てきて……お前等はどっちにしろ別れる道を選ぶしかない。んでもって俺達は婚約しようみたいな未来になっていたかもだぜ。
なによりなんで玲のじっちゃんは、豊福家の借金を好意的に肩代わりしたんだ? 単なる孫の知り合いだぜ? そりゃ玲が好意を寄せていたってのはあるけど。一千万の借金を肩代わり、だなんて……あしながおじさんかよ」
大雅の意見に、「あしながおじさんは人質なんて取らないと思うがな」と鈴理は眉根を寄せた。
「一番に考えられるのは、玲の言っていたとおり世継問題だろうな。玲の祖父は有名な男尊女卑の思考を持つ、実力派だ。玲本人から自分に財閥を任す気はないようだと聞いているし、孫を早く生ませて財閥の基盤を作ろうとしているんじゃないだろうか? あの人は食えないと財閥界じゃ有名だからな」
「ああ。玲のじっちゃんは怖いよな。俺の親父もあの人には常に警戒心を抱いているし」
「空も逆らえない立場だ。あいつ自身の口から“御堂家のために生きて死ぬ”なんて聞かされるとは夢にも思わなかった……あいつなら本当にしそうで怖いな」
「玲の命令を聞くようになったしな」
「そうではない。あんなものは結局建前だ。玲とて、形だけだろう。それより恐ろしいのは空のご両親だ」
「両親?」
「空のバックにはご両親がいる。自分が逆らうことでご両親を盾にされたらどうする? 見ただろ。空のお母さまが倒れた時のあいつを。尋常ではない取り乱し方をしていたではないか。あいつはな、自他共に認める両親至上主義なんだ。育ててくれたという強い念からご両親のためなら、どんなことでも努力する。そう腹に決めてしまう男だ」
「どんだけのファザマザコンだよ」毒づく大雅に、「それが自分にできる償いだと思っているんだ」鈴理の声が湿った。
「あいつは目の前でご両親を喪っている。未だに自分が殺してしまったのだと思い込んで傷心を抱えているんだ。その記憶が戻ったのは極最近のこと……癒えるには相当の時間を要するだろう」
「玲は勿論、ご両親をダシにされたら、あいつはなんでもするってか?」
「きっとな。あいつの両親至上主義は時々無性に怖くなる。自分すら軽んじそうで。玲が傍にいるから大丈夫とは思うが」
「玲に任せておけば大丈夫だろ。あいつはそういう役回りに関しちゃ天下一だ」
確かに。好敵手に意中を預けるのは癪だが安心はできる。
長い付き合いだ。何かあれば彼女が支えになってくれるだろう。本当は自分が傍にいてやりたいのだが、今の自分はお呼びではないだろう。
だから玲に任せる。彼女なら彼を託すことができる。とはいえ嫉妬しないかと言ったらそれは否であるが。
「しかしこれは偶然だろうか」
鈴理も不信感を抱き、疑念を口にする。
分からんと大雅は肩を竦め、とにもかくにも親父達を説得しないことには進まない話だとベッドに身を沈めた。
人様の借金問題よりも自分達の将来問題を片付けれる方が優先だ。尤もなことを意見すると、鈴理が重々しく溜息をつき足を組みなおした。
「まったくだな。早いところ問題を解決しないと、あたしの欲が爆ぜそうだ。きっと今頃、空は玲に押し倒されたり。舐められたり。喘がされたり……切ない。とてつもなく切ない。自業自得と分かっていても。あたしも空を押し倒したい鳴かせたい焦らしたい喘がせたいぎゅーっとしたい」
「(おいおい。本当に豊福のこと好きだったのか? つくづく受け男乙だな)」
「だがしかし! 玲、空を甘く見るんじゃないぞ。空はな、スチューデントセックスを断固拒否している男なのだ。簡単には食えないぞ! 食えないんだぞ! あいつとシようとすると何故か邪魔が入るんだからな! あいつはエスケープの天才だ! ……嗚呼。でも攻めたい。空を攻めたい。できないもどかしさ。大雅」
「お・こ・と・わ・りだ。余所を当たれ。俺は受け男にゃなれん」
寝返りを打って背を向ける大雅に、
「少し! 縛らせてくれるだけでいいから! ディープキスとか、女装とか、薬とかアブノーマルは求めないから!」
