ロボット家庭菜園

ちびまるフォイ

傷一つない完璧なロボット(観賞用)

「大きくな~れ、大きくな~れ」


マンションの屋上に広がる大きな家庭菜園場。

今日もすくすくと巨大ロボットが成長していた。


「あら、奥さん。今日もここにいらしていたんですか?」


「お隣さん。ええ、時間ができるとついここにきてしまうんですよ」


「ロボット、大きくなりましたねぇ」

「ええ、本当に」


2人は畑から高々と伸びる巨大ロボットを眺めていた。


「私も昔はロボット菜園に挑戦しましたけど、

 関節部から崩れてしまったりで、うまくいかなかったんです」


「そういうときは添え木をするといいんですよ。

 2足歩行ロボットがまっすぐ伸びますから」


「そうなんですねぇ。搭乗はなさらないんですか?」


「いえいえ、これはあくまで観賞用ですから」


おほほ、と笑うと2人の間に穏やかな時間が流れた。

お隣さんが戻り、菜園の後片付けを終えた奥さんも戻ろうとしたとき

真っ黒いスーツを着た2人組の男がつかつかとやってきた。


「奥田さんですね?」


「え、ええ。そうですけど、いったいどうしたんですか?」


「我々は国家ロボット大好き研究所特別本部推進室のものです。

 あなたがここで巨大ロボットの生育をなさっていると聞いてやってきました」


「ああ、そうなんですね。でも大丈夫ですよ、ちゃんと近隣の方々にも

 このマンションの方々にもちゃんと許可と同意を得ています。

 もちろん、国からの許可も得たうえでやっていますから」


「そうですね、それはこちらも把握しています。だからこそ来たんです」


「というと?」


「あなたのロボットは実に素晴らしい出来なんですよ。

 どこにも傷がなく、まっすぐで、大きくて、武装も充実している。

 そうでしょう?」


「ええ、観賞用ですから」


「観賞用? ご冗談でしょう?

 こんなにも美しくて、実用的なロボットが出来上がっているというのに

 何にも使わないなんて国への反逆だとは思いませんか?」


「そんな! 私そんなつもりでは!」


「まあ、あなたがどう思おうとこのロボットは回収いたします。

 あなたが搭乗しないと誓っても、誰かに譲ったりする危険もありますからね。


 国の監視のもとしっかり管理・運用させてもらいますよ」


「待ってください! それは私の育てたロボットです!」


たったひとりの市民の力で国家権力にあらがうことなどできるはずもなく、

必死の抵抗むなしく家庭ロボット菜園のロボットは持っていかれた。


奥さんはがっくりと肩を落とし、もぬけの殻となった畑に戻ってきた。


「……あら?」


畑をふと見ると、コアが畑に残されていた。


ロボットには緊急脱出用に組み込まれているものが、

きっと持ち去られるときに発動してコアだけ畑に残ったのだろう。


「ああ、よかった。ロボットはもうないけれど、またイチから育てましょう。

 今度はもっと美しい観賞用のロボットを」


めげずに奥さんは畑の土質から肥料、与える水にまでこだわってロボットを育てた。

最初はダンボール装甲だったロボットも大きくなるにつれ、美しいメタリックに。


かいがいしい世話が実を結んで、ついに巨大ロボットへと育った。


それも以前よりずっと美しく、完璧なものになっていた。


「やったわ、あきらめないでよかった!!」


奥さんが喜んでいると、張り付くようなねちっこい拍手が聞こえた。

振り返らなくても拍手の主が誰なのかは察しがついた。


「いやぁ、おめでとうございます。見事な巨大ロボットですねぇ」


「またあなたたちですか! もういい加減にしてください!」


「おっと、そうはいきませんよ。

 あなたはもしかして、この畑にあったコアを使って育てましたか?」


「え、ええ……。それがなにか? だって私のロボットのコアですよ!」


「いえいえ、もう今では国に所有権も搭乗権もあります。

 だから、あなたは国のコアを使って勝手にロボットを生育したということですよ。

 これは押収しないといけませんねぇ」


ハッと気づいた時にはもう遅かった。


「まさか! わざとコアだけ残していったのね!!」


「まったく、あなたのロボット生育技術は本当に見事です。信じたかいがありました。

 あなたなら、もっといいものを作れると信じていましたから」


国の役人たちはロボットを押収する。


「こんなにも完璧で整ったロボットをモニュメントのように

 ただ飾るなんてもったいない。

 試運転と証拠隠滅をかねて、ここは消えてもらいましょう」


「やめて! その子は観賞用なんです!!」


「ハサミとなんとかは使いようですよ、奥さん」


役人はコックピットを開けてロボットに乗り込んだ。

男心を高めるような計器の数々に胸がおどる。


大きく息を吸い込んだ役人は、レバーハンドルを握って操縦へと移る。


「さぁ、発進です!!」





と、その瞬間、コックピットから役人が真っ青な顔で落下した。


「し、死んでる!!」


さっきまでぴんぴんしていたのに、操縦したとたんに死亡した。


「貴様、なんて殺人ロボットを作ったんだ! 姑息なトラップなどしかけやがって!」


「そんなことしてません! 何度も観賞用だと言ったじゃないですか!」


「それがなんだというんだ!」




「観賞用だから、人体に有害な農薬や肥料をたくさん使っているんです」



それきり、国の役人はその美しいロボットに近づくことは二度と無くなった。

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