「秋山が立たされた理由」欄のある学級日誌 13.5冊目🍔

如月 仁成

予告編 トケイソウのせい


 ~ 七月二十一日(土) ~


  トケイソウの花言葉 恋の激しい苦しみ



「暑う! 車から出たらまるで別の国だな!」


「…………正次郎まさじろうさん」


「おう! どした、ダリア!」


「…………ちょっとソコへ座れ」


「ほんとどした!? なにか気に障った!?」


「モット暑い国でフィールドに立つこともあるのに。カバディ界の頂点を目指す男がこのテイドで暑いとか、情けない」


「目指してねえ! まったく、お前はどうして俺をカバディ選手にしたがるんだ? ……おい。ひかりの手を引いてどこへ行く」


「ジッカに帰らせてもらう」


「待って! ちょっとは選手の件も考えとくから行かないで! あと、ひかりも、嬉しそうにママにしがみつくんじゃないよ!」


「……おじいんとこ、いくの?」


「そうよ、ぴかりんちゃん。電車ですぐ。オジイのとこへ行きましょう、一生」


「電車でなんか行けるか」


「…………ウソ。東京で乗り換えレバ、きっと地下鉄ですぐ」


「路線図にぽつんと書いてあったらみんな驚くだろうな、サンクトペテルブルク。日本海はともかく、中国の下とかどうやって掘る気だよ」


「…………丸ノ内線ナラバ、五年後くらいにひょっとして」


「ねえよ。諦めろよ」


「…………そうやって、この極東の島国にアタシを縛り付けてどうする気だ!」


「その島国のマンガにあこがれて永住決めたのはどこのどいつだよ。……さあ、早く別荘に入ろうぜ。暑くてかなわねえ」


「…………ちょっとマテ、正次郎まさじろうさん」


「ぐえっ!? 首のタオルを引っ張るな!」


「そこでハンバーガー買っていこう」


「あとにしろあとに」


「そういうワケにいかない。ぴかりんちゃんをヒトジチにとられた。逆らった場合、命を取りそう、あの店員」


「ねえよ、良いやつそうじゃねえか。ひかりも楽しそうにしてるし」


「嗚呼、ソノ油断が命取り。今に殺される」


「ねえよ」


正次郎まさじろうさんが」


「俺だったのか。予想外だ」


「アタシに」


「お前だったのかよ! 予想外過ぎる!」


「さあ、助かるためにはハンバーガー」


「しゃーねーな。……それにしても、ひかりがよく懐いてる。あの兄ちゃんなにもんだ?」


「ぴかりんちゃんの、ホントウのパパ」


「…………」


「ナクナ、正次郎まさじろうさん。……あと、少年、ニゲロ。アタシのジョークが、今、君の息の根をとめようとしているカラ」



 こうして俺は。

 十数年ぶりに顔を合わせたまーくんと。

 炎天下、壮絶な鬼ごっこを繰り広げました。


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