と、鈴理が交渉を迫ってくる。勿論大雅の答えはNOの一点張りだ。
「ナニが悲しくて女に縛られにゃならん」
言うや否や、その場から飛び退いて甘いと一笑。大雅が顧みると鈴理がリボンを持ってベッドの上に弾んでいた。
チッ、舌打ちを鳴らす鈴理はしくったと顔を顰める。
「大雅! ケチはいかんぞ! 空のケチは可愛いがあんたのケチはむかつく!」
「そーかそーか。そりゃ良かったな。俺はケチだから縛られてやんねぇよ。けど、そうだな。俺は優しいから言葉なら掛けてやってもいいぞ」
「ほお。あたしを悶えさせてくれるような台詞でもくれると?」
任せろ、頷く大雅はにやっと片口角をつり上げて一言。
「可愛らしく“縛らせてください”って言え。そうしたらテメェを縛ってやる」
プチのブッチン。
向こうの短い堪忍袋の緒が切れたようだ。
「あ、あたしに向かって言えとはなんだ、言えとは。しかも縛ってやるだと? ほざくのも大概にしろ!」
怒り心頭するあたし様にバーカと大雅は指でさして大笑いする。
当然今のはわざとである。なにせお互いにあたし様俺様、上から目線は毛嫌う人種であるからして、こんな台詞を吐けば当然鈴理はキレるであろう。
「食らうぞ!」吠える鈴理に、「やってみろ! 返り討ちにして食ってやらぁ!」と大雅。
両者肉食という名の攻め魂に火を点けて睨み合う。
やや鈴理の方が威圧的で優勢のように思えるが大雅もまた何様俺様肉食様と自負しているため、ここで負けるわけにはいかない。受け男など論外なのだ。
男は女を食う。女は男に食われる。
そういった持論を持っているがゆえに、ええい、食われて堪るかドチクショウ。おんどりゃ食っちまうぞと相手を威嚇しておく。性格的に負けていたとしても、だ。受け男にはなれない! 自分は攻める生き物なのである!
……ただ宇津木ワールドの中のような攻め男を妄想されてしまうと幾分切ないものを感じるのも否めないが。
あたし様vs俺様。
この勝負はどちらに軍配が挙がるのか。結果を出す前に引き分けとなってしまったのはこの直後。
「あんれ? お邪魔だったかな」
第三者の声が勝負をノーカンにさせたのだ。能天気な声音に睨み合っていた二人は一変して瞠目、出入り口に目を向ける。
するとそこにはカゴを持った青年、大雅の兄・楓がひらひらっと手を振っていた。
「ノックくらいしろって兄貴」
ゲンナリ顔で注意する大雅に、「ごめーん」悪びれた様子もなく楓が片手を出した。
次いで、持っていたカゴを両手で持つと二人にそれを見せて目を輝かせる。
「鈴理ちゃんが遊びに来ていることだし、お兄ちゃん、張り切ってりんごを買ってきたんだ。三人で食べよう」
「は?」
「だーかーら。りんごを買ってきたんだって大雅。鈴理ちゃんが来るなんて久しいじゃないか。今じゃ大雅の婚約者で、将来は僕の義妹になるかもだからね。ここはおもてなしを! と思ってさ。うーんっと、りんごを剥いてあげるからちょっと待っててね。確かカゴに入れてきたんだけど……あ、あったあった」
さあ、剥いてあげる。
片手に熟れたりんご、片手にカッターナイフを持って満面の笑顔を浮かべる楓に大雅は深い溜息をつき、鈴理は目を点にした。
「兄貴……てめっ、馬鹿だろ?」大雅のツッコミに、「あ。やっぱり?」と楓は苦笑した。
「だってしょうがないじゃないか。これしかなかったんだもの」
楓は肩を竦めてりんごに目を向けた。
「梨が良かったよね。僕も梨の方が好きだし」
「そっちじゃねえよ!」
大雅は兄の電波な性格に苛立ち、歩み寄って拳骨をかます。
「アイッター! なにするのさ!」声音を張る楓に、「馬鹿か!」今時の小学生だってカッターナイフでりんごを剥こうとは思わねぇよ! と大雅。
すると楓は馬鹿は大雅じゃないかと脹れ面を作った。
「カッターナイフが紙や鉛筆を削るために生まれてきたとでも思っているのかい?
