第17話 パープルラビットスレイヤーズ

ギルガメッシュの宿泊客が就寝した後でタリーと貴史、そしてヤースミーンは戦いの支度を始めた。



「作戦はこうだ。荷車にキャベツとジャガイモを入れた箱をのせて、俺たち三人でオラフの小屋の辺りまで行く。パープルラビットたちは冬になって餌が少なくなっているから積み荷の匂いをかぎつけて途中で仕掛けてくる。そこを返り討ちにするというわけだ。」



手作りのクロスボウをセットアップしながらタリーが言う。いつの間にかヤースミーン用も作ったらしく、使用可能なクロスボウは二挺に増えている。



「でもやつらが使う眠りの魔法はどうするんですか。今日だってもう少しで眠らされそうだったのに。」



貴史が心配していたことを口にすると、タリーは懐からなにやら取り出して貴史の前にかざした。ジャーンという効果音を口で言いそうな勢いだ。



「これは、トリプルベリーに来る途中で旅の僧侶から買い取った魔封じのお守りだ。これがあれば低レベルな魔族の魔法ごときはじき返すことが出来る。」



タリーは上機嫌で支度を続けた。貴史も戦士用の篭手や胸当てを着けながらヤースミーンに訊いてみた。



「あのお守り効き目があるのか?。」



「さあ、あの手の物は使ってみないと効果は判りませんから。」



既にバニーガールの衣装から魔導師のローブに着替えて待機しているヤースミーンも少し心配そうに答える。



貴史がブレイズの剣を背中に背負おうとしていると、タリーがクロスボウと一緒に倉庫から持ってきていたものを貴史に差し出した。



「シマダタカシ、このカタナを倉庫で見つけたのだがおまえは使うことが出来るか。私の世界でJMAFの士官がこれと似たようなのを使ってものすごい切れ味を見せてくれたことがある。」



「JMAFってなんですか。」



貴史は受け取ったカタナを調べてみた。見たところは日本刀だ。鞘から中身が滑り出さないように金具が着けてあるのも同じようだ。



「略さずに言うと日本海軍航空隊だな。私の両親が亡命した国の軍事組織だ。私自身は亡命者や参戦していない友好国の人間で組織された義勇航空隊に属していたのだ。」



タリーは貴史がいた世界とは違う歴史を歩んだ世界で日本に相当する国にいたようだ。貴史はパチンと留め具を外すと日本刀を抜いてみた。



鈍く光る刀身には規則正しい波紋が見えた。その波紋は刀の裏表できれいに揃っている。貴史は自分がザワッと鳥肌だつのを意識した。



「良い刀ですね。今日使ってみます。」



刀の刃渡りは七十センチメートルほどだろうか。振り回すのに手頃な長さだ。貴史はこの世界にも日本に相当する国があるのだろうかとぼんやり考えながら刀を鞘に納めた。タリーはその様子を見て微笑む。



「あの、もし良かったら私にも手伝わせてくれませんか。先ほどは名乗っていませんでしたが私の名はバンビーナ。母はベルタといいます。」



声をかけてきたのはエルフのボーノの娘だった。傍らには母親も佇んでいる。



「いや、手伝って貰うと言ってもあなた方の体格では戦いには不利なのではありませんか。」



タリーの言葉に母親のベルタが答えた。



「この子は近くに魔法を使う者がいるとその方向が判るのです。連れて行けばきっと役に立ちます。」



タリーがどうしようかというように貴史とヤースミーンの顔を見るのでヤースミーンが口を開いた。



「戦いになったら私がバンビーナさんを守ります。一緒に来て貰いましょう。」



それを聞いてタリーも腹を決めたらしく、バンビーナに告げた。



「わかった、手伝ってくれ。すぐに出発するがいいかな?。」



「もちろんです。」



バンビーナは元気に答えた。



準備が出来た一行は、深夜の荒野を抜け森に差し掛かった。先頭を行くのはタリーで、貴史は荷車を引いていた。



ヤースミーンとバンビーナは荷車の荷台のへりに腰掛けて、おしゃべりに興じていた。どうやらオラフや自分の子供時代のことで盛り上がっているようだ。



「一時期、人間の村に出かけて小麦畑を踏み荒らして丸や渦巻きを描くのが流行ってしまったんですよ。」



「それ、私も知っています。妖精の仕業だって結構な騒ぎになっていましたよ。」



「そのいたずらをする時はいつもオラフが先頭に立って、今日はもっと大きい渦巻きにするぞってみんなを引っ張っていたんですよ。」



貴史はオラフの顔を思い浮かべながら悪ガキだったんだなあと思って苦笑した。



そして、バンビーナはオラフに会いたくて就いてきたのではないだろうかと考えて、彼女の表情を伺ってみた。



夜とはいっても満月が中天にかかっている。草原の道を歩く分には不安がないほど明るかったが。森の中では、道の在処がやっと判る程度だ。



森の中をしばらく進むと、タリーはポケットから魔封じのお守りを取り出して首にかけた。



道の周囲の森の中からは、何者かが落ち葉を踏むカサカサという音が聞こえている。



「ヤースミーン、奴らが来たみたいだ。」



貴史が振り返って告げると、ヤースミーンも矢を装填済みのクロスボウを手に取って立ちあがった。貴史が前方に目を移してタリーにも声をかけようとすると、タリーは突然立ち止まった。



何かあったのかと、貴史が緊張した時、タリーは膝を折って崩れおちる。



「タリーさん、大丈夫ですか。」



貴史が駆け寄って抱き起こしてみると、タリーは寝ていタ。貴史はタリーを肩に担いで荷車に戻りながら叫んだ。



「ヤースミーン気をつけろ、魔封じのお守りは効き目がないみたいだ。」



だが、声をかけても無駄だった。



「もう寝ちゃっていますよ。」



バンビーナが指す先で、ヤースミーンもクロスボウを抱えたまま座って眠り込んでいた。

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