美少女が人間を食べるやつ

黄鱗きいろ

第38回ワイルドライフ・グラフィック ~アラクネ族のひみつ~

 こんにちは、ワイルドライフ・グラフィックの時間です。

 皆様は半人というものをご存知でしょうか。人魚や獣人やエルフ。絵本の中のおとぎ話で見たことがあるという方がほとんどでしょうね。

 しかしこの半人、実は絶滅の危機にあるのです。

 今日はそんな絶滅寸前の半人である、アラクネ族の生態について見ていきましょう。


[感傷的なBGM]

[この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りいたします]


 アラクネ族は多くの半人の例に漏れず、人を避けて暮らしています。半人というのはいつの時代も迫害の対象で、人間に追われて生きてきたのですから当然ですね。

 彼女たちが住むのは、険しい山岳の側面に開かれた洞窟です。彼女たちは日の光を浴びることを好まず、多くの個体はこの洞窟の中で生涯を過ごすことになります。

 先ほどから彼女たち、と言っていますがこれは比喩ではありません。彼女たちアラクネ族には、メスの個体しか存在しないのです。この理由は後から分かりますのでお楽しみに。

[カメラが洞窟を映す]

 さあ、まずは彼女たちの姿を確認して見ましょう。今回用意したのは9歳の孤児の少女です。カメラを持った彼女を追い立てて、洞窟の中へと進ませます。少女は泣き喚いていますが、孤児なので人権はありません。当然ですね。

 さあもうすぐアラクネ族が見えますよ。よーく目を凝らしてみてくださいね。

[薄暗い洞窟の中を映すカメラ]

[天井からはほんの少しだけ日光が差し込み、幻想的な雰囲気になっている]

[泣いていた少女はそれに見とれている]

[その時、その光を遮るように巨体が少女の目の前に現れる]

[少女の悲鳴]

 見てください! あれがアラクネ族です!

 身長はおおよそ2.5メートル。体長はゆうに4メートルは超えています。上半身は裸の女性。下半身は巨大な蜘蛛でできています。

 かなり大きな個体ですね。少女を迎えにきたのでしょう。その表情は穏やかな笑顔を浮かべています。

[少女の悲鳴は続いている]

[カメラが地面に転がる]

[少女にアラクネ族が歩み寄り、かがみこんでその体を持ち上げる]

[暴れる少女の口に異形の唇を合わせて深くキスをする]

 どうやら最初の接触は成功したようです。アラクネ族は女性が巣に迷い込んでくると、ああしてキスをする習性があるんですね。

 さて時間を少し飛ばしてみましょう。

[怯えていた少女に人間の衣服を与え、食事を与えるアラクネ族]

[薄汚れた少女を綺麗に洗っている]

[一緒に遊んでいるアラクネ族の子供と少女]

[互いに心を許し、平和に暮らす少女たち]

 これがアラクネ族の第二の習性です。キスをした人間のメスを、アラクネ族は必ずこうして歓待するのです。巣に迷い込んだ人間はやがて外に戻ることも忘れて、ここで幸せに暮らすことばかりを考えるようになります。

 当然ですがアラクネ族のこの行為は無償の愛ではありません。これは彼女たちにとって重要な意味を持っているのです。

 時間をさらに数週間飛ばしてみましょう。

[徐々に健康になっていく少女]

[その代わりに少女の下半身は少しずつ膨らんでいく]

 そろそろですね。さあ皆さん、見逃さないでくださいよ。

[少女の悲鳴]

[腹を食い破って出てくる蜘蛛の足]

[それを嬉しそうに見つめるアラクネ族]

 ああ、始まりました! アラクネ族の変異です!

 ここまで見れば察しのいい方はもうお分かりですね?

 アラクネ族というのは、キスをすることで人間のメスに変異を促し、自分たちの仲間にしてしまう生き物なのです。少女を歓待したのは、健康な状態で変異させるためだったんですね。

[悲鳴は徐々にくぐもった声へと変わっていく]

[やがて悲鳴は消え、血まみれの一頭の小さいアラクネ族が出来上がる]

[見つめていたアラクネ族は喜びの声をあげ、彼女を水場で綺麗に洗い始める]

 こうして新たなアラクネ族が一頭生まれました。モニターでそれを観察していた保護団体も歓声をあげています。

 ところでアラクネ族が何を食べているのか、気になっている方もいらっしゃるでしょう。

 今回、ワイルドライフ・グラフィックは独自に彼女たちの捕食風景を入手することに成功しました。

[洞窟に追い立てられていく一人の男性]

 さあご覧ください。あれがアラクネ族の好むエサです。

 彼は孤児であるあの少女を買い取って飼っていた男性です。今回、重大な不正を働いていたことが判明し、”アラクネ送り”になりました。

[男の持ったカメラが洞窟内を映す]

[天井からはほんの少しだけ日光が差し込み、幻想的な雰囲気になっている]

[男はそれに一瞬目をやった後、洞窟のさらに奥へと進んでいく]

 彼には洞窟の奥には他の出口があると教えてあります。その出口から出ることができれば彼は無罪となるのです。まあここだけの話、そんな出口なんてないんですけどね。

[天井からの光を遮る人影]

[そちらを見上げる男]

[カメラに映されたのは、新しくアラクネ族となった少女]

[男の悲鳴]

[飛びかかってくる少女]

[カメラが地面に転がる]

[次々に男にアラクネ族が飛びかかる]

 ああ、見てください! 一番美味しい脳みそを、新入りのアラクネ族が食べています!

 なんて心温まる光景でしょう。アラクネ族は子供の個体を慈しむ、高い知性を持った半人なのです。

[男の悲鳴が徐々に消えていき、肉を食む音だけが響く]

[バラバラになった男の死体が映る]


 今週のワイルドライフ・グラフィックはお楽しみいただけたでしょうか。

 次週は魅惑の歌声と鋭い鉤爪を持つセイレーンを特集いたします。

 それでは、次回にまたお会いしましょう。


[感傷的なBGM]

[この番組はご覧のスポンサーの提供でお送りいたしました]

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