そんなの人間の価値観によって定められた認識に過ぎない。カッターナイフでりんごを剥く人間だって世の中、探したらいるものじゃないかな。つまりナニが言いたいかっていうと決め付けは駄目ってお兄ちゃんは言いたいんだよ。カッターナイフは紙を切るために生まれてきたんじゃない。切るために生まれてきた物なんだ!」
認識の範囲でりんごが剥けないというのなら、今此処でカッターナイフを使い、りんごを剥いて見せようぞ! それによりカッターナイフは一段、進化するだろう!
きっぱり言い切った楓の主張に大雅はもうヤダと遠目を作り、鈴理はぽかーんと呆ける他にない。
「楓さん。相変わらずだな」
「……マジ、ハタチ過ぎている男がナニ言ってやがる。時々兄貴の電波についていけなさ過ぎてリアクションに困るんだよな。ははっ、泣きてぇ。俺、弟やめてぇ」
落ち込む大雅を余所に楓が真面目にりんごをカッターナイフで剥こうとしたため、我に返った弟が全力で死守。
カゴに詰まっていたりんごは丸かじりするということで落ち着き、三人で大きな果実をがじがじと齧り付くことになった。
仲良くソファーに腰掛け、がじがじ。三人でがじがじがじ。
楓は剥いた方が絶対に食べやすかったのに。丸かじりだと歯茎から血が出ることがあってヤなのに、等などとカッターナイフを奪われたことに対して恨み節を唱えていたが、カッターナイフで剥いたりんごを食べるくらいだったら丸かじりの方がマシだと大雅や鈴理は思ってならない。
「ところで兄貴。てめぇなんの用だよ」
がじがじとりんごに齧りついている兄に大雅は疑問をぶつける。
咀嚼をしている楓は口内のものを嚥下すると、りんごを一緒に食べようと思ったのだと一笑。
べつに大きな用事など無かったらしい。が、大雅自身、それは嘘だと思えてならない。
だからこそ追究する。本当は用事があったんじゃないか、と。
最初こそへらへらっと笑って誤魔化していた楓だったが、流れが変わらないと肌で感じると一変して含みある微笑を浮かべた。
「大雅達の婚約破談が浮上しているでしょ。お兄ちゃんは心配してきたんだよ……なーんて建前では言ってみるけど、実は親に説得してくるよう頼まれた刺客さ」
なるほど、だから部屋に来たのか。
納得した大雅は何を言われても、自分達の意思を曲げるつもりはないと兄に物申す。これは自分と婚約者の問題、将来どころか生涯に渡る問題なのだ。簡単に親に決められてなるものか。
冷然と告げ、説得するつもりで来たなら部屋に戻れと素っ気無く返す。
「あたしも同意見です」
これは自分達の問題ですから、鈴理も義兄予定の楓に気持ちを伝えた。
両者の気持ちを耳にした楓は驚く素振りもなく、寧ろ好意的に意見を聞き受けた。
次いで、楓の口からこう告げられる。「僕は説得するつもりで来たわけじゃない」と。
「僕はね。別に二人が決めたならそれでいいと思ってるんだ。というより、今回の一件は強引過ぎた。大雅があんなに嫌がっていたのに、勝手に子の生涯を決め付けてさ。困ったものだね、うちの両親にも。僕はホトホト呆れて物が言えないよ。鈴理ちゃんもごめんね、うちの親が頑固で」
