壱ノ不思議 廊下の怪(18p)

子供の頃、好きな人のイニシャルを彫刻刀で彫った事を後悔したわね」

「えっ、どこどこ? 何処に彫ったの?」

 私は落札された机の額より、雪絵お姉さんが彫ったと言う好きな人のイニシャルの方が気になった。

「もう止してよ。秘密よ! 部屋は掃除したし、シーツも布団も新しい物を用意したから、自分の部屋だと思って好きに使ってちょうだい。ただし、私の青春の後を探すのは止めてちょうだいね」

 私は未練がましく机を見つめ、しかし、雪絵お姉さんのためにイニシャルを探すのは諦めて、自分の荷物をこの部屋に運ぶ事にした。

 私は部屋を出て、キィキィ廊下を鳴らせながら、まだ部屋の中にいる雪絵お姉さんの「荷物は居間に置いてあるからぁ!」と叫ぶ声に「はーいっ!」と返事をした。

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