「楓さん……いえ此方の両親も強引でしたから」
力なく笑う鈴理に目で笑い、楓はりんごにかぶりつく。
「じゃあ兄貴は何しに」眉根を寄せる大雅に、「手を借りに来た」楓が眼鏡のブリッジを押して口角を持ち上げる。
手を借りに来た、なんてこれまた話題性から外れた台詞である。
一体どういう意味だ、大雅は言葉を重ねる。
シャリシャリとりんごを噛み砕く楓は、ソファーから腰を浮かすと窓辺に向かった。
「大雅。鈴理ちゃん。財閥界はビジネス界でもトップを争う実力社会だ。実力者だけが物を言える社会で成り立っている。つまり自分達の主張を通すには、それなりの実力を持っておかないといけない。
分かるね? 両親の指示を仰ぐばかりじゃ時間が経つばかりさ。
相手は目先の財閥強化に心奪われている両親達。口頭じゃ話は平行線のままだ。財閥のために、そう思うなら相手の指示を待つんじゃない。自分達が考えて行動を起こさないと話にならない。
これからのビジネス界に必要な人材もこれに匹敵する。指示を待つだの仰ぐだの人材はいらないんだよ。
なにより即戦力になる人材を社会は欲している。君達もその人材にならないと。
実力を見せ付ければ親達は何も言わなくなるさ。あの頑固者たちは実力行使で君達を婚約させた。
なら、此方も実力行使で破談するまで。
目には目を、歯には歯を。
そういう手を娘息子に使われても向こうは文句が言えないだろうね。先に仕掛けたのは親なんだから。
親達が躍起になって財閥の繋がりを強化する理由は財閥の“共食い”にもある。
最近目立ってきているんだよね。財閥が財閥を食べて上にのしあがろうとする家が。
二階堂家が提携している企業にM&Aをしたのも財閥の“共食い”を未然に防ぐため。そして竹之内家との繋がりを強化しようとしているのも以下同文。
子供の将来より、財閥の存続に親達は願いをこめているのさ。財閥よ、栄光あれ……といったところかな。
僕は君達の手を借りたい。不穏なことに、また何処かの財閥が“共食い”を嗾(けしか)けているようなんだ。これを止めれば君達の実力は嫌でも認められる。どう? やってみない?」
窓辺に立ってりんごにかじりついていた楓が顧みて一笑してくる。
「兄貴……俺達の味方になってくれるのか」
腰を浮かして立ち上がる大雅に目尻を下げると、
「僕はね弟や妹が可愛いんだ」
君達が困っていたらどうしても手を差し伸べたくなるお節介な性分なのだと肩を竦める。
「大雅、鈴理ちゃん、好きにやってみたらいいんだ。財閥の古臭いしがらみなんて取っ払えばいい。これから財閥を先導するのは僕達世代なんだから。今の生き方が嫌なら実力で示せばいい。財閥の古臭い考えで傷付く必要はない。何処まで親の説得に繋がるか分からないけど、やる気があるなら僕の部屋においで。僕は君達の実力を信じるから」
高校生でやれるか、なんて不安は無用で不要。やるしかないって分かっているだろう?
にっこり微笑む楓は一変して、「親も鈍感でさ」自分達財閥が狙われているってことに気付いていないんだよね、と頭部を掻く。
「なんで気付かないんだろう。僕でも気付くのに」
うんぬん唸る楓はまったくおかげで長男が動かないといけないじゃないか。そう言ってりんごをかぶり。
「ゲッ。汁がシャツに落ちた」
お皿を持って来るべきだね、困った困ったとりんごを持ったまま楓が部屋を出て行く。りんごくらいカゴに置いていけば良いんじゃないかと思うのだが。
自分ペースに話を進める楓を呆けながら見つめていた鈴理は、息を吹き返して笑声を漏らす。
「あの人は目ざといな。本当は実力者なんじゃないか」
そう指摘すると癪だがそう思っていると、大雅がぶっきら棒に返した。
「兄貴は実力あるんだよ。ただ優しいからな。利害に渦巻いている財閥界は肌に合わないみてぇだ。けど、兄貴は隠れた実力者だ。ドジ踏みながらも俺達を守ってくれる。昔からそうだ。俺と百合子が他の財閥の令息令嬢からいじめられると、誰よりも早く俺達の下に駆けつけて守ってくれた」
今でも思い出す。駆けつけてくれた時の兄の言葉を。
いつもは舐められてばっかな優しい表情を崩し、鬼のような形相でこう言い放ったのだ。
『公の場で二階堂家と宇津木家を虐げるとは良い度胸をしているね。そうやって君達は自ら財閥の滅亡に足を踏み入れているんだ――大事な弟と許婚にこれ以上手を出してみろ。将来、僕は君達の財閥を滅ぼす。必ずっ、何年かかっても必ず!』
見栄を張った台詞だと思った。
けれど兄の眼は本気も本気だった。
その後、行われたチャイルド会合と呼ばれる財閥の令息令嬢がつどった集会では兄が虐げた財閥達の短所を挙げ、具体的な数値。グラフ。情報を出して意見した。
この財閥と関わっても損害が出る一方だと言わんばかりの負の意見に、何も知らない令息令嬢はそれを鵜呑みにした。
将来この財閥と関わるべきではないのかもしれないと考える素振りを見せたのだ。向こうの青褪めた顔を今でも大雅は鮮明に憶えている。
暴力ではなく財閥流の礼儀で相手を伸した兄は、自分達にもう大丈夫だと優しく微笑んでくれた。
嗚呼、敵わないなと思った瞬間。いつもドジばかり踏んで周囲を呆れさせている電波な兄、けれど誰よりも実力のある男なのだと悟った。
兄はいつも自分達を守る。味方になる。支えとなる。
今回もそう、両親の期待より、自分を優先の気持ちをしてくれた。ほんとに兄には敵わない。
「ムカつくな。普段は電波なくせに、ここぞって時に男になるんだからな。そんな男を俺も支えたいって思うじゃねえか。許婚共々さ」
「……大雅」
「言っとくがこれは俺が決めていることだぜ? 百合子と兄貴の仲は俺が取り持つ。あいつ等の仲を裂くような輩がいたら、ぜってぇぶっ飛ばす。てめぇは自分で決めて豊福を迎えに行くんだろ? 取り返すんだろ? グーズグズしてっと玲に心まで奪われるぜ。まだ豊福はどっかでテメェのことが好きだろうしさ」
お前は豊福のヒーローになりたいんだろ?
大雅が鈴理に問い掛けると、柔和に綻んで首肯した。
「なら頑張ろうぜ。俺もてめぇを奥さんに持つなんてごめんだしな」
そう言って齧りかけのりんごに目を向けていた。
□
両親が納得しないなら、納得させるだけの行動を起こす。
口頭で言っても理解を示してくれない両親に焦れていた二人に、二階堂楓が助言と救済の手を差し伸べてくれたため、鈴理と大雅のやるべきことは決まった。
楓の話によると、二階堂家と竹之内家が各々提携している企業が他の財閥に狙われている傾向があるというのこと。
水面上に出ているわけではないが、提携している企業の複数の売上が下降していると指摘した。
それを証明するための企業の財務諸表分析と、提携している企業の経営診断をするべきだと楓は教えてくれる。
「仮に企業の売上が落ちているとしたら、企業の経営戦略を見つめなおす必要性がある。これは専門の診断士がやることだから、幾ら財閥の僕等が口を出しても向こうは聞いてくれないだろう。
だけど財務諸表分析は資格がなくともできる。
ああ、ちなみに財務諸表は企業の成績表とでも思ってくれればいいよ。経営戦略ってのは、あー、学生でいう勉強のやり方とでも思ってくれたらいいんじゃないかな。難しいことを言ってもワケわかんないし」
とにかく成績、つまり売上が落ちてしまったら当然財閥に損害が及ぶ。
先を読んで親を唸らせるデータ分析をすれば、もっと言えば他の財閥に提携している企業が食われないよう未然に防げばふたりの実力も認められると思う、と楓は語る。
ただし二財閥を合わせた提携先の企業の数は膨大だ。これを纏めるには相当の時間を費やすことを忘れないで欲しい。
「このデータを分析すりゃ、共食いってヤツは未然に防げるのか?」
大雅の質問に楓が頷く。
「先手を読んで行動するということは、企業の弱点を早期発見するということ。並びに共食いを仕掛けようとしている相手方の先を読むということなんだ。向こうの動きを読んでおけば、こっちだって対策が打てるだろう? だからこそデータの分析は重要なんだ。大丈夫、僕も手伝うから。それから鈴理ちゃんのお姉さんにも」
「え?」瞠目する鈴理に、実はこっそりと上二人の姉に交渉を持ちかけたのだと楓はウィンクする。
「三人じゃ一年は掛かってしまうからね」
それに実力を見せるとはいえ、手助けなしに親を唸らせるのは至難の業だ。高校生の二人はやはり未熟なのだから。
こういうことは大勢でするべきだと楓は綻ぶ。
「しかし、それではあ親が納得するかどうか」
鈴理の不安に楓は二人だけじゃどうしようもない時があると苦笑を零す。
鈴理たちに限ったことじゃない。ビジネス界だって一企業で事業を確立し、上場企業として名を挙げていくのは至難の業だ。ビジネス界は常に競争で渦巻いているが、一方で共存という手もある。
力を合わせて企業を盛り上げていかないと中小企業の場合はやっていけない。
だから手助けは必要なのだ。より良いものを築き上げるためにも。
「完璧なものして親を納得させればいいんだよ、鈴理ちゃん。親を唸らせたらこっちの勝ちなんだから。重要なところは大雅と君に任せるし。分からない時はお姉さん達にも聞いてみてごらん。きっと良い知恵を貸してくれるだろうから」
あまり乗れる助言ではなかったが、楓の言うとおり、自分と大雅だけでは到底できそうにない大仕事だった。
毎晩のように財務諸表と呼ばれる企業の成績表を眺めたり、専門用語を調べたり、経済の本を読んで勉強をしてみるものの分からないことばかりで白旗を挙げそうになった。
学校の勉強ができても、社会に通用するような勉強は未熟だと痛感した鈴理はついに意を決して姉二人に歩んだ。
自分達に協力してくれると楓伝いに聞いてはいたが、本当に協力してくれるのか半信半疑。不安を抱えながら長女咲子と次女真衣に声を掛けた。
すると二人は笑顔で自分を迎え入れると快く願いを聞き、手を貸してくれた。
夜通し咲子の部屋でやり方や見方、どうすれば親を説得するだけのデータ表が作れるか。助言を求めては、自分の力でそれを完成させていく。婚約者達と共同作業とはいえ、楓の言うとおり量は膨大で気が滅入りそうだった。
それでも死ぬ気でやればどうにかなるに違いない。
そう信じて鈴理はデータと向かい続けた。必死に分析している自分が微笑ましかったのか、ある日、咲子に聞かれてしまう。「本当に彼のこと。好きなのね」と。
「彼と一緒にいたいから、頑張ってるんでしょう?」
咲子の問い掛けに照れながらも鈴理は頷いた。
「元カレはいつも環境を自力で変えようとしました」
彼の背中を見てきたこそ、今度は自分がやらねばならないと衝動に駆られている。
本当に好きなのだと姉達に気持ちを伝えれば、「知っていますよ」だから私達は貴方に手を貸しているのだと真衣が綻んだ。
「だって鈴理さん。空さまにキャーッ! なことをされていたんですよね。ああぁあ、空さまにどんな鬼畜なことを!」
「フッ、真衣姉さん。毎度のことながら言わせないで下さい。あたしは攻める専門ですよ! あたしが鬼畜なことをするのです。そう、キャー! とさせるのはあたしなのですよ! 女は攻めてナンボですし!」
「まあ鈴理さん。女性は男性に攻められてナンボなのですよ。一見人が良さそうな男性でも、その瞳の奥に滾らせた欲をぶつけられると思うと。わ、私も是非男性に攻められたいです。耳元で『俺のものになれ』と囁かれた日にはっ、キャッー!」
激しい妄想をした真衣はポッポッと頬を赤らめ、なんてときめくシチュエーションでしょうと暴走している。
「いえいえ」ときめくシチュエーションは男に耳元で囁いて赤面させることなのだと鈴理。早く元カレを食ってしまいたい、なんぞとぼやく始末。
双方正反対の意見をぶつけていつつも、妄想の内容が内容である。咲子は妹達の妄想に呆れる他なかった。
その内、咲子の部屋に四女の瑠璃もやって来るようになる。
三人で仲良く和気藹々と談笑しているのだと思ったのだろう。
最初こそ部屋に訪問した時は不機嫌も不機嫌、のけ者にされたことを恨んでいた。が、鈴理が婚約破談のために仕事をしているのだと知るや邪魔しないよう傍にいて良いかと聞いてきた。
こうして四姉妹が集うということが滅多に無かったのだ。久しい光景に瑠璃は姉達の傍にいたいと申し出た。
邪魔しないことを固く約束させ、鈴理は姉妹達と共に日々を過ごした。昼間は婚約者と自分達の出来る範囲の分析を、放課後は楓達の手を借り、夜は姉達の助言に耳を傾ける。
限られた時間でやれるだけのことをやる。
それは多忙ながらも充実した日々だった。
時に心が折れそうになった日もあったが、周囲の優しさが鈴理の心を支えてくれた。
両親とは相変わらず隔たりがあり殆ど口をきかない状況だったものの、鈴理が姉妹達と過ごすようになったことに何か思うことがあるらしい。
よく観察されるようになった。視線を感じつつも、鈴理は姉妹と当たり前のように会話するようになる。
あの頃のように隔たりも評価も気にせず、純粋な気持ちで長女、次女、そして四女と駄弁る。過ごす。笑い合う。それがこんなに楽しかったものかと、鈴理は思えてならない。
「ねえねえ鈴ちゃん。鈴ちゃんは空ちゃんのどういうところが好きになったの?」
夕飯時の会話も弾むようになった。
普段ならば姉妹の会話に相槌を打つ程度なのだが、ここ暫くは姉妹達と談笑することが多い。
鈴理は瑠璃の質問に、「努力を惜しまないところだ」と答える。理不尽な環境でも努力で乗り越えようとする直向な心が大好きなのだと意気揚々に笑った。
少しケチ、じゃない、節約心が残念な気持ちにさせてくれるがそれも彼のチャームポイントだと思えるほど好いている。早く食べてしまいたい奴なのだと雄々しい発言を添えて妹に言い放った。
「鈴ちゃん肉食だねぇ」
能天気に笑う瑠璃は自分も素敵な恋がしたいなぁっと夢見る顔を作る。
まだ恋という恋をしたことがない、姉のような燃える恋をしてみたいと瑠璃は恍惚に宙を見つめる。
「ほんとよねぇ」
私の恋なんて最悪だった。なんたって男が三股していたのだから、咲子が自分の体験談を暴露。もっとイイ恋がしたかったと鼻を鳴らして苛立たしげにグラスの水を食道に通した。
「恋をするなら肉食の男性が良いですわ」
これまた夢見の顔を作る真衣が、俺様のモノになれと言われてみたい。何処かにきっとそんな男性がいる筈だとすっかり乙女モードに入っていた。
嗚呼、こうして四姉妹で恋愛の話を気兼ねなくできる。
忘れかけていた気持ちを擽られ、鈴理は姉妹達の傍がとても心地良いと感じていた。
昔もこうして彼女達と談笑していたっけ。絶えることのない笑声を暖かなBGMとして聞き流していた鈴理は思うのだ。
それまで自分は評価という環境の檻に囚われていたが、勇気を出せば簡単に環境など変えられるのだと。
確かな変化を姉妹を通して見出すことができたためか、鈴理は環境の打破に対する気持ちが一層強まる。
このままでは終わらない終わらせない終わるつもりはない。自分は限界まで挑戦してやる